第21話 優しい夜空

 彼女の誕生日も無事に終わり、俺たちはいつものように仕事をこなしては会いを繰り返していた。

お互い休みの日は朝それぞれの家族が出ればおのおの自分たちの家の用事を済ませ、9時頃には彼女の家にいく。


 お互い仕事の日は俺が休憩時間を彼女の仕事終わりに合わせ、一時間の休憩の中で彼女の家に行き、お昼ごはんを食べ、そして愛しあってを繰り返していた。


それに、以前よりも周りの人からも怪しまれることはなくなり要領もよくなっていた。



 とある仕事の休憩中、俺はいつものように彼女の家に行っていた。

 

 「今日、夜妻と子供がいないんだ。友達の家に遊びに行ってそのまま泊まるみたい」

俺は夜会えること、会いたいということをさりげなく彼女に伝えた。


 しばらく何も口に出すことなく俺の顔を見て、少し嬉しそうな顔をしていた。

何か言って欲しそうだ。


 「せっかくだから小春が無理じゃなかったら夜会いたいなと思って...」

俺はボソボソっと声にだした。


すると彼女が柔らかい身体で俺を包み込み頭を撫でてくる。

 

「ありがとう。私も会いたい。だから頑張ってみる」


彼女の求めていた言葉を返すことができた俺は嬉しくて、包み込まれたその先の奥の胸と自分の顔をめいいっぱいくっつけ、ヨシヨシのおねだりをしていた。


 「とりあえず仕事頑張ってくる。また大丈夫そうか連絡してね」

と最悪の状況は想定内であるということをさりげなくアピールしつつ、彼女にキスをし仕事場に戻った。


 仕事中も、夜のことで頭がいっぱいで正直仕事にはならなかった。

いつも落とさない手帳を床に落としたり、部下からの質問が右から左に流れ、何回もその内容を聞き直したり。


 普段からこんなわけではない。

やはり人間恋をすると、嬉しい事があると、それに浸ってしまい他に集中できなくなる。

人間ってそんなものだ。


 そんな一日ダメ人間になっていた俺は、なんとか問題なく仕事を終わらせ、会社から車に乗りスマホを開く。


 彼女からのラインだ。


 「夜オッケーだよ。何時頃から会えそう?」

その言葉に思わず車の中で「よっしゃ!」と口に出しガッツポーズをした。


 俺の家にはすでに家族はいない。家に帰って準備したら出られる。


 「21時頃には会えそうだよ」

そう伝えた。


近くのコンビニの前で集合することになり、俺は法定速度ギリギリのラインを保ちながら家に着き、今日仕事の時とは打って変わって超効率よく会いに行く準備をした。

鼻歌を歌いながらでも効率が良い。誰が見ても、この人すごいな。と思うほどだ。


 彼女の一言で一瞬にしてデキる人になった俺は帰ってきてわずか10分で全ての用事を済ませた。明日の仕事の準備、皿洗い、洗濯物たたみ、着替え。


 デキる人になった俺は彼女に「今から出るね」とラインを送り、もう一度家の最終チェックをしてから家をでた。


 やっと彼女と夜初めて一緒に過ごせる。どこに行こうかな。

思わず顔がニヤけてしまう。

そう思いながら事故をしないように、なんとか彼女がいる待ち合わせの場所まで行った。


 車から降り空を見上げると、星でいっぱいで俺を少しだけでも輝かそうとしてくれているように見えた。


 夜の空は俺たちに優しい。

こんな俺にも輝かせてくれるなんて。


そう星空に感謝していると、目の前の横断歩道の向こう側で、髪を簡単におしゃれに束ねた彼女が笑顔でこっちに駆け寄ってきた。


 誰にも見られていないこの星空でいっぱいの夜。

 

 俺たちが輝く時間の始まりだ。

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