第26話 人間の本能

 あの日から全く言葉を交わすこともなくなった俺たち。

 トイレの出入り口でばったり会って目を合わすこともあったがそれぐらいでその後何を話すわけでもなくそのまま別の方向に向かう俺たち。


 会社での通路のすれ違いですらも向こうから彼女が来たなと思えば、わざわざ手前の道から曲がって近づかないようにしていた。


 もちろん初めは意識をしていた。急に話さなくなったし、ラインもこなくなったから、もしかしたら拗ねてるだけかも、俺が歩み寄っていけば仲直りできるかも、と。


せっかく彼女にあの日星空に包まれながら言ってくれた言葉。どんな思いで、俺にいってくれたことか。それにもかかわらず、嫌いになったわけではないが幸せを手にしたことで一瞬にして冷めてしまった俺。

申し訳なさがあった。


やはりないものねだりをしたかっただけなのか。それだとただ彼女の心をもて遊んだだけだ。ホント彼女にとってもいい迷惑である。


だがもしこれが二人とも家族がいなかったら冷めてしまうことはなかったのかもしれない。

そりゃあもちろんそうなってないし、ハッキリ言えたことではないが、そうやって人は運命の人と思い見つけ結婚していく。

俺だって、彼女だってそうだ。


でも前に俺の家族が増え、その時に別れた時期があったが、その時と今の感情は全然違う。


彼女のことを決して嫌いになったのではない。

冷めたとは初めは思っていたが彼女に会ったときは本当愛おしくなった。そこには癒やしがあった。


恐らく彼女から家族の香りがしたのが原因なのかもしれない。

以前から、彼女の旦那さん、そして彼女の子供に対して申し訳なさはあった。燃えてしまった時もあったが。


でも彼女に会うとその申し訳なさも吹き飛びただただ彼女だけを見ていた。


あの香りがしたとき、彼女は誰かの妻であり、母であることに気づいたのかもしれない。


もっと早く気づけば...。


じゃあ彼女は?

俺を抱きしめたとき何か香りはしていたのか?


俺と同じで分からなかったから気持ちを伝えてくれたのか?


確かに子供ができ、別れようと伝えたときはわりとスムーズに身を引いてくれた。


でもその後辛そうにしてる俺を見て手を差し伸べてくれた。


その時にその香りはしなかったか?


でも本当にただ大切な人ならキスまでしなくてもいい。とゆうかちゃんと分かっていればしてはいけない。

でも俺たちはその1線を越えてしまった。


自分の子供は他のどんなものよりも宝物だけどキスはするが愛し合うことはしない。

妻は一度はこの世で一番好きになり、結婚し、キスをしてそして愛し合う。


両方比べても同じぐらい大切な存在。

なのにするとしないがハッキリと人間の本能で線引されている。


大人の身体になると愛し合いたくなるのか?

それが人間の本能?


じゃあ一体彼女の存在は俺の中では何になるんだ?


俺はその後もこの疑問が解決できず、彼女の事を置き去りにし、ずっとこんなことばかり考えていた。

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