第29話 真実

 彼女のその言葉を聞きとまどいを隠せない俺は彼女に言う。


 海「そんなことないよ。なんで...?」


 小春「なんでってなんで?」


 海「確かにあの時はそうだったかもしれないけど、今こうして会うとやっぱり一緒にいたいって思うんだ」


 小春「でもまた同じことになるよ」


 海「同じことになっても俺が小春のこと好きな気持ちは変わらなかった」


 小春「...でもいつも通りにできずに話せなくなったでしょ?」


 海「...」


 小春「もう海ちゃんには私はいらない。必要ないの」


 海「...」


 小春「だから今まで通り奥さんと子供たちを大事にして」


 海「...」


 小春「海ちゃんには私は必要ないの」


 海「俺は子供も妻も大事だ。でも小春もそれと同じぐらい大事なんだ...」


 小春「うん。ちゃんと伝わってるよ」


 海「じゃあなんで?」


 小春「...だから」


 小春「だから離れるの」


俺は何も言い返せなかった。どうすることもできないこのもどかしさ。

しかし彼女もだんだんと言いにくそうなのも明らかに見てもわかるぐらいだった。

離れたくない気持ちが言葉とは真逆で見てたらすごく伝わってくる。

俺はあきらめたくなかった。


1分程二人の沈黙が続き。俺は意を決してもう一度彼女に伝える。


 海「今までどおり小春と一緒にいたいよ...大好きだよ」


諦めずに言った。


何度も何度も言った。


何度も。


何度も...。


そして最後についにこの言葉を小春が口にする。





 小春「私のおなかの中に子供がいるの」


 海「...えっ?」

俺の頭が真っ白になった。そして頭の中でもしかして?という結末が一瞬よぎり動揺を隠せなくなってしまった。


すると小春が言う。

 小春「海ちゃんの子じゃないから安心して」


 小春「だから...だから...私も海ちゃんのこと必要じゃなくなったの。もう必要ない..」


俺はなにも言い返せなかった。


そうだ。

だからあの時。

彼女を抱きしめた時、彼女からいつもとは違うなにか暖かい家族のぬくもりがしたのかと今になって気づいた。


いつもとなにか違う感じがしたのは俺の方にも少なからずあったのかもしれない。

けれど事実として彼女の方にも変化はあったのだ。


考えもしなかった衝撃の言葉。態度にだし落ち込み、そして泣くこともできた。

子供のようにヤダヤダと言いながらジタバタすることもできた。


でも俺はしなかった。以前に同じことを俺が彼女にしてしまったからだ。


すごく悔しい。


間違いだけど俺の小春と思っていた。


それを他の男にとられたなんて。


旦那さんとなんだかんだしていたのか。


でも俺も同じだった。


俺は何も言えず、彼女の目も見る事もできず、ただただ下を向いていた。



そして....



改めて小春は言う。



もう終わりにしよう。

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