第19話 結果発表?

 モフモフ島は今日もいい天気だ。

 高い空には、ウロコのような雲が見える。いわし雲かな。僕とニノは、気持ちの良い澄んだ空をのんびりと眺めていた。


 そんな中、僕はニノへおもむろに話しかける。


「要介護ドネーション、最終的に5兆円も集まったって凄いよね」

「はい。びっくりですね」


 巨大生物パウンド要介護ドネーションの期間が終わり、目標の1兆円を遥かに超える5兆円が集まっていた。

 これには僕らもびっくりだ。どこからそんな大金が出てきたのか。


 第二回も検討していたようだが、集金し過ぎたので、しばらく期間を空けるそうだ。

 それはそうだろう、一体5兆円も何に使うのだろうか。


「5兆円も何に使うのかな。メカパウンド介護型の運用費が高いのかな」

「私には想像もできません。お金を使ったことがないですし」


「うん、そうだよね。僕らは買い物が出来ないからね」


 元人間としてお金の大事さは分かっているつもりだが、僕らは巨大生物なのでお金があっても使えない。


「援助してくれる気持ちがとても嬉しいですね」


 ニノがキラキラとした澄んだ瞳で、嘘偽りのない気持ちを口にする。


「本当にね。気持ちが有り難いよね」


 僕はニノの言葉に、うんうんと頷き、相槌を打つ。

 ただ僕の場合、気持ちが有り難いというのは嘘ではないが、本当のところは現金5兆円を巨大な財布に入れて、買い物に行きたいという気持ちもある。だって元人間だもの。


 僕らは一息ついて、尻尾に重心を移動する。

 僕らの尻尾は、太くて長くてとても丈夫だ。その尻尾に重心を置くと、突っ立っているよりも身体が休まる。僕らはそれを、尻尾の椅子と呼んでいる。


 僕らは尻尾の椅子に腰掛けて、しばらくの間、のんびりと会話をしていた。しばらくすると、腰が痛くなってきた。


「尻尾の椅子の体勢を続けていると、腰が痛いね」

「はい。長時間は厳しいですね」


 僕らは痛くなった腰を治そうと、前後左右に動かしてストレッチを試してみる。まあ人間のようなストレッチというほど僕らの腰は動かないのだけれども。


 それから1ヶ月ほど経った頃、モフモフ島に大きな物体が運ばれてきた。大きなカバーがかけられている。

 一体、何が運ばれてきたのだろうか。


 カバーを外して中から出てきたものは、僕ら専用の巨大な椅子だ。

 僕らが腰痛という情報がアルティア共和国へ伝わり、要介護ドネーションで集まった5兆円を使って、巨大な椅子を開発してくれた。


 アルティア共和国のレーン博士とソーヴォイツ連邦のセールゲイン博士のコラボ作品ということらしい。

 天才と言われる2人の博士のコラボ作品である巨大な椅子は、僕らの身体にジャストフィットした。

 特筆すべきは、尻尾の収まりがとても良いところだ。人間の椅子と違って形状を考えるのは大変だったことだろう。


 そしてこの椅子、マッサージ機能付きなので、もみもみと尻尾の付け根辺りを揉んでくれる。


 もみもみ。もみもみ。


 尻尾の付け根を揉んでもらうと、こんなに気持ちが良いものなのか。


「このマッサージチェア、超気持ちいいね」

「はい。こんな気持ちが良いものがあるとは驚きです」


 初めての体験だったが、身体にパワーがみなぎってくるようだ。

 僕らは人類の叡智、そして5兆円の力を思い知った。



 ◇◇◇



 僕らは最強の力を失い、生態系の最下層になってしまった。

 でもそれを補う僕らを助けてくれる力があることを、僕らは知った。


 いつも楽しいノックス中尉とファイン少尉。

 弱った僕らを最初に励ましてくれ、僕らのサポート態勢を構築するために尽力してくれた。

 2人がモフモフ島へやってくるだけで、僕らはとても明るい気分になる。


 優しいAIを搭載したメカパウンド介護型。

 メカパウンド介護型は、僕らが不思議に思うぐらい僕らのことを理解して、献身的に尽くしてくれる。

 プログラムされているからだけとは、とても思えない。

 メカパウンド介護型自身の愛、そしてその背後にいるレーン博士をはじめとした兵器開発部の皆さんの愛とロマンを感じている。


 要介護ドネーションで集まった5兆円。

 金と言うと急に俗物的な感じではあるが、全世界の皆さんは同情するだけではなく本当に金をくれた。

 ボワットモワ大統領やエメリスキー大統領に、僕らを始末する気が少しでもあれば、今が大チャンスだというのにだ。


 最後に可愛い子供たちシロとハク。

 気まぐれではあるけれど、巨大エビを僕らのために狩ってくれ、僕らを喜ばそうとしてくれる。

 モフモフ島で元気に生きているシロとハクを見ると、とても嬉しく僕らも頑張ろうと力が湧いてくる。


 僕らは自身の力を失いながらも、幸せを感じていた。

 しかしその頃、モフモフ島の近海にあるジャイアントケルプが密生する森の奥深くで、僕らの幸せを脅かす巨大な何かが成長していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る