第11話 覚えてませんか?

「ん? お前は誰だ? アルファ級の毛むくじゃらに襲われるとは、弱くて変な巨大生物だな」


 ガーーーーーーーーーン!!!


 いつも優しくしてくれたノックス中尉とファイン少尉だというのに、僕らだと分かってくれない!?

 ノックス中尉とファイン少尉からは、かなりの愛情を感じていたのだけれど、僕らのことを覚えていないとは。

 そんなことがあるのか。一体、何故だ!?


 ……あっ、そうだった。

 そういえば今の僕らは、燃え尽きた灰のような白色に変わっている。

 もしかして別の個体だと思われているのか!?


 僕らは慌てて、もう一度挨拶をした。


『ゴガオオオン!』(こんにちは)

『ピヤァァァン!』(ありがとう)

『グルグガガアアン!』(やめなさい)

『キュルルウウウン!』(ごめんなさい)


 もう意味も考えずに、とりあえず全種類の挨拶を言ってみた。これならどうだ!?

 僕らは非常に焦っている。気持ち的には、冷や汗がダラダラ出ている。


 僕らの慌てふためいた挨拶を聞いて、ノックス中尉がプッと噴き出し、笑いながら言う。


「はははっ、パウンド相棒だろう。分かっているよ。驚かして悪かったな。何でそんなに白くなってしまったんだ?」


 なんと、実は最初から分かっていたようだ。さっきの発言は、ノックス中尉のアルティア共和国風ジョークだったのか。

 続いて、ファイン少尉が問いかけてくる。


「パウンドさん、モフモフたちに押し潰されてましたけど、もしかして弱くなってしまったんですか?」


 ファイン少尉も最初から僕らだと分かっていたようだ。しかも何となく察してくれている。

 さすが僕らの理解者であるノックス中尉とファイン少尉だ。


 ニノの超絶記憶力により、僕らは人間の言葉を理解している。そして以前なら、ツノをチカチカと点滅させることにより、モールス信号を使って簡単な返事をすることができたのだけど、今の僕らはツノの点灯に5分、消灯に3分ほどかかってしまう。これでは時間がかかり過ぎて、使い物にはならない。従ってモールス信号を使って、人間と会話をすることができなくなった。


『キュルルウウウン!』(ごめんなさい)


 これからの僕らは、4種類の挨拶を使うのみ。それでもきっと優秀なノックス中尉とファイン少尉なら分かってくれる。完全に他力本願ではあるけれど。


「不便だね」


 僕はニノへ話しかける。

 ちなみに僕のこの言葉は、ニノへしか聞こえない。音声として外部へ出力できるわけではないからだ。

 ニノの言葉も同様に僕にしか聞こえない。所詮は身体の内部で行なっている第一の脳第二の脳ニノのやり取りだから。


 その後、モールス信号での会話ができなくなった僕らは、2人からの質問に『はい』なら右手、『いいえ』なら左手を上げるという作業を繰り返し、2人になんとか現状を伝えた。


「なるほどな、頑張りすぎて、オーバーヒートしたといったところか。今ここで、すぐにどうこうは言えないが、悪いようにはしないよ」


 ノックス中尉が爽やかな笑顔で、僕らを励ましてくれる。


「そうですよ。ここにいれば何も心配はいりませんから、安心して生活して下さいね」


 ファイン少尉も優しく微笑みながら、僕らを安心させてくれる。


『ピヤァァァン!』(ありがとう)


 僕らは挨拶で気持ちを伝える。僕らはノックス中尉とファイン少尉の優しさに涙が出そうになった。

 しかし、僕らに涙腺はないようだ。気分だけで実際に涙は出てこなかった。


「やっぱりノックス中尉とファイン少尉は優しいね。頼りになるし」

「はい。何だかとっても安心しました」


 僕らは安息の地であるモフモフ島でノックス中尉とファイン少尉に優しい言葉をかけられて、心の底からホッとした。

 一通り僕らの様子を確認したノックス中尉とファイン少尉は、巨大生物防衛軍司令部へ報告すると言って、足早に帰っていった。


 モフモフ島には、僕らとモフモフたちだけとなった。モフモフたちも落ち着いて、それぞれ好き勝手に遊んでいる。

 もう押し潰される心配はなさそうだ。


「ふわぁ」


 安心して油断したニノが大きく口を開けて、あくびをした。


「安心したら眠くなってきたね」

「はい。眠くなってきました」


 僕らは夕日に照らされた浜辺に寝転がる。

 昨日までの、いつ襲われるかもしれないという不安はない。

 眠るにはまだ早い時間だけれど、僕らは夕日に赤く染まる空を見ながら、眠ることにした。

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