第18話 触れてわかる気持ち

 小春からの返事はなかった。

 

 既読にもならない。


 昨日俺がすぐになにも返さなかったからだ。あの時少しでも彼女になにか一言だけでも返信していれば今日も朝ちゃんと返してくれていたのかもしれない。

いつもの俺なら喧嘩したり悩み事があったらすぐに解決したいタイプだから寝る前までに必ず解決までにもっていく。

そんな俺でも今回に限っては自分の想像をはるかに超える衝撃的な、胸に突き刺さる言葉だったのだ。


彼女がどんな思いであんなことを言ったのだろう。

俺は朝から彼女の事で頭がいっぱいだった。


 朝ごはんも当然食べる気にもなれず、仕事にも行きたくなかった。でもいかなきゃいけない。


家のベランダにでてタバコに火をつけ空を見上げる。

空は曇り空から日が差していた。

太陽がこっちをみてじゃれて来ようとする。この情けない俺の姿を見てどうせ小馬鹿にしているのだろう。


 「これからどうするんだ?」


太陽が俺に話しかけているように見えた。


 「どうすればいいかわからない。でも会って話したい。会って話して彼女がどんな表情をしているのか。

そうじゃないと自分の気持ちもわからない」


会ったらまた苦しい思いするかも。


でも会いたい。彼女に会いたいんだ。


短くなったタバコをまだ吸い続けていた。


すると俺の思いが伝わったのか、見て見ぬふりをしていてくれているかのように太陽は一瞬で雲に覆われ空は暗くなった。


よし!仕事までまだ2時間もある。今日は彼女は休みだ。会いに行こう。


俺は急いで準備をし、車を走らせた。

彼女が普段休みの日のこの時間は子供を送り、家で家事をしていることを知っている。


頼む。電話にでてくれ。ライン電話ではなく通常の番号から着信を鳴らしていた俺。


電話にはでてくれないがきっと彼女にも伝わっているだろう。

そう思い。近くのコインパーキングに車を止め、普段走らせない足をフル回転させながら彼女の家にたどり着いた。



チャイムを鳴らす。着信も鳴らしたまま。

普通に考えたらキチガイ。


でも今会って話さないと彼女がどこか遠くにいってしまうように感じていた。


何度も鳴らした。


何度も...。



 カチャッ。

鳴らし始めてから5分後玄関の扉が空きその奥には化粧もせず寝巻姿で、昨日夜たくさん泣いたのだろうっていうのがわかるくらいに目が腫れ、玄関の踊り場から一歩先の高いところで下を向いている彼女が立っていた。


 俺はすぐさま彼女を抱きしめた。


 言葉なんてでてこない。思い浮かばない。


 けれど、今俺が彼女にできること、してあげたいこと、したいことは抱きしめるということしかなかった。


 少し高い位置にいる彼女は抱きしめる俺に対し、しばらく何も反応せずそのままたっていたが、泣きじゃくる俺に対し頭を撫でてくれて、彼女も俺を抱きしめてくれた。


 「ごめんね」

俺はしばらくしてこの言葉をいう。


 「ごめん。って言葉嫌い。そういわれると私が悪いことしてるみたいだから」

過去の不倫について触れることはなく彼女はそう言った。


 確かに俺はいつもなにかあればごめんと口にしていた。いつも返す言葉がなくなり、自分が逃げている言葉。

昨日もラインで確かに返した。

それに嫌気がさして彼女もあんなこと言ったんだ。


 「過去の小春がどんなんであろうと俺は小春が好きだ」


小春の全てを俺の身体で包み込むようにめい一杯さらに彼女を抱きしめ伝えた。


 「私も」


その少ない言葉を小春が返してくれたが、彼女に触れていたことで全て気持ちが伝わったように感じた。


仕事の出勤まで後30分。俺は彼女の唇にキスをし、服を脱がせ、少ない時間の中で彼女と愛し合った。


その30分という時間の俺たちは、他の誰にも負けないぐらい、世界一愛し合っていただろう。

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