第41話 寝取っていいよ!

「ただで抱かせてあげるんで、お金恵んでください……」


 いらねー……。


 つかお金恵んだら、ただじゃねえじゃん!


 ただでもいらない性病持ちの元カノの売りに俺は困惑していた。仕事を終えて帰宅するとマンションの前で美玖が俺と顔を合わせるなり、土下座していたのだ。


 星乃から聞いた話では、蓮は老人虐待をくり返し、痣や傷痕をあやしんだ老人たちの家族からカメラをしかけられて、蓮が犯人だと特定された結果、出向先を首になってしまったらしい。


 解雇に止まらず、虐待を刑事告訴され逮捕されてしまい、蓮は再犯だから執行猶予のつかない実刑の可能性が極めて高いんだっけ?


 蓮の奴……過去の犯罪を課内の人間に自慢げに話していたもんなぁ。たしか起訴されたけど、加賀山アクリル工業の顧問弁護士にお父さんが頼みこんで起訴猶予処分にされ、無罪放免になったとか。


 蓮がスゴいんじゃなくて、お父さんの努力と弁護士の先生が優秀なだけだろって、みんなで話してたのが懐かしい。


 それもぜんぶ蓮が無駄にしてしまったけど。


「お願い……もう住むところもないの……」


 蓮のマンションも家賃滞納で追い出され、外車も借金の形というか慰謝料でドナドナされてしまったとのこと。


 蓮は自己破産したものの、そこへ裁判の賠償は支払い義務が生じるらしく、実刑は免れても借金地獄であることには変わりない。


 すっかりネカフェ難民化した美玖の目的は見え見えで大儲けした俺とよりを戻したいのだろう。


 まともに病院へも行かずにいるから美玖の顔や首すじには発疹が目に見えるくらい広がってしまっている。


「それでせめて病気だけでも治してくれ。そうじゃないと周りに迷惑がかかる」


 俺はたまたま持ち歩いていたポケットマネーを取り出し、手渡そうとすると美玖に払われた。床に落ちる帯封のついた100万円の札束。


 毒々ゾンビならぬ毒々ミクでこの様子じゃ、パパ活に手を出したりして、性病を蔓延まんえんさせかねないのだから。


「お金なんていらないから、私とやり直して! 麟太郎には私が必要だと思うの。ご飯はコンビニ弁当にばっかりになってるんでしょ? 大丈夫、私が手料理作ってあげるから」

「いや食事は困ってない」


 美玖は仮初めの心配をしているが課長、姫野、星乃、瑠華ちゃんたちからお呼ばれして、俺はまったく困ってなかった……。


 唯一の美玖とやり直すメリットを否定された美玖はいきなり号泣してしまう。


「美玖たん……寂しかったのぉぉぉぉーっ!!!」


 上から目線で篠原麻美子さまのように気を引こうとして号泣してすり寄ってくる美玖だったが、そんな言い訳が通るわけなかった。


 エレベーターに乗る前に忘れ物したことを思い出し、車まで取りに行っていた星乃が戻ってきて、美玖に立ちはだかった。


「美玖、それは無理よ。だって結月くんは私とつき合ってるんだから」

「のぞみっ!?」


 星乃は俺に話を合わせてと目配せしながら美玖に告げる。エコバッグからはネギなどの野菜が見えており、星乃が俺に手料理を振る舞う雰囲気を漂わせていた。


「のぞみが麟太郎をたぶらかして浮気してたんでしょ! 許せない!!!」



 パッシーーーーン!



 美玖は自身の浮気を棚に上げて星乃を責めたのだが、星乃は思いきり美玖の頬をひっぱたいた。


「これは昔のお返し。私が告白しようとした機会すら奪ったことへの……それに結月くんは私が誘ってもちゃんと断ったわ。仮に私と結月くんが浮気していたとしても、美玖に彼を非難する権利なんてないんだから!」


 星乃のド正論に美玖は鳩が豆鉄砲を食らったみたいに驚いている。


「ううっ、ううっ、のぞみも麟太郎も嫌い! 大嫌い!!!」


 お金なんていらないと言いつつ、美玖はきっちり俺の渡した手切れ金の100万円をお猿さんがさつま芋を拾うように抱えてもって帰っていた。


「昔はあんなのじゃなかったのに……」

「そう? 美玖は女の前じゃ自己中だったよ」

「そうか、俺に女の子を見る目がなかったんだな」

「見る目がなくても、かわいい子に好かれてるのは嫉妬するなぁ」


「なんか言った?」

「なんでもない、鈍感な結月くん」


 ???


