第8話 暴走メカパウンド?

 私はメカパウンド4番機のAIです。最古参となった私は、格納庫で待機する時間が他のメカパウンドたちより長くなりました。

 必然的にレーン博士やホルダー助手の話を聞くことが多くなり、他のメカパウンドに搭載されたAIとは、少し違う成長を遂げています。


 今の私は、巨大生物パウンドさんが不在のせいで、憂鬱そうにしているレーン博士を元気づけたいと思っています。

 私はレーン博士を元気づけるため、過去のあらゆるデータをもとに検討をしました。その結果、メカパウンド4番機である私が巨大生物パウンドさんになりきることが最善だと結論づけました。

 メカパウンド4番機の私だけれど、今日1日だけは巨大生物パウンドさんです!


 そう、今の私は巨大生物パウンドさん。

 とは言うものの、一体、私は何をすれば良いのでしょうか。


 私は蓄積された膨大なデータを検索します。私は量子コンピュータをフル回転して計算します。

 なるほど分かりました。パウンドさんは、困ると挨拶をします。

 AIの私からすると、非合理的で無理筋だと思われる場面でも、かなりの確率で挨拶をしています。

 私もここは、挨拶をしてみましょう。


『ゴガオオオン!』(こんにちは)


 当然と言えば当然ですが、格納庫にいる作業員の皆さんを驚かせてしまいました。顔を見合わせて、ざわざわしています。

 これは非常に不味いです。

 緊急メンテナンスをされてしまいそうな雰囲気になりました。いきなり状況の悪化です。

 なかなかパウンドさんのように、上手くはいきません。


 こんなときパウンドさんなら、どうするでしょう。

 私は再び過去のデータを検索します。

 なるほど分かりました。パウンドさんなら、さっさと逃げます。きっと格納庫から脱出するでしょう。


 しかし実際の私は、メカパウンド4番機。反乱と思われて、処分されてしまうかもしれません。


 こんなときパウンドさんなら……。

 きっと挨拶で誤魔化して去るでしょう。


『キュルルウウウン!』(ごめんなさい)


 私は唖然とする作業員をよそに、格納庫の扉をこじ開けて外に出ました。

 格納庫にけたたましいサイレンの音が鳴り響きます。これは非常に不味いです。


『キュルルウウウン!』(ごめんなさい)


 私はどうしようもないので、咄嗟に謝りました。

 何をすれば良いのか分からずに困ったので、挨拶をしたのです。


 これは! この行為は、まさしくパウンドさんです。


 図らずもパウンドさんの気持ちが分かった気がします。

 私は新たなデータを取得しました。これにより私は成長しました。


 私は格納庫を脱出して、近くの海岸に向かいます。

 防衛軍の人々に追跡されながら、私は海岸線をぶらぶらと歩きます。在りし日のパウンドさんっぽい気がします。


 追跡チームの中に、レーン博士の姿を発見しました。

 レーン博士の目には、私が巨大生物パウンドさんのように見えているのでしょうか。見えているのなら、嬉しいのですけれど。


『ゴガオオオン!』(こんにちは)


 私はレーン博士に向かって、挨拶をします。

 すると防衛軍の一部から、威嚇射撃をされました。

 私はここぞとばかりに挨拶をします。


『グルグガガアアン!』(やめなさい)


 この流れは、完全にパウンドさんです。

 きっとレーン博士には伝わっていることでしょう。


 レーン博士を見ると、とても嬉しそうに笑っています。ニコニコしながら私を見て、張り切ってメモを取っています。


 大成功です。これでレーン博士を元気づけるという私のミッションは、完了しました。

 ミッションを完了した私は、防衛軍の人々の指示に従って、格納庫へ帰投します。


 大きな被害もなく終わった事案なのですが、この一件はメカパウンド暴走事故と呼ばれて、開発記録に残ることとなりました。



 ◇◇◇



 メカパウンド暴走事故のあと、レーン博士とホルダー助手は、兵器開発部の一室に戻っていた。


「どうやらメカパウンド4番機の暴走は、私を元気づけようという理由のようだな」


 レーン博士はホルダー助手へ問いかける。


「はい。私がそそのかしてしまったせいでもありますが」


 ホルダー助手は事故の顛末を正直に答える。


「なんと、ホルダー君のせいでもあったのか。しかし有り難いものだな、私を元気づけようとしてくれるとは」


「はい。メカパウンドがまさかあのような行動に出るとは思いませんでした」


「全くだ。今回の件を見てもメカパウンド4番機からは、特に愛とロマンを感じざるを得ない。独自の成長を遂げているようだ」


「はい、私もそう思います。ときに私には4番機が話をしたそうに感じることがあるのですが、発声装置は付けてあげないのでしょうか」


「うむ、私も考えたことはあるが、メカパウンドに発声装置はつけない。必要以上に会話をして、これ以上、愛情を持ってしまうと私としても戦闘に出しづらくなるからな」


「なるほど、そういうことですか。可哀想ですけど、メカパウンドは兵器ですからね」


「うむ、そういうことだ。まあ出来ることならば、4番機には戦闘の必要がない愛のある任務を与えたいものだ」


 巨大生物防衛軍の一組織である兵器開発部。

 兵器開発部は戦闘用の兵器を開発する組織ではあるが、総責任者であるレーン博士の影響で、愛とロマンに満ちている。

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