第13話 曇り空に隠れた旅行

 俺と彼女は4つも県をまたぎ遠いところまで車を走らせた。

雨が降るか降らないかの曇り空、日は一瞬たりとも見えない。お天道様からの監視も今は大丈夫だ。


彼女がスマホを取り出し、自分の好きな音楽をかけたいと言ってきた。

そんなに普段から音楽を聴かない俺は一人の時はラジオをテレビ感覚でただただ流していただけで、今は少し格好をつけて、アップテンポな洋楽を流していた。


 少しどころじゃない。だいぶカッコつけていたのだろう。


彼女の好きな音楽を流すとその歌は切ないラブソング。普段歌詞なんて耳に入ってこない俺でも聴き入ってしまうほどだった。

自分たちのことを言われてるのか、胸が突き刺さるが共感できる本当の愛のカタチを表現してるいい曲だった。


 そんな曲を流しながら、彼女と今のこの幸せな状況に浸りながらその先の見えないゴールに向かって前に進んでいた。


 高速道路に乗って1時間。

お腹が空いた二人はSAに入った。

俺は朝ごはんは普段から食べない。仕事がいつも終わるのが遅く、帰って食べるのが22時ぐらいだからだ。

それゆえ朝は俺の胃の中が整理しきれてなく毎回お腹が空かない。


 だけど今日は朝から自分の頭の感情がたびたび左右され、脳が疲れ、糖を欲していた。


 平日のSA。家族連れは少なく、トラック運転手。営業だろうなと思われるスーツを着たサラリーマンと、はとバスツアーで盛り上がっている高齢者の方達しかいなかった。


 人は少ない方がいい。のんびりと周りを気にせず二人の時間を楽しめるから。


 そんな心地のいいSAで俺たちは美味しそうな焼きドーナツとカフェオレを買い、外のベンチに座って食べる。


 「平和だねー。このドーナツ美味しい。海さんのと味違うけど少し食べる?」

そう。まだオレはさん付けで呼ばれていた。


 「さん付けじゃなくて呼び捨てでいいよ」

恥ずかしそうにオレは言った。


 「うーん。そしたら呼び捨ては嫌だから海ちゃんにするね」

ニヤリとした子供を見るような顔で彼女は言った。


 「ちゃん付けで呼ばれたことないから恥ずかしいけどなんかいいな」

会社ではオレが上司で彼女が部下だから、さん付けで呼んでくれている。

でも彼女の方が年齢1個上だから、姉さんと見るとちゃんづけされてもおかしくない。


さん付けで呼ばれるとどうしても仕事モードになって気が張ってしまうことを彼女は知っていた。


そうゆう細かな気遣いも全て分かってくれる彼女。本当に優しい。


オレはちゃん付けで呼ばれ、ずっとしてもらいたかった、あ~んを彼女にしてもらった。


 そして朝ごはんを楽しく食べた俺たちは車に乗り、車を走らせる。


 本当に幸せな時間。仕事場ではあまり会話もできないし、いつも二人で会ってるけど、時間が少ないからなかなかゆっくりできない。

今日は彼女としっかり楽しみを共有しよう。


 するとその時。


俺のスマホの音が鳴った。


妻からだった。

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