第5話 最初の敵?

 僕らは、今から安息の地であるモフモフ島へ向けて出発する。

 行きは何の不安もなく来たけれど、ここから無事に帰れるのかな。不安だらけだ。


「ここって冷んやりするし、たぶん南極の近くだよね?」


 僕はここが何処なのかを、今更ながらニノに尋ねる。


「はい、南極の近くです」


 やはりここは、南極付近のようだ。

 僕はここまでどういう道のりで来たのかさっぱり覚えていない。しかし、ニノの記憶力は凄いので、ここまで辿って来た道のりを確実に覚えている。

 だから帰り道で迷うことはない。その点は安心だ。


 ここからモフモフ島まで1万km以上はあるとして、今の僕らの移動速度から考えると、順調にいっても2ヶ月ぐらいはかかるだろう。かなりの長旅だ。


 帰り道で最大の難関は火山島地帯が考えられる。

 あの辺に生息している翼竜のような巨大生物は厄介だ。いつも僕らを見つけると、ウザ絡みをしてくるクソバード。きっと弱くなった僕らを見つけたら、ここぞとばかりに襲ってくることだろう。


「先は長いね」


 僕は少しうんざりしながら、ニノへ話しかける。


「はい。頑張りましょう」


 ニノが僕を見てニッコリ微笑む。ニノはいつでも前向きだ。

 そんなニノを見て、僕も頑張ろうという気持ちになる。


 そんなこんなで南極付近を出発する。僕らは北に向かって泳ぎ続けた。あんまり張り切るとすぐに疲れてしまうので、ペースを守って泳ぎ続ける。


 たまに他の巨大生物を見かけることもあるのだが、幸いなことに襲われる気配は、今のところ感じない。

 なんだかんだで僕らはデカいので、好き好んで襲ってくる巨大生物はいないのかも。やはりデカさは正義だ。


 そうして泳ぎ続けて数日後。


 グゥウウウウウウウウウウ……。


 お腹が鳴った。僕らは、他の巨大生物ではなく、空腹感に襲われた。


「えっ、お腹、鳴るんだ!」


 巨大生物に転生してずいぶん経ったが、初めてのことだ。巨大生物もお腹が鳴るとは。


「はい。私も初めて聞きました。お腹、空きましたね」


 ここまで飲まず食わずで泳ぎ続けている。お腹が空くのも当然だ。


「よし、覚悟を決めて食糧を調達しようか」

「はい。頑張りましょう」


 これ以上、空腹になり、さらに力が弱くなってしまっては、どうしようもない。


「一番弱いイカにしようか。出来るだけ小ぶりなヤツを選んで」

「はい。慎重ですね」


 本来、死にそうになると進化によってパワーアップするはずではあるが、現状は進化によりパワーダウンしてしまっている。

 このデバフ状態で死にそうになったら、一体どうなるのか。

 あっさり死んでしまっても不思議ではない。ここは慎重にならざるを得ないだろう。


「そう、今は慎重にいった方が絶対にいいよ」

「はい。分かりました」


 僕らは周囲に小ぶりな巨大イカがいないか慎重に探す。海底には巨大エビや巨大カニが生息していて怖いので、海面付近にいる巨大イカを狙う。

 ゆっくりと泳ぎながら探すと、ニノが平均サイズの巨大イカを発見した。


「イカがいますよ。どうですか? 大き過ぎますか?」

「うーん、平均サイズか」


 僕は迷ったが、都合よく小ぶりな巨大イカが見つかるとも限らないので、平均サイズの巨大イカと勝負することにした。


 平均サイズの巨大イカ。体長は約40mといったところだ。

 僕らの体長は105m。前回の進化で小さくなった感覚はないので、僕らの方が余裕で大きい。

 いくらなんでも負けることはないだろう。


「よし、勝負してみよう。アレに勝てれば食事は安心だよ」

「はい。頑張りましょう」


 僕らは巨大イカに忍び寄る。

 そこで僕はふと思った。体表が白っぽくなってしまったが、これは目立つのではないだろうか。少し心配だ。


「まだ気づかれていませんよ」

「あと少し近づければ」


 意外といける。

 白くて目立つようになってしまった僕らだが、巨大イカに気づかれないように、そーっと近づく。

 あと一息というところまで近づいて一気に巨大イカへ襲いかかる。僕らは両手で掴みかかり、大きな口で噛み付いた。


 ガブリッ!


 以前の僕らならこれだけで巨大イカを秒殺していた。

 今の僕らの力はどうだろう!?

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