第4話 巨大生物も睡眠は大事?

 綺麗な月夜。優しい月の光が海面を柔らかく照らしている。波がキラキラと輝き、とても綺麗だ。

 しかしそれは絶対の安全が確保できているから、楽しめるというもの。大型豪華客船にでも乗って、彼女と二人、月夜を眺めているのなら、ロマンチックで素敵な夜だろう。


 だが僕らは、そうではない。ラッコのように仰向けになり、どこまでも深い吸い込まれそうな海に浮いているだけ。いつ何が起こるか分からない。

 真っ暗闇な海の底よりはマシだけれど、貧弱になった僕らにとって、夜の海は怖かった。そんな中で僕らは眠った。



 ◇◇◇



 一晩が経ち、朝を迎えた。朝日が眩しい明るい世界。

 不安だった僕らだけれど、何事もなく朝を迎えた。1日の始まりだ。


 いつものようにニノが先に起きていて、後から目覚めた僕に、挨拶をしてくれる。


「おはようございます。よく眠れましたか」


 僕はニノの声を聞いて、ホッとする。

 怖かったけど、いつもと変わらない朝を迎えることができて一安心だ。


「おはよう、怖くていまいちよく眠れなかったよ」


 僕は一晩中ビクビク怖くて、視覚情報を遮断して真っ暗にしても熟睡することができなかった。

 僕は返事をしながらニノを見る。すると。


 あれっ、ニノがもの凄くやつれている!

 目の下にクマができて、目も赤く充血して、頬もげっそり痩せている。酷い顔だ。


「なっ!? ニノどうしたの!?」

「いえ、ちょっと眠れなくて」


 ニノは緊張して、一晩中起きていたのか。見るからに憔悴しているが、これは大丈夫なのか。


「いやいや、えっ、大丈夫?」

「はい、大丈夫です……」


 うーむ、ニノは大丈夫と言っているが、見た感じ全然大丈夫そうではない。


「今度は僕が起きているから、ニノは寝ていいよ」

「えっ、私だけ寝るとか、そんなことができるのでしょうか」


「分からないけど、やってみよう」

「分かりました。やってみますね。ありがとうございます」


 強制レム睡眠だ。初めて試すけど、出来るのかな。


 スヤァ。


 すぐに寝た。あっという間に、ニノが寝ている。一安心だ。

 意外とあっさり寝てくれたが、僕が起きていることで安心してくれたのかな。

 そう思うと、何だか嬉しい。


 ニノが寝ている間は、やることもないので、今後のことを考えてみる。

 まずこのままここにいるのは、どう考えても危険すぎる。早急にモフモフ島に帰るしかないだろう。


 ここから遠く離れたアルティア共和国の領海に存在する、とある無人島。

 その無人島には、毛むくじゃらでモフモフとした巨大生物が生息しているので、僕らはモフモフ島と呼んでいる。

 モフモフ島は、僕らが本拠地にしている無人島なのだ。


 無人島なので、当然、住んでいる人々は存在しない。ただ、仲良くしている軍人さんたちが、よく遊びにくる。いや、遊びにというか、軍人さんたちからすれば、普通に仕事だと思うけど、モフモフ島に来るたびに楽しそうに笑っている。

 そんな優しく気のいい軍人さんたちなので、きっと今の僕らを助けてくれるに違いない。


 それからモフモフ島には、僕らの子供たちがいる。

 僕らの子供で双子の巨大生物シロとハク。まだまだ子供ということで、見た目が可愛い巨大生物だ。そのため人類からも人気がある。

 そこそこ自立したので、2匹を残して長旅に出てしまったが、変わりなく元気だと良いけれど。


 そんな僕らの本拠地であるモフモフ島。一体ここから、どのぐらいの距離があるのだろうか。

 まあどれだけ距離があったとしても、頑張って帰るしか道はない。


 モフモフ島へ帰る道中の食事も心配だ。

 僕らは一体どのぐらい弱くなったのか。最弱の巨大生物である巨大イカ。さすがにアレには勝てると思うが、どうなのだろうか。

 どのぐらい弱くなったのかを確認してみたいが、その確認作業で死んでしまったら元も子もない。

 なんにしろ食事は必要だし、小ぶりな巨大イカとどこかで一度勝負をしてみたい。


 僕は周囲を警戒しながら、そんなことを考えていた。僕の考えがまとまってきた頃、ニノが目覚めた。


「おはようございます」

「おはよう、ニノ。もう起きちゃったんだ」


「はい。もう大丈夫です」


 確かに先ほどより、顔がスッキリしている。まだ少しやつれている感じはするけど、大丈夫そうに見える。


「今考えてたんだけど、モフモフ島へ帰ろう。ここは怖い」


 僕はニノへ提案をする。


「はい。それが良いですね」


 ニノも同じ気持ちだろう。うんうんと頷いている。


「モフモフ島へ辿り着けば、きっと大丈夫だよね」

「そうですね、私たちには子供がいますし」


「まだ小さいのに放置して長旅にでちゃったけどね」

「きっと大丈夫です。怒ってないし元気にしてますよ」


「そうだね。じゃあモフモフ島へ向けて出発しよう」

「はい!」


 僕らは安息の地であるモフモフ島へ向けて出発する。

 行きは何の不安もなくここまで来たけれど、ここから無事に帰れるのかな。不安しかないけど、ニノと一緒に頑張ろう。

 

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