第11話 恋の大泥棒猫たち
あの日から俺と彼女は別れた時のことなんかどこかに捨ててきたかのように忘れ、毎日愛しに愛しあった。
抱きしめると蘇ってくる彼女の柔らかく優しく、そして暖かいこの温もり。
着てる服でさえも二人は邪魔と感じ、会うとすぐに服を脱ぎ捨てお互いの身体をめいいっぱい密着し、そのさらに奥の深いところで二人は愛を感じていた。
ズタボロになり、何をしても前に進むことができなかった俺。
子供を産んでくれた妻に感謝し、妻と子供を大切にしようとしたが、なにもできなかった俺。
誰の言葉でも、自分自身ですらも立ち上がる事ができなかったけどそれをいとも簡単に優しく包み込んでくれた彼女。
妻と子供を大切にしようと決意したその気持ちを一瞬で彼女は取り返しにきた。
だが彼女も以前より少し変わっている。
前までは時間がきて別れ際寂しそうにして、迫りくる時間の中なかなか帰れずにいた俺たちだったが、今はすぐ切り替え、笑顔で「また明日」
と言ってくるようになった。
前のがなくなり少し寂しい気持ちもあったが、俺も特に彼女の子供たちには迷惑かけたくないと思っていたからちょうどよかった。
前より少し要領がよくなり成長した俺たちだったが、その分毎日会えるとはいっても、時間は短い。どこにいても俺の頭の中は彼女でいっぱいになっていた。
こう思い始めると、どうしても二人の時間がもっとほしいと思ってしまう。もっといろんなところに彼女と行きたいと思ってしまう。
彼女と会うときはいつも彼女の家か車の中だった。やはりこの辺だと外でウロウロはできない。
そう。俺は二人で旅行に行くことを決めた。
場所はどうしても日帰りしかできないが、それでもいい。
朝早く出て夜には帰れる範囲でできるだけ遠いところがいい。
俺たちのことを知っている人が周りに誰もいなくて堂々と歩いて純粋に楽しめるところがいい。
それを彼女に伝えると、彼女は今までで一番喜んでくれて涙を流した。
彼女も外に遊びに行きたかったのだろう。ずっと我慢していたんだ。
俺も同じだ。
好きな人とは色んな所にいきたい。なんでもいい。ただ一緒に歩いてコンビニに行くだけでもいいし、スーパーで一緒に買い物するだけでいい。
他の夫婦、カップルでは当たり前だけど俺たちにはその当たり前を楽しむことができなかったから。
一日彼女を独り占めできる最高の旅行。その日だけはなにも気にしなくていいのだから。
俺たち二人は海外映画の主人公のようにそれに向けてのミッションや計画を立てていた。
この時が一番わくわくする。まだ行ってもないのに、行った気分になって二人で盛り上がっていた。
ここでご飯を食べて。
次はこのめちゃくちゃ綺麗と言われている海に行って。
ここの喫茶店美味しいらしいよ。
この雑貨屋さんいきたいっ。
幸せとはこうゆうものだ。
行く前も、当日も、帰ってからの思い出話も色んな事があっても、
この人と共有できて楽しかったなと思えるのが幸せなんじゃないかと。
楽しそうに計画を立てている小春を見ている俺の頭の中には、俺の家族のことなんてこれっぽっちも頭には入っていなかった。
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