第33話 ディレイ配信

 詳細は後日詰めることになったので、俺は両親を伴い、美玖の家の玄関を開けると彼女の姿はもうなかった。おそらく蓮の下にでも走ったんだろう。


 美玖を追い出したあと、おじさんは俺たち家族に対し、床に額をこすりつけるように土下座をしていた。


「結月くんには本当に済まないことをした。この通りだ、許してくれ……」


 俺はおじさんの行動に驚くが、すぐにおじさんの手を取り顔をあげさせる。


「おじさん、頭をあげてください! 美玖が浮気してたんであって、おじさんが悪いわけじゃない。美玖と蓮、すべてあの二人が悪いんですから!」


「ありがとう……結月くん。なぜ美玖の奴はキミみたいに素晴らしい子から、わけもわからない間男を選んでしまったんだろう……あり得ないよ」


 頭をあげたおじさんだったが、美玖の馬鹿な選択に虚脱しているようで支えている腕が重い。



 美玖はご両親たちまで裏切ったのだ。



 つき合う前から俺のことを見てくれていた美玖のご両親。とてもおじさん、おばさんから慰謝料を取る気にはなれず、美玖本人から俺は請求することに決めている。



 美玖の実家からカメラを仕込んでいたバッグを引き上げ、俺たち家族が家に戻ると……。


「みんな……!?」

「おかえり、結月くん」

「意外と早かったな」

「気になって来ちゃいました、せ~んぱい」


 星乃と課長と姫野が家の前に駐車していたミニバンから降りてくる。美玖との別れが決定的となったことを把握している彼女たちは笑顔で俺を出迎えてくれたのだ。


 俺は両親に三人を紹介するとそれぞれ俺の両親に深々と頭を下げて、ていねいにあいさつしていた。


 その中でひとりの女の子に母さんが声をかける。


「あら? もしかして、あなた……麟太郎とクラスメートだった星乃さんかしら?」

「はい、おばさま! 覚えてくださっていてうれしいです!」


 星乃は課長と姫野を見るとニヤリと笑い、二人は悔しそうに歯噛みしたいたような気がしたのだが……。


 彼女たちの中でなにか競っているんだろうか?


 星乃の実家で待機していたのだが、ことが済んだことで俺の実家に移動してきたらしい。俺の運転する車のあとをつけていたのは星乃たちだったのだ。


 結納の前に姫野が星乃の実家にロケ用の簡易機材を運びこんでいる。そして俺はこの様子をサブチャンネルで配信していた。もちろん肖像権の問題があるのでモザイク及びピー自主規制音の編集をした15分遅れのディレイ配信ではあるが……。


 それでもドキュメンタリードラマを越える生々しさからか、再生回数が凄まじい。やはりリスナーはことの顛末というか、ざまぁが見たいのだと認識させられる。


 もう美玖は全国……いや全世界に浮気女だと知られてしまったと言っていいだろう。



――――【蓮目線】


 くそっ! くそっ! くそっ!


 オレは黒木沢とともに審査部の部屋で取り調べを受けていた。


「加賀山くん、大丈夫だからね。私はキミが無実だって信じてるわよ、ん」


 オレの手を握ってきて、青いひげりあとの顔近づけてくる。黒木沢に手を握られた瞬間、ガチムチの野郎どもにやられたトラウマから強い吐き気がこみ上げてきて仕方ねえ!


 さっと手を黒木沢から引いて長机の下に隠した。


 なんでオレの完璧な営業がバレたんだよ! あのBBAはオレのベッドテクニックの虜になっていたはずなのに。


 とにかくここは言い逃れするためのスケープゴートを用意してやらねえと……。


「加賀山くん! キミはなぜ枕営業なんて真似したんだ。これはキミだけの問題じゃないぞ!!!」


 オレを強い剣幕ではやし立てる審査部の薄らハゲ男にムカついてしかたがないが、オレは黒木沢に罪をなすりつけるために、うつむいたあとわざとらしいくらい号泣しながら答えた。


「こ、この日本をぉぉぉ……うっうっ、おええぇぇぇぇーーーっ! この会社ぉぉぉぉーーーーっ、ううっ、がえだいぃぃぃ!!! ぞうおぼいそう思い、がんばってぎまじだぁぁぁ……でもぉぉ、黒木沢課長がぁぁ……もっとノルマをごなじこなせぇぇぇと命令してきたんでぇぇ、悪いことと分かってても枕営業に手をそめましたぁぁ……ず、ずびばぜんでしたぁぁ……うわぁぁぁーーん!」


 オレに圧迫をかけてきた審査部の野郎どもにハンカチを噛みながら、うそ泣きして黒木沢の命令で泣く泣く枕営業に手を染めたのだと訴えた。


「黒木沢課長! 加賀山くんの言っていることは本当かね?」

「なっ!? 私はそんなことひとことも言ってないわ! てゆうか野々宮議員みたいに見え透いた演技は止めなさいよっ!!」


 さっきまで大丈夫だとか言ってたキモいオネェ課長は本性を表して、オレの胸ぐらを掴んできたが……。


「課長ぉぉ……やめてくださいぃぃ……こ、こわいですぅぅ……うっうっ、皆さん見てください、いつもオレはこんな風に黒木沢課長からパワハラを受けてましたぁぁ……ああーーん……」


