第25話 ヘッドハント

――――【蓮目線】


 美玖と緊縛プレイを楽しんだあとのことだ。


 出勤すると会社の受付嬢にいつも通り、声をかけてやる。会社でまっ先に顧客こきゃくに対応する部署であり、なかなかの見た目の良い女をそろえていて、ちょっとヤリ足んねえときに声をかけるのも悪くない。


 3回くらい寝た長い黒髪の清楚せいそな女に声をかけてやった。


「また今度、誘ってやるから食事でもいかね?」

「あ、あははは……そんな私レベルでモテモテの蓮くんと食事になんておこがましいよ……他の子を誘ってあげて」


 隣にいるショートカットの女、こいつはまだ2回くらいだったか、が長い黒髪の女の言葉にうんうんとそれに同意していた。


 だよな!


 美玖ほどいい女でもないし、遊び程度にもなりゃしねえもんなぁ。


 受付を過ぎてエレベーターに女子たちといっしょに乗り込むと、彼女たちはオレに見つめられると恥ずかしいのか、端によって固まりひそひそと話し込む。


 ふっ、やめてくれ。


 オレがイケメンでモテモテ、頭が抜群に切れて仕事のできる男で、しかも実家が金持ちだと吹聴ふいちょうするのは。またモテてしまって身体が持たねえよ。


 まあすべて、ただの事実に過ぎないんだけどなぁ、くくく……。


 課のあるフロアで降りるとエレベーターに乗っていた女子たちは、はあ~っと息を漏らしていた。なるほどな、オレみたいなイケメンの前では呼吸も止まってしまうらしい。


 罪だな、オレという存在は!


 フロアの廊下を歩いていると、三人組の女子社員たちが歩いてきたので、オレが微笑んで白い歯を見せるだけで向かって歩いてくる女どもは黄色い声を上げて恥ずかしそうに走り去る。いつも以上にオレはモテることを実感していた。


 やっぱイケメンは生まれ持っての勝ち組なんだってな!


 ホントに結月は後輩のオレにペコペコ頭を下げて、おべっかを使い、焼き肉やらマッサージなんかでゴマを擦る。


 くっくっくっ、負け組ってのはマジでつらそうだなぁ!!!


 そしてその結月の負け組中の負け組であるのが、オレに最愛の彼女、美玖を寝取られたことなんだからなぁ、あいつがこの事実を知ったとき、どう絶望すんのか、楽しみで仕方がねえったらありゃしねえ。


 あいつが絶望したところで美玖に訊いてやる。オレか、結月かどっちのセックスが気持ち良かったかってなぁ!


 結月の精いっぱい虚勢を張った面を笑ってやろうと思って、うちの課に入ると、課内の奴らが課長席に集まっており、なにやらずいぶんと騒がしい。


 オレが人だかりの後ろから、話声を拾うと……。


「日向課長、キミに加賀山くんを任せておくのはもったいないわ。彼を私に任せてもらえないかしら?」


 あのオネエ言葉、間違いない!


 どうやら声からして、第一営業部の黒木沢課長がうちの課長とやりあっているらしかった。


 うちの課長が若くして出世したもんだから対抗心を燃やしてるんだろう。


 だが、オレはうちの課長が出世したのは仕事ができるなんてこれっぽっちも思っちゃいねえ。どうせ重役にでも媚びと身体を売って出世したんだろうさ。


 なんせ、お気に入りの結月の成績が悪いということで、このオレさまのトップの営業成績に嫉妬して

ヒステリックに怒鳴り散らしてくるBBAだからなぁ。


 オレさまのスゴさを見抜けねえなんて、ボンクラにもほどがあるし、人を見抜けねえなら管理職なんてさっさと止めちまえ。


「彼はね、私の下で働いた方が絶対に会社の利益になるの。あなたでは彼を御せていないのは明白。ほらぁ、見て。彼と他の部下たちの営業成績を見ても分かるでしょ。私の下で働けば、蓮くんはもっと伸びるはずよ」


 黒木沢課長はうちの課すべての者の営業成績が張り出された壁を見ながら、俺を誉めちぎる。


 はっはっはっ、これがオレの実力なんだよ!


