第10話 泥沼の光
さんざんな事を言ったはずなのに...
自分勝手な俺のせいでお前をたくさん傷つけたのに...
もう俺の前に現れるはずのない彼女が、雨に打たれて凍え死にそうになっている猫を心配するかのように俺のところに駆け寄ってきて、抱きしめてきた。
何もかも全てが終わったと思った。
もうなにもかもが怖くて、自分の行動すらも読めなくて。
誰とも面と向かって話すことができなくなっていたこの俺を、彼女は躊躇することなく、優しく抱きしめたんだ。
あー。また。
この頭がボーっとする感じ。
柔らかい胸の感触。
何度とも言えないこの絶妙なぬくもり。
俺は彼女の胸に包まれながら。初めて彼女の前で涙を流した。
胸の中で泣く俺に対して、彼女は何も言わず優しく、ずっと頭を撫でてくれた。
赤ちゃんをあやめるように。
俺は前に進むことができなかった。とゆうよりスタート地点に戻れなかったと言う方が早いだろう。
ボロボロになっている俺に全てを理解し受け止め、そっと包み込むように抱きしめてきた彼女から抜けだすことはできなかった。
抜け出そうとも思わなかった。
こんな俺を彼女だけが。
ただ1人彼女だけが受け止めてくれているんだから。
他の人から何を思われてもいい。何を言われても何をされても耐えていける。
彼女さえいれば。
どうして彼女は来たのだろう。俺の最近の様子をさりげなく遠くから見ていたのか。
あんな去り方をして、もちろん俺も切り替えれなかったし、頭の中には常に小春、妻、子供と戦っていたんだ。
そう簡単に切り替えられないよ。めちゃくちゃ愛していたんだ。彼女も同じだったんだな。
辛かったんだな。
俺も辛かったよ。
あの別れた日、本心なんかじゃないんだよ。
さらに彼女をぎゅっと抱きしめた。
もう離れたくない。
離したくない。
もうこれから後も抱きしめたり、キスをしたりなんかもしない。それ以上も求めないなら、ただただ素直に彼女を好きでいさせてほしい。その好きだという気持ちを伝えるだけでいいから。と。
だが。
胸の中で泣きじゃくる俺に彼女は、
オレのほっぺたを両手で支えゆっくりあげ、俺の顔を見つめて、優しくキスをした。
今までで一番の濃厚なキスをした。
彼女の柔らかい唇。あのときの感情。
そしてまた漂ってきた。
彼女の甘い癒やされるこの香り。
俺はこうして泥沼の中から迎えにきた光と共に帰っていった。
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