 わざと情けない男のふりをして、審査部の連中の同情を得ていった。


「黒木沢課長っ! やめたまえっ!!! やっぱり好成績の裏にはパワハラがあったんだな!」

「それだけじゃないんですぅぅ……黒木沢課長は顧客に契約条項をきちんと伝えなくていいって……」


「ああ、それは審査部でも把握している。そんなことをされたら、うちが尻拭いをしなければならないことを分かっているのかっ!」


「ち、ちがう……私はなにも悪くない……私は会社のために……頑張ったってきたのよ! 私を切り捨てるつもりなのぉぉぉ!?」


 黒木沢は長机をちゃぶ台のようにひっくり返し、暴れ出したので、審査部の男たちが三人がかりで押さえにかかった。


「うがーーーっ! 会社もぉぉ、加賀山もぉぉ、許さんぞぉぉぉーーーっ!!!」


 なんだと!?


 黒木沢はオネェとは思えないくらいのパワーで男たちを引きずり、オレのところへゆっくり向かってくる。


「加賀山くんは人を呼んできてくれ! 取り調べは後ほど行うからっ」


 ハゲ男は暴れる黒木沢の腕を掴むだけで必死だった。


 くっくっくっ、こいつはマジでラッキーだ!



 オレは取り調べ室に黒木沢が暴れていると伝え、会社からおさらばしていた。会社を出るとすっかり日は落ちて……22時かよ。


 なんとかして美玖をホテルにでも連れ込んで、ストレス解消にバブみを補給してやっぜ!


 は~、よかったぜ。あのまま黒木沢にぜんぶ罪をなすりつければ、オレはパワハラの被害者ってことでクビを免れることができる。それだけじゃねえ、結月ばかりを贔屓ひいきする日向の奴も蹴落とすことができる。


 通りかかった公園の前で笑いが止まらず、立ち止まっているときだった。


 スーッと後ろに気配を感じ振り返ろうとすると首にぶっとい腕が周りこんでくる。太さは野郎なはずなのにキレイに脱毛されており、初毛すらないかと思うほどすべすべだった。


「蓮く~ん……私を置いて、逃げちゃだめでしょ~。私とあなたは二人でひとつ! 会社なんてもうどうでもいいの。二人でいいことしましょ」


「うげぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ! 黒木沢っ! てめえなんでここにいるんだよっ! まさか突破してきたとかじゃ……」


 オレの首を絞めてきたのは黒木沢で、なんとか奴の顔を確認すると額からだくだくと血を流しながら、にたりと気色の悪い笑みを浮かべていた。


「ねえ、知ってる? 会社そばの公園はぁ、男と男が真実の愛を確かめる場所なのよぉ!」

「知らねえよっ! そんなことを!!!」

「私はな~んにもなくしちゃった。だから、蓮くんに秘めた想いを打ち明けたからぁぁーーーっ!」


 オレは黒木沢に身体ごと抱えられ、公園に連れ込まれる。



 このままでは確実にヤられる!!!



 助けを呼ぼうにも周りも黒木沢の言う通りの恐ろしい場所だった……。


 ベンチに座らされたオレは黒木沢にスーツやシャツを力づくではぎ取られ、まるでクマにでも襲われているような感覚に陥り、恐怖で身体が動かない!


 オレの上半身が裸になり、黒木沢が肌を蜂蜜はちみつを舐めるようにぺろぺろしだすと、そこへ偶然、へらへらした若者たちが歩いてきていた。


「おっ、おまえら、オレを助けろ! オレはこの男に襲われてるんだっ!!!」


 だが若者はオレの言葉を聞くどころか黒木沢に襲われているオレをスマホで動画を撮影し始める。


「うおっ!? レンだ」

「おい、早く撮ろうぜ」

「ライブでレンが男にやられるとかすげえな、ネトラのチャンネルは……」


「や、やめろ! 撮すんじゃねえっ!」

「いまさら、なに言ってんだよ。いっつもミクとやってるライブどころか、男に輪姦される変態動画までアップしておいて、マジ受けるって」


 は?


 オレは若者の言っていることが分からなかったが、会社でひそひそとオレの噂をしている奴らのことが思い浮かび……。



 あれはそういうことだったのかよおぉーーーっ!



 すべてに合点がいったとき、オレのズボンもパンツも黒木沢により脱がされてしまっていた。


「うん、うっとりするくらいかわいいお・し・り」


 太い腕で掴まれ……。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


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RTube健全化委員会カクヨムによる【R15】フィルターメディア良化法稼働執行中。


規制解除及び【R18】シーンの閲覧にはプレミアム会員への加入図書隊へ入隊が必要です。

―――――――――――――――――――――――


 黒木沢になんどやられたか、わからないくらい朦朧とする意識……またオレは男に襲われていた。


「に、妊娠しちまうぅぅ……」


―――――――――――――――――――――――

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。またたくさんのフォロー、ご評価、たいへん励みになりうれしいです。


あと数話で完結ですので、もう少しおつき合いください。またフォロー、ご評価もどしどしお待ちしておりますのでよろしくお願い申し上げます。

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