第34話 辞令
俺は転勤することになった。しかも遠いところへ。
急にだ。なんでだ?今まで転勤はちょくちょくしていたが近場だった。
それに子供ができてから考慮してくれて、転勤をさせないよう上司が止めてくれていた。
なのにこんな突然言われるとは。
まさか...。
俺と小春の事が会社にバレたのか?
一瞬全身が凍り付く。
なぜバレた?急に彼女が辞めたからか?でも確信は皆にはないはずだ。
仲は良いと周りから言われていたが不倫関係になってるとまでは皆に思われてないし、怪しいことも会社や外ではしなかったはず。
しいて言えばあの日夜景を見に行った夜。その時ぐらいだ。
でもその時には周りには若いカップルしかいなかったはずだ。
そのカップルがこの会社にいる誰かの子供か??
いやでもそんなに近づいてないし、俺たちだってことがわかる距離じゃなかったはずだ。
バレたとしたら本当に大変なことになる。それだけは勘弁してほしかった。
やっと家族の一員になれた俺。頑張って一歩踏み出したところだっていうのに、まさかこのタイミングで。
俺は今までしてきたことを神様に謝った。
神様ごめんなさい。俺は今まで人として最低なことをしてきました。
今一歩踏み出したところなんです。どうか。どうかお許しください。
家族にだけバレることはどうしても避けたかった。
ひたすらひたすら神様に謝り続けた。
ごめんなさい...。
ごめんなさい...。
....。
「海くん。こっちに来なさい」
奥の部屋から俺の事が呼ばれた。
部長だ。
俺はもう終わった。全てなにもかも。今から本当の地獄の始まりだ。
そう思い下を向きながら部屋に入る。
「ここに座って」
部長が低い声で俺に伝える。
元々見た目も怖いし、この人の笑顔なんて見たこともないから、顔を見ただけでは全く判断できなかった。
精神がボロボロに痛めつけられた俺はその重い腰をなんとか下ろし座る。
部長「海くん。辞令だ」
海「はい」
部長「勤務地も遠いから単身赴任をせざる負えないだろう。それは申し訳ない」
海「はい」
部長「どうしてもそこの営業所の所長が海くんを推薦してね。なんとか止めようとしたんだが」
海「えっ?」
バレてなかった。
いやいや。バレてないのはよかったが、推薦?どうして?
よくわからなかった。
部長「とりあえず。推薦とのことだ。しっかり頑張ってくるんだぞ」
頑張るって言われても急に推薦と言われて頭がぐるぐるしてしまう俺。
でも...。とりあえず、バレてなかったことは良しとしよう。
部長が少し部屋を離れた後俺はホッと一息をつき肩を撫でおろした。
本当。びっくりした。
小春が急に辞め、俺のテンションが下がり、その後立ち上がろうとして元気に振舞うも、皆からは冷たくされ、本当バレたと思っていた。
ん?てことは??
ただ単に俺がそこまで皆に好かれていないだけか?
普通これの事が確信に変わると一気に落ち込みその後の仕事も肩身を狭くし、影を潜めるのが普通だが、俺はバレていない安堵が数万倍大きく気持ちがすっきりとしていた。
そして転勤が決まり、妻にも単身赴任になった事を伝えた。
離れることに悲しんでいたが、妻は
「推薦されていくんだから自信もっていかないとね。私たちとしばらく離れちゃうけど、離れてても応援してるからね。今のパパなら大丈夫。いつでも辛くなったら言って。大丈夫!私がいるから。頑張れ!」
と言ってくれた。
子供たちも俺と離れることを悲しんでくれた。
「パパ遠いところにいくのー?パパと一緒にいたい」
そんな可愛いことをたくさんたくさん言ってくれた。
俺が作り上げてきた。大事な家族。大切な家族。
離れているけど守らなきゃ。
そう心に決め、俺は転勤の日を迎えた。
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