第12話 消えない背徳感

 そして待ちに待った彼女との日帰り旅行当日。

いつもは妻が仕事の日で俺が休みの日は仕事の疲れで起きれずに寝ていたが、その日は早く目が覚めた。

とゆうよりわくわくがとまらなく夜寝るときなかなか寝付けずにいた。

小学校の運動会の前日のような気分。


その旅行に行くと二人で決めてからもほぼ毎日夢で彼女と旅行に行く夢をみていた。

夢って不思議だ。まだそこの場所に行ってないからいつも目的地にたどり着く手前で目が覚めてしまう。

まだいってないからなのか。けれどその夢の中でたどりつけていなくても幸せを感じるほど楽しい。


それに幸い俺は妻と別の部屋で寝ているから万が一寝言は言っていても大丈夫。


 この日は友達と遊びに行ってくると妻に伝えていたから早く起きてくるのもわかっていただろうが、あまりわくわくした表情をみせず、まだ時間に余裕はあるけど トイレに行きたくてたまたま目が覚めた 感じを出し、起きて準備をした。


妻はもうすでに仕事着に着替え子供のお弁当を作っていた。

 

 「朝早くからお疲れ様」

と俺は軽い口調で口にする。


 「今日は上手にお弁当できてよかったよ。喜んでくれるといいな」

眠たいながら一生懸命作っていた妻を見て、俺はワクワクの気持ちが一瞬にして凍りついた。


いつもは俺が仕事の時、妻が起きる前には家を出ていたからわからなかったが、毎日こんなに頑張っているんだとその時目の当たりにした。



この時に俺には最後のチャンスをもらっていたのかもしれない。

なんでもいい。熱が出たとか、子供の体調が悪くてとか、彼女にLINEで伝えればよかった。

まだ泥沼の中にいる俺を地上へと戻してくれて、王道の幸せルートを歩かせてくれたかもしれない。


しかし俺はそのチャンスをすぐに自分の意志でいとも簡単に断り、居心地のいい泥沼の世界からでようとしなかった。



 お弁当を作り終え子供を起こしにいった妻を背中に、俺は早々と準備をして、家をでた。


あの朝の背徳感は心の片隅に残っていて、ずっと戦っていたが、彼女と旅行に行けるのも今回で最後かもしれない。

今日しかない。とそっちばかりが前向きな気持ちでいた。

 

 

 時間より20分早く待ち合わせ場所のコンビニにつき彼女にLINEを送る。

  

 「おはよう。無事俺は着いた。後どれぐらいかかりそう?」

しばらくして既読がつく

 

 「ごめん。子供がなかなか準備が遅くて、でも旦那もギリギリまで寝てて」

 「時間より少し遅れるかもだけど必ず行くから」

母親の大変さを彼女と妻に思い知らされた。


自分は旅行の事しか考えていなかった。休みの日でまだ時間あるんだからせめて子供が起きる顔だけでも見ればよかったと。

悪いことしてるけど、子供に直接いってきます と言えばよかったと。

彼女はキチンと子供の事はちゃんとしてる。俺とこんな関係でありながらも子供に対する愛情は人一倍だ。


 タバコに火をつけあまり好きじゃないブラックのコーヒーを買い、苦いそのコーヒーを味わってどうすることもできないモヤモヤを取っ払おうとする自分がいた。



待ち合わせの予定の時間から10分が過ぎ、彼女が来た。


 「ごめん。お待たせ。なかなか準備が遅くて。旦那もすぐ起きてくれなくてさ」

息を切らし彼女は言う。


 「本当にお疲れ様。大変だったな」

と言い彼女の頭を撫でた。


 どうして妻にはしてやれなかったんだろう。彼女には自然とできた頭を撫でるという行動。もちろん彼女は喜んでくれた。

妻にだって同じことをしてれば喜んでくれたかもしれない。


当たり前にいる環境の怖さを感じてしまった。



彼女が言う。

 「抜け出すの大変だったんだね。お疲れ様」

彼女は俺に対しそんな言葉を放って精一杯腕を伸ばし俺の頭を撫でてきた。


一瞬で俺の頭の片隅に残っていたものを取っ払ってくれた。

本当に彼女の力ってすごい。



頭を撫で返してくれた彼女の行動と、いつもの甘く心地いい香りに包まれ、

俺は全てを忘れ彼女と旅立っていった。

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