第23話 上級プレイヤー
成り行きから共闘することになったのだが、姫野は苦虫を噛み潰したような渋い顔で、課長に問いつめていた。
「課長……せんぱいとキスしようとしてましたよね? だったら、わたしもしていいんですよね?」
「ん? なんのことだ?」
課長は課長で姫野の問いにすっとぼけてスルーしようとしており、さすが若くして管理職に選ばれるだけあってなかなか食えない。
「職場で上司と部下が堂々とキスなど、するはずがなかろう。姫野はちょっとドラマの見すぎで頭の中がピンク色に染まりきってるんじゃないか?」
俺は課長に“おまいう“って言いそうになるが、キスする前の課長の憂いを帯びた表情がかわいかったので、俺は押し黙ることにした。
課長は姫野を子どものようにあしらい鼻で笑っているようで、姫野は悔しそうに拳を握り、ぐぬぬっと歯噛みしている。
「せんぱい、ホントに課長とキスしようなんてしてたんですかぁ?」
「あ、いや……会社だから、そういうことしたらいけないよね」
「じゃあ、また家にお招きしますので……そのときにでも愛を確かめ合いましょう。両親もクリスたちもせんぱいを待ってますから!」
「待て、姫野! まさか家に連れこんで結月とよからぬことをするつもりじゃないだろうな!?」
「え~、知りませ~ん。課長こそ、妄想がすぎるんじゃないですかぁ?」
うぷぷっと姫野は課長を細めた目で見て笑っており、課長にまったく負けていない。今度は課長が両手を握りしめて直立したまま、ぷるぷると身体を震わしていたかと思うと、いきなり言い放つ。
「前言撤回だ! さっきは姫野に邪魔されて、キスできなかった。結月、いまここで姫野に見せつけながら、してやろうではないか!」
「せんぱい! 課長とキスなんかするより、わたしとちゅーしましょ♡」
二人とも俺が美玖に浮気されて、かわいそうだと思い励ましてくれてるんだろうけど……。
「いや、二人ともおかしいって!!!」
ホントは二人とちゅーしたかったのは内緒にしておいた方がいいだろうと思った。
それから数日も経たない内に姫野からLINEが入る。
【みのり】
《せ~んぱい》
《許可おりました♡》
【麟太郎】
《マジ!?》
《ホントですよ》
《事務所》
《よく許可したね》
《はい》
《許可してくんなきゃ》
《引退するって》
《騒ぎ立てましたから♡》
ほ、本気すぎる……。姫野にとって俺とコラボしてもな~んもメリットなさそうなのに、俺のために身体張ってくれるなんて、先輩想いの本当にいい後輩だ!
[夏美が参加しました]
【夏美】
《姫野はコラボできそうか?》
【みのり】
《はい、ばっちりです!》
【夏美】
《そうか、なら楽しみだ》
《もちろん私もいける》
《ホントに》
《大丈夫ですか?》
【夏美】
《任せてほしい》
【みのり】
《信じてください!》
《二人とも》
《ありがとう》
二人の築き上げてきた地位を危うくしてしまうようなコラボでしかないのだが、俺が何度として二人を止めても言うことを聞いてくれなかったので、諦めて美玖と蓮を世間に晒すことに注力することに決めていた。
――――姫野の部屋。
コラボの当日、俺たち三人は姫野の部屋に集まり待機していた。
もちろん、全裸じゃないがな!
いつ蓮と美玖がおっぱじめるか、はっきりと予想はつかないのであるが、俺が留守にすると美玖が蓮を呼び込んで、鬼の居ぬ間に……って感じでえっちすることが多い。
俺は鬼じゃないと思うし、豆まき感覚で寝取り魔の蓮にBB弾を浴びせたのが懐かしい。
こうなったら課長も姫野も俺の大切な同志。
サブチャンネルだけでなく、メインチャンネルのことも正直に打ち明けていた。ドン引きされコラボなんてなかったことにされて、課内でも軽蔑されるんじゃないかと心配していたが、杞憂に終わる。
思春期の中高生のように二人は蓮と美玖のプレイを食い入るように見ていて、 「そうか結月もこうしてあやしてほしいのだな」、「いっぱいせんぱいにおっぱい飲ませてあげます」などと若干、俺の趣味だと勘違いされそうになっていた。
姫野はしぶみるい先生とのライブで課長の依頼として“なつみん“の2Dキャラを作るお絵描き配信を行っており、俺たちのコラボライブ前からさまざまな界隈に憶測と反響を呼んでいる。
ガチVTuberの姫野の部屋のモニター、カメラ、マイクなどの機材を目の当たりして、俺の実感としては、ビッグバン前の宇宙のように膨大な期待が一点に集中しているような気分だった。
それは姫野も課長も同じようで、二人はいつもなら言い争うところ、姉妹のように仲よくしている。
「まさか本当に実現するなんて思ってもみませんでしたぁ」
「私もそう思う。しかしそれにしても姫野のご実家が裕福であると聞いていたが、ここまでとは……」
課長は姫野の部屋を見回しながら、気取らないお嬢さまである姫野に感心していた。
「まあ負ける気はまったくないがな」
だがそこは課長、ぼそりとつぶやき姫野に対抗心を燃やしている。それは姫野も同じらしい。
「実家に頼らなくても課長には負けませんから」
それでもお互いをライバルだと認め、動画配信者としての矜持みたいなものを俺は先輩二人から学ばせてもらうつもりでいた。
ただ唯一、配信前に懸念事項があった……。
2Dのアバターを使ってる以上リスナーから俺たちの中の人がまったく見えない。それはいいんだが、なんで課長と姫野はお腹とかおへそとがスケスケになったベビードールを着てるんだよっ!
「あ、あのぅ、二人ともなんつうか、こう目のやり場に困るんですけど……」
「せんぱい、これは配信してて疲れてしまってもすぐに横になれるとっても便利なんですよ」
「姫野の言う通りだ。かくゆう私も配信するときはベビードールを正装として愛用している」
いや課長はコスプレしてるけど顔出ししてるときは、ここまできわどい格好してないでしょ!
「イヤ……なのか、結月は?」
「課長、なら仕方ないですよね。脱いじゃいