第21話 サイコパスの巨大生物?

 曇天の下、モフモフ島の浅瀬から上陸した暗黒機械メカが、僕らに向かってゆっくりと歩を進めてくる。


 現在のモフモフ島にはシロとハク、それにメカパウンド介護型はいない。僕らが暗黒機械メカと戦うしかない。


 僕らはモフモフ島の浜辺に立ち、正面に暗黒機械メカを見据える。徐々に暗黒機械メカとの距離が縮まる。

 今の僕らに暗黒機械メカを倒す力があるのだろうか。分からないが、やるしかない。


「ニノ、ここは本気でやってやるよ! 元最強の意地を見せるとき!」

「はい! 頑張りましょう!」


 僕らは暗黒機械メカへ向かい、気持ちを入れて走り出そうとした。

 しかし、動きが遅い。やはり今の僕らは最弱の巨大生物だ。


「うーん、気持ちを入れてもダメなものはダメだね」

「はい。勢いでは誤魔化せないようです」


 僕らでは勝てそうにない気がしてきたので、やはりここはメカパウンド介護型やアルティア共和国防衛軍に任せた方が無難かなと思い直した。


 すると、僕らへ向かって歩いていた暗黒機械メカが、突如として方向転換をした。

 ラッキー! 僕らはそう思った。


 方向転換した暗黒機械メカが向かう先には、ノックス中尉とファイン少尉が搭乗してきたヘリコプターが駐機していた。


 一体何をする気だろうか。貧弱な僕らはただ見守るのみ。


 暗黒機械メカは無人のヘリコプターの元へ行くと、その巨体でヘリコプターをバリバリと粉々にしたあと、その体内へ取り込んだ。


「えっ、ヘリコプターを取り込んだ!? 怖っ!」

「吸収してしまいましたね」


 最弱の巨大生物となってしまった僕らは、その行動を見て、より一層ドキドキする。ぶっ殺されそうで、とても怖い。

 それにヘリコプターがやられてしまったので、ノックス中尉とファイン少尉がモフモフ島から退避する手段がなくなってしまった。非常に不味い。


 続けてヘリコプターを取り込んだ暗黒機械メカの体内から、ボゴンッ! バリバリッ! と異様な音が聞こえてきた。取り込んだヘリコプターを体内で何かしている。


 体内から異音を発したあと、暗黒機械メカが何をするのかと思えば、取り込んだヘリコプターの金属片を弾丸にして、僕らに向けて発射してきた。

 暗黒機械メカの右肩に装着されたレールガンだ。発射のためのエネルギーは、腹部にある黒い瘴気の塊に覆われた器官により発生させた電磁力のようだ。

 暗黒機械メカから発射された弾丸は、黒い瘴気を帯びていた。その弾道は漆黒に染まり、僕らへ一直線に向かってくる。


 ズババッ!


 僕らは漆黒レールガンの直撃を受けて、体表が切り裂かれてしまう。傷口から大量の血が出てきた。

 ちなみに僕らの血の色は変な色ではなく、普通に赤い。脊椎動物なので赤だった。


「痛い!」


 暗黒機械メカが方向転換したのでラッキーかと思ったが、全くラッキーではなかったようだ。

 むしろヘリコプターがあってアンラッキーだ。金属片がなければ漆黒レールガンを使えなかったかもしれないのに。


『ギュイイイイイイイイインンン! ギュイッ! ギュイッ!』


 暗黒機械メカが、鳴き声のような、金属音のような不思議な音を発した。

 しかも両腕を左右に広げるアクション付きだ。僕らが傷ついたことを喜んでいる!?


「アイツ、ムカつくね」

「嫌な感じです」


 暗黒機械メカは僕らが弱いと見切ったのか、僕らに向かって悠然と近づいてきた。余裕綽々の暗黒機械メカは、僕らのすぐ目の前というところで立ち止まった。

 これなら僕らの攻撃も届くだろう。


 僕らは身体を回転させて、長い尻尾で殴りつける。

 少しのダメージでも与えたい。効果はあるだろうか。


 以前の尻尾攻撃は、スピードがあり力強い有効な攻撃だったのだが、残念ながら今は見る影もなくなっていた。


 ペチリッ


 僕らの尻尾は、暗黒機械メカの肌を撫ぜるように優しく触れた。これはダメだ。


『ギュイイイイイイイイインンン! ギュイッ! ギュイッ!』


 それを見て暗黒機械メカが笑っているようだ。

 今度は暗黒機械メカが長い尻尾を振り回し始めた。嫌な予感がする。


 すぐにその予感は的中した。僕らは、フルスイングしてきた暗黒機械メカの長い尻尾にぶっ飛ばされた。


 ズシイイイイイイインンンンッッ!


 僕らは踏ん張ることも出来ずに転がった。

 幸いというか、踏ん張ることすら出来なかったので、意外にダメージは少なかった。都合の良いカッコイイ言い方をすれば、武術の達人が技を受け流したような形だ。


 僕らはすぐに起き上がろうとするが、いかんせん動きが鈍い。

 暗黒機械メカは、起き上がろうとする僕らに蹴りを入れてくる。僕らは再び転んでしまう。

 そして転がった僕らを見て、暗黒機械メカが踏みつけてくる。


 ミリミリミリッ!


 身体の軋む音がする。この苦しい体勢から逃れたいのだが、暗黒機械メカの圧倒的な力の前に、僕らは身動きがとれない。


 僕らは苦し紛れに尻尾の炎を噴射する。元々は業火を噴射する僕らの得意技だったのだが、今はとても貧弱だ。


 ポワワワワワッ……


 暗黒機械メカにまで、尻尾の炎が届かない。


『ギュイイイイイイイイインンン! ギュイッ! ギュイッ!』


 何の反撃も出来ない僕らを見て、暗黒機械メカがまた喜んでいる。暗黒機械メカはサイコパスなのか。

 これはヤバい。僕らはこのまま痛ぶられながら死んでしまうのか。


 その時、倒れている僕らの目に映ったものは、波飛沫の中にキラリと輝く銀色の物体だ。僕らはモフモフ島の浅瀬に巨大な銀色の物体が近づいて来るのを発見した。


 あの姿はメカパウンド介護型に間違いない。

 メカパウンド介護型がモフモフ島に帰ってきた。

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