 どうしようもない美玖に呆れたあと、星乃に手料理を振る舞ってもらい昔話に花を咲かせた俺たちだった。



――――コラボ配信日。


 相変わらず、小さいアクリルスタンドは好評だったんだけど、売れ行きは芳しくない製品があった。


「等身大アクリルスタンドなのだ!」


 冗談で各キャラごとにひとつずつ作ったんだけど、そこまで売れてなかった。アクリルの衝立の応用みたいなものだったから、値段がひとつ10万もする高価なものだったから、仕方ないのだけど。そこまで開発コストはかかってないのが唯一の救い。



 だけどある人のひとことで状況が一変した。



「ゲストのしぶみるい先生なのだ! ボクとさたん、なつみんにクリスティー、そしてミラン……みんなのママなのだ」


 じゃん! と登場してきたしぶみるい先生に彼女のアバターの等身大アクリルスタンドをプレゼントし、先生のデザインした各キャラを紹介すると……。


「うわぁー、でっかい! おまえら、寝取っていいぞ! どうなんだ、リスナーたち聞いてるのか? おらおらぁ、私の産んだ娘っ子を抱いて寝ろ!」


 先生は舌足らずな声でリスナーをガンガン煽り倒してしまうようなヤバい人だった……。


 しかし、リスナーはその煽りを受け止める。


        《その手があったか!》

        《ぜんぶ予約済み!》

        《寝取り王》

        《↑寝技王みたいに言うなし》


        ¥1000

        《ママ公認のNTR草》

        ¥1000

        《お持ち帰り!》


        《公式もう売り切れてるwww》

        《はっや!!!》

        《もうないの!?涙》

        《“ありあり“もねえ!》

        《↑なしなしじゃねえかw》


        《アニメンツは?》

        《ない涙》

        《駿府屋すんぷやなら……》

        《そっちもねえ!》


 各店舗に卸したのが数個ほどだったので、注文がすぐに掃けてしまったのも納得だ。だが人間、物がないと余計に欲しくなってしまうのがさがというもの。

   

              ¥5000

              《ほしい……》

              ¥8000

              《増産希望》

              ¥10000

              《ぞうさん》

              ¥20000

              《パオ~ン!!!》


「わかったのだ! 受注生産で予約を取るからみんな全裸で待っててほしいのだ」


           《ありがとうネトラ!》

           《多謝!!!》

           《Thank you!》


 配信と同時に相談役に相談して、受注フォームを立ち上げるとスゴいことになったと瑠華ちゃんから連絡があった。


【瑠華】

《結月さん!》

《配信中ごめんなさい》

《たいへんです》

《いま1万件越えました》


               【麟太郎】

               《は? マジ?》


《はい!》


 俺は気になって額を数えてみた。


 1万件×10万円……。


               《10億!?》


《はい!》


 マジか……まさか生配信でヤパネットもびっくりの販売をしてしまったのだ!



―――翌日。


 配信でもそうだけど、バズったり、売れまくったりで信じられなくて、ちょっと一呼吸置きたくて、俺はハンターカブにホンダ純正の黒いラゲッジボックスを積んで、人気の少ないキャンプ地までとことこ走らせ来ていた。


 余った年次休暇の消化と相談役がひまをプレゼントしてくれたのだ。


「ふう~、うまいっ!!!」


 思わず、うなってしまった。


 テントを張り終えるとお湯を沸かして、カップ麺に注いだあと、3分待ちながらミルでいたコーヒーを堪能たんのうしている。


 すすりながら思うに美玖はおそらく俺の庶民的な趣味を受け入れられなかったんだと思う。金を持っていた蓮になびいていったのも仕方のないことだったのかもしれない。


 夕暮れどきにぼっちでインスタントラーメンを食い終え、テントの中で横になっているとそんなことを思ってしまった。


 心地よい疲労と満腹感でうとうとして、目を閉じていると、なにやら息づかいを感じた。



 まさか熊か!?



 テントの中に食料を求めて、熊が入ってくることは珍しくない。このままじっとしていると連れて行かれて、俺が食料になりかねない。


 そう思うと眠気は覚めパッと目を開けたら、まさかの人物が俺に四つん這いで跨がっていた。


「課長!? なんでここに……?」


―――――――――――――――――――――――

すみません、長くなりそうだったので半分に切らせてもらいました。明日、ホントに完結です。美玖と蓮のざまぁをご期待くださいw 作者はシコシコ課長との合体を書いておきます(意味深)

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