 枕営業だろうが勝ちゃいいんだよ、勝っちゃなぁ。


 だが無能でネトラレの最低辺な結月がなにかひそひそとうちの課長の耳元でささやく。


 さすが結月!


 やることが姑息で小物すぎて笑けてくんぜ!


 オレが結月より先に出世すんのが嫌で、オレをここに引き止めて、出世させねえつもりなんだろうな。


 やることがいちいちセコいが、そもそも結月とオレは格がちげえんだって!


「黒木沢課長、それは引き抜きということですか……? でしたら部長の許可はもちろん取られてるんでょうね。黒木沢課長のことです、こちらが断っても譲らないのでしょうね」


「さすが日向ちゃ~ん。私のこと、よく分かってるじゃな~い。狙ったものは逃さない……それがわ・た・し!」

「相手の同意なく、身体に触れるのはセクハラでは?」


 黒木沢がうちの課長の手に触れようとして、さっと立ち上がったうちの課長に避けられる。


「や~ね、同じ管理職同士のスキンシップよ。そんなにカリカリしてると小じわが増えちゃうわ」

「あなたに触れられるくらいなら、小じわが増えた方がマシです」


 キモい奴だが、あのムカつく課長が苦虫を噛み潰したような顔をしてんのには、笑けてくんぜ!


 黒木沢と組めばオレを認めようとしねえ、課長やら結月、それにうちの課の奴らにざまぁしてやれるよな。


「部長の決裁が出てんなら、うちみてえなしょぼい課に縛られる必要なんてねえよなぁ! オレは行くぜ、営業一課によぉ!」


「ホントにぃ? よかったわ、あなたはこんな成績が上がらないところに置いておいちゃダメだと思ったの。ぜひうちで歓迎するわぁ~」


「そうか、なら仕方ないな。黒木沢課長、書面があるなら判を押しておきます」


「そうなら、もったいないぶらずに早く判断しなさい。まったく無能なんだから! いったい何分無駄にしたと思ってるの? 無能ついでに私がもうアラサーで結婚できないあなたをもらってあげてもいいわよぉ!」


「ごめん被ります。話が終わればさっさと出ていってください。我々は一分一秒も無駄にはしたくないので」


 相変わらず、美人なくせに塩対応で減らず口だぜ。


 まあ湿気たところから、花形の営業一課に異動できるんだ、もうオレは結月とは格が違うんだよ。結月からすべてを奪って、オレは笑いが止まらなかった!



――――【麟太郎目線】


 蓮がうちの課から黒木沢課長に連れられて去っていった。まだ引き継ぎがあるから何度か戻ってはくるだろうが、蓮がちゃんと業務を引き継いだ者に顧客データを渡すかどうか不明瞭だ。


 そりゃ枕営業してたなんて言えないよな!


 蓮の引き抜き騒動から落ち着きを取り戻し、みんな業務のために席に戻って、蓮がいたときよりもはつらつと働いていた。


 それもそのはず、うちの課の人たちも蓮には苦々しく思っていたらしく、口々に蓮が去ったことをよろこんでいる。


 俺も仕事をしなければと思うも、蓮の一人相撲っぷりが笑えてきて、営業先に出かけるまえに給湯室でコーヒーでも飲んで心を落ち着かせてから、と立ち寄った。


 ドアを開けると誰もいなかったのだが、ふっと後ろに気配を感じた瞬間、ピタリと背中に柔らかな感触と温かみが走る。


 どうやら誰かに抱きしめられてしまったようだ。


 振り返ろうとすると、抱きついてきた者が俺に語りかけてきていた。


「よかったよ。結月に教えてもらわなければ、加賀山を引き留めていたところだ。結月には感謝しかない」

「課長……マズいですよ。職場でこんなこと……」


 俺は気持ちを隠さなくなった課長に戸惑ってしまう。コラボライブ配信が終わったあと、姫野の部屋で三人であんなことがあっただけに……。


―――――――――――――――――――――――

縄の勇者の勘違いwww


ライブ後の打ち上げ……なにがあったんでしょうねw 蓮は追放先(?)でなにをやらかしてくれるのか、落ちぶれてゆく姿を見たい方はぜひフォロー、ご評価お願いいたします。


業務連絡(?)です。なろうに修正前の原稿で投稿してみました。あちらでも修正が入るかもしれませんので、お早めに。

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