第19話 彼女に似合うもの

 あの日から俺たちはまた前よりも距離は縮まり、さらに二人で会う回数は多くなっていった。


 少しの時間でもその時間はほかの誰にも負けないぐらいに愛し合う二人。

終わってもまだ彼女と離れたくなくて、彼女が欲しくて、仕事に遅刻しそうな時もあった。


いつも彼女から離れるのは寂しい。

もしかしたら明日は会えないかもしれない。

いつ彼女に別れようと言われるかもわからず、彼女の家から出て、手を振りドアを閉めてからいつもそんなことばかり考えていた。


おそらく彼女はもっとだ。

俺の数倍も毎日不安になってること、俺にはわかっていた。


でもまた次の日、会社で会ったりそこで約束して二人の時間が作れるとホントにその時はなにもかも忘れてしまう。



 そうしているうちに彼女の誕生日が近づいていた。

何をプレゼントしようか悩み、彼女と会っているときもさりげなく欲しい物をバレない程度に聞き出してみたり。


俺は彼女には普段から料理もたくさん作ってもらったり、会社でタバコを吸うときは必ず飲み物を買ってきてくれていた。

自分は彼女になにも尽くせてない。

そう思った俺はどうしてもこの誕生日にかけていた。


 数日後の昼休み。


俺は近くの雑貨屋さんに行ってみる。普段からあまり服やおしゃれに興味がない俺にとっては、普通の雑貨屋さんですら入るのに緊張した。


 「いらっしゃいませー」

女性店員の声が聞こえる。


静かなよくわからないが心地の良いおしゃれな音楽。

お客さんは子連れの女性の人しかいなかった。

これならゆっくり探せるなと思い、気合を入れ探した。


結局なにも聞き出すこともできなかった俺。なにを聞いても欲しいものはそんなになさそうだった。

何がいいのか悩んでいると、それに気づいた女性店員がこっちに駆け寄ってくる。


 「何かお探しですか?」


 「誕生日プレゼント探してて」

俺は細々とした声で答えた。


すると店員さんは


 「奥さまですか?」

と聞いてきた。

一瞬黙り、ゴクリと唾を飲む。


 「はっ...はい。そうです」


それを聞きその店員さんは首をかしげたようだったがすぐにおすすめのものを探しに行った。


全然知らない店員さんなのにバレたと思ってしまった。


まぁ俺は年齢で言えば30代だし結婚しててもおかしくない年齢であることは間違いない。

普通ここに買い物に一人でくる30代の男性の人はだいたい奥さんに渡すだろう。

なのになんでわざわざ奥さんですか?って聞いてきたんだ?

聞かなくてもいいだろう。


当たり前の対応ですらにもビクビクしてしまう自分がいた。


そして向こうからなにかを持って駆け寄ってきた店員さんが

 

「このバッグとかどうですか?」

と俺に差し出す。革状の白のリボンがついたおしゃれなバッグだった。


素直によかった。

けれど純粋に妻に渡すのではなく、不倫相手に渡すわけだからリスクも考えないといけない。

もし彼女か急に誕生日後バッグを持ったら。

旦那さんは不思議がるのではないか。

それに誕生日まで誰にも見つからずどこに保管しておくか。


純粋にこれ彼女に似合うからって堂々と渡せない。

一生懸命探してくれた店員さんには申し訳ないがそれを諦め、全ての条件を満たすものを探した。


 「ピアスならいいかも」

そう俺は口に出し、その店員さんもうなずき、世界に一つしかない手作りのピアスを買った。


小さな黄色のお花がポツポツついてそのまわりに小さな葉っぱが同じようにポツポツついて。

目にしたとたん彼女に似合うのはこれだと思った。


 ヒントも少ない中で一生懸命探してくれた店員さんに感謝し、その渡すプレゼントを自分の車のトランクの中に保管し、いよいよ小春の誕生日を迎えることになる。

 

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