第28話 小春の思い
冬が始まり、外は雪がちらつき自分が吐き出す息で手を温めていた12月。
連絡を取りあい、俺はやっとの思いで彼女と二人で話す機会をもらうことができた。
何日無視されたことか。約一週間。
それもそう。
こんな期間もほったらかしにしていたら当然ラインなんか返ってこない。
だが奇跡的にブロックはされていなかったんだ。
逆に既読がついただけでも嬉しい。
ラインで思いを伝えるよりも直接目を見て話したかったから、「会って話そう」と送ったあとからは一日に一回だけ仕事の内容を少しだけ送る。
それも当然既読だけついて返事はこない。
既読スルーって他の人からしたら嫌だけどその時の俺にしてはそれが彼女との唯一のコミュニケーションだった。
無視され続けていた俺は会社で何度も自分から目をさりげなく合わせてみたり、彼女が会議室から出るときのタイミングを見計らってわざとその前を通ってみたり。
今思えばストーカーとして被害届出されなくてよかったと思うほどだった。
その思いもなんとか無事に伝わり、誰もいない公園で俺たちは待ち合わせすることになった。
俺が先に公園に着き、冷たくなったベンチに腰掛けタバコに火をつける。
1本目。
2本目。
3本目。
3本目が吸い終わる頃、公園の中心にある噴水のその向こうから、下を向きながらこっちにやって来る彼女の姿が見えた。
俺の方に近づくと、30センチ程の距離をあけ同じベンチに座った。
彼女にも心境の変化があったのかな。
そう思いながら俺は覚悟して彼女に話す。
海「ずっと避けててごめん」
小春「避けてたのは私の方だから」
海「あの日。あの夜景を見に行った日。すごく幸せだった」
小春「うん」
海「小春から初めて大好きと言われて、どんなことがあっても愛してるよって言ってくれて本当に嬉しかったんだ」
小春「うん」
海「幸せを味わってたんだけど、あの後、小春を送った後その幸せが急に終わって、家に帰ると自分の家族の笑顔が頭から離れなくなったんだ」
小春「...。」
海「ただの罪悪感なのかもなと思って...。小春に会えばまた幸せな気持ちになれると思って会いにいったんだ」
海「それで小春の家に入って小春を見たら案の定幸せは帰ってきた」
海「だけどなんかがおかしくて、途中で辞めちゃって」
海「だから一緒にいるだけでもいいと思って後ろから抱きしめてたでしょ?あの時..。」
海「あの時なんだけど小春にいつもの香りが俺にはしなかったんだ」
海「小春の家族の匂い、母親として一生懸命頑張ってる。そんな香りがしたんだ」
海「だから話せなかったし、避けていた。申し訳ないのと一緒にいたいのにが葛藤してたけど」
海「今まであんな香りなんてしなかったのに。なんであんな幸せを手にした直後に。」
海「でも俺は小春の事が好きなんだ。これだけはきちんと言える。身体だけの関係じゃなくて本当に、本当に一緒にいたいんだ」
しばらく下を向いて黙っていた彼女が口にする。
「もう私がいなくても大丈夫だよ。海ちゃん」
怒った感じでもなく、拗ねた感じでもなく、ただ今までの別れの言葉の中で一番芯を通して言ってるように俺は聞こえた。
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