第20話 黄色い小さなお花のピアス

 ついに小春の誕生日を迎えた。

今日は仕事もお互い休みを取り、彼女の家で誕生日を一緒に過ごす事にした。


朝9時から昼の15時まで。

少しでも長く二人の時間が欲しかった俺たちは、どこかに出かけることもなく家で2人で過ごすことになる。

前回自分の子供が体調悪くなり、急に引き返さないと行けなくなり、それが分かってから帰るまでの空気は今でも忘れない。

もうあんな事は味わいたくないと、俺も彼女も思っていたのだ。


いつものように妻と子供を見送り、家の家事をある程度して、服を着替えタイミングを見計らい家を出た。


空を見上げると、今日も太陽は雲に隠れ雨が降りそうな天気だった。


 「お天道様。本当にありがとう」

 「今日だけは。今日だけは見逃してください」

 「自分がいけないことをしてるのはわかってます」

 「今日だけは許してください」

とお天道様に感謝の気持ちとお願いを伝えながら彼女の家に向かった。


 そしていつものパーキングに車を止め、トランクから渡すプレゼントを取り出す。

 誰にも見つからないようにトランクに置いてる収納ケースの奥の奥にしまっていたから袋がシワになってしまっていた。


 せっかくの誕生日プレゼント。本当はちゃんと渡したかった。


 悔いを残しながらそっとトランクを閉め、彼女の家の前に着き、「今から入るね」とラインを送る。


 「はい♡」

かわいいハートを付けながらすぐに返事がきた。

すぐに返事がきたことと、このかわいい二文字を見ただけで彼女が相当楽しみにしてることが伝わる。


 ドアを開け、靴を脱ぎ、そっとリビングに入るドアを開けると、ソファーの上に体育座りをして毛布で全身くるまっている彼女の姿が見えた。

 足音を立てずに静かに彼女に近づき、顔であろう毛布の部分をゆっくりめくる。


 そのふわふわとした京都西川の毛布の中から目をキラキラさせ、上目遣いで俺を見てくる彼女がいた。


 俺は小さな声で


 「小春。誕生日おめでとう」

と言い、そのまま彼女のおでこにキスをした。


 「ありがとう」

と小さな声で言った小春はその後俺のおでこにキスをしかえす。


 その真似する行動が可愛すぎて、俺はくるまっていた毛布の中に入り彼女と愛しあった。

彼女の匂いに包まれたこの毛布。


甘く柔らかな匂い。

誕生日は彼女なのに、俺が祝われているような気分だった。

 その後も二人でたくさんキスをし、またして、少し休憩してまたして、の繰り返し。

午前中ほぼそれに時間を使っていた。


 お昼も近づき全てを出しきった俺たちは、頭が真っ白になり、全く話が噛み合わずひたすらだらしなく笑う。

 

 馬鹿になった俺の頭はしばらくして少し正常になり、玄関に置いていたプレゼントを彼女に渡した。


 「はい。これ」

シワになったプレゼントを渡した。


 「えー?買ってくれたの?」

ビックリした様子で彼女はそのプレゼントに目を光らせる。


 「少しシワクチャになっちゃったけど、選んで買ってきた」


彼女は喜んでくれた。

子供が親から誕生日プレゼントをもらった時のように。


 「開けてもいーい?」

嬉しそうに彼女は言う。


 「いいよ。小春に似合うと思って」

喜んでくれるか不安だったから気持ちだけは先に伝えておいた。


 「わぁ!めっちゃかわいいー!」

彼女はすごく喜んでくれ、耳につけようとする。


 すごく似合っていた。より魅力度が増した。ピアスってこんなに力があるのかと思うぐらい、印象がグッとよくなる。


 彼女も手鏡で何度も角度を変えながら見て、「かわいい」と喜んでくれた。


 やっと小春に恩返しができた。今までも何かお返しをしよう。と思っていたがなかなかできずだった。まだまだ足らないが、喜んでもらえて本当に嬉しい。


 ピアスをつけ喜んでくれている、彼女の姿を見て俺はもう一度彼女を抱きしめ、また何度も彼女と愛しあった。


 黄色い小さな花のピアスに包まれながら。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る