第37話 見覚えのある所長

 そして新しい場所での初出勤初日。


予定の時間よりも1時間も早く目が覚め、早々と準備をする。

トイレに行き、歯磨きをし、暖かいお湯を頭にかけ寝癖を落とし髪を乾かす。そして最後に自分の顔を鏡で見つめる。


いつもの俺の朝のルーティンだ。

朝の自分の顔を見るだけで、その日一日が上手くいくかどうかわかっていた。ただ今回は環境が変わり今日が初出勤だ。

だからまだどれだけ鏡で自分の表情を見てもわからない。


だが、前向きな表情をしていることだけはハッキリとわかった。


 「よーし!今日から頑張るぞ!」

と家で声に出し自分を持ち上げ、残りの準備を済まし家をでる。


 せっかく新しい環境だし何か自分も新しいことをしてみようと思った。


 悩んだ結果思いついたことは、


そう!朝ごはんを毎日食べることだ。

皆からしたら当たり前だと思うが俺は朝食べなくても生きていけた。元々人間は昔1日2食だったらしい。その後戦争に負け新しい文化を取り入れ経済を発展させる為、1日3食になったと聞いたことがある。

それに俺は朝ごはんを食べると胃の調子が悪くなることがよくあったっていうのもあるが、少しでも自分の楽しみを増やしたくこの事をすると決めた。


そして行く途中にコンビニが見え車を止める。

朝のコンビニはお客さんが多い。昼ほどではないがよく並んでいた。まぁ周りに他の店が何もないからだろう。


 その混雑したコンビニの中で俺はソーセージパンとコーヒーを買った。

少し変わったことをすると自分自身が成長した気がする。

以前転勤した時の初日は行く前本当に緊張していた。

それが今日はなくなっている。


やっぱり朝ごはんの力はすごい。

ネガティブになると難しい考えを持つクセに、意外と単純なところもある。

そして時間も近づきいよいよ新しい営業所に足を踏み入れることになった。


 以前よりも半分の大きさ。周りも静かで、自分の家の周りと同じような雰囲気。

正面入口がどこにあるかわからないほどの小さいよくあるプレハブ小屋のようなドアだった。


そのドアをノックし空けると3人ほどの女性の事務の方とその奥にもう一人、この人が所長であろうと思われる方が電話をしていた。


 事務員「海さん。おはようございます。初めましてー!」


順々に3人の事務の方が笑顔で挨拶してくれた。

とても雰囲気のいい人だった。


 事務員「ここまで来るの遠かったでしょー!おつかれさま。本当ここら辺は田舎だし遊ぶところなんて全然ないけど空気も綺麗だしいい所よ。あっ。でもさっき遊ぶ所ないって行ったけど、若者が集まるショッピングモールなら近くにあるわ。私もよく行くんだけど、その中にあるパン屋さんが最近テレビにあげられたんだけど、本当に美味しくてー。今はすっごい行列。大行列よ。前までそんなことなかったんだけどねー。やっぱりテレビの力って凄いわ。そう!メロンパン!メロンパンがほんとに凄いのよ。普通のメロンパンてさぁー中が.....。」

すごくフレンドリーな方。


 朝からの弾丸トークに圧倒してしまった。


すると向こうで電話を終えた所長と思われる人が俺の方に向かってきて挨拶をした。


 「僕がここの所長をしております。谷山と申します」


ん?


どこかで聞いたことある名前?


あまり覚えていない。


見た目ぽっちゃりで、頭も年のせいか少なくなりつつあるが顔は本当に優しそうな顔。


どこかで見たことあるな。 


しばらく悩んでいると所長が俺の手を両手で掴んできた。


 「海くんやっぱり覚えてくれてないかね?私だよ。以前〇〇様の打ち合わせの時一緒に仕事した」


あっ!


すべて思い出した。俺は以前、この所長と俺と小春の3人で一度だけ、その日1日だけ仕事をしたことがある方だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る