第25話 違和感
なんとか頭をスッキリさせた俺は小春の家の近くのコインパーキングまで事故なく無事に辿りつくことができた。
だがいつもなら車を降りるとすぐに全速力で彼女の家まで走っていた俺が今日は足が金槌のように動かない。
さっきまで考えていたことが車を降りた瞬間再度頭によぎる。
一旦落ちつこうとその場でタバコを吸った。今日は本当にタバコを吸うことが多い。
もう一度自分の頭の中で整理した。
俺は彼女が好きだ。
ずっと言ってくれなかった大好きという言葉をやっと彼女は言ってくれた。
ずっと一緒にいたいと言ってくれた。
なのにそこまで元気になれない。
家に帰れば家族の楽しそうな姿が頭によぎる。
彼女は俺のような状態になっておらず今日また会えることが嬉しそう。
何度もこの事を繰り返し、気づいたら車から降りてタバコを五本も吸っていた。
よし。彼女に会ってみないとこの答えは見つからなさそうだ。今日も時間あるし、一緒に時間を共有しよう。
そう決心し、最後の一吸いに気合いを入れ、彼女の家まで足を運ばせた。
いつものようにチャイムを鳴らしドアノブを持ち、そっと開ける。
その先には前と同じ、頭から毛布を被せ、身体全体その毛布で身を隠している彼女の姿が見えた。
そっと近づき毛布をめくるとノーメイクのおぼこい姿の彼女が子犬のようにこっちを見ていた。
その時、一瞬にしてさっきまで考えていた事が全て頭の中を一掃したのだ。
本当、彼女に会うという効果はすごい。
やっぱり俺は彼女が好きなんだ。
さっきまで冷めてた俺、なんだったんだ。
彼女は自分の人差し指をそっと俺のほっぺたにさし、
「海ちゃん。おはよう」
と優しい言葉をはなった。
それに愛おしく感じた俺は彼女にキスをし、服を脱がす。そしていつものように愛し合おうとしていた。
気持ちよくなかった...。
キスをしたときから流れでここまできたけど。
彼女を。
彼女を愛おしく感じたはずなのに全然愛を確かめあうことができなかった。
なぜだ。
何もできなかった俺に気づいた彼女は
「疲れてるのかな?」
と優しく頭を撫でる。
「かもしれない」
と子供がつくような嘘をつき、おのおの服を着てそのまま二人でソファーの上で横になった。
横になっても彼女を後ろから抱きしめていたが、前のような甘く優しい香りは匂わなくなっている。むしろ彼女が一生懸命家の用事をし頑張った家庭的な香りが強く勝っていた。
もしかしたらその香りがしたときは以前にもあったのかもしれない。
だけどその時は俺がこんな考えになっていなかったからそこまで気にならなかったんだ。
ただただ自分が愛することに夢中で、夢中すぎて彼女のその隠れて頑張っている姿を見ようともしなかったのかもしれない。
俺は彼女のその家庭的な香りと戦っていたが、その匂いは強烈でそれを打ち砕く自信を失わせる程だった。
自信を失った俺は彼女に触れる事を止め、なにか映画でも見ようかと提案し、普通今のこの状況とは逆であるアクション映画を帰る時間まで見ることにした。
彼女は終始いつもと変わりなく笑顔で楽しそうにしてくれていたが、恐らくそれは本当の笑顔ではなく俺に対して気を遣っていたのだろう。
それは次の日、その次の日から彼女からのラインは一切来なくなり、会社で話すことも一切なくなったからだ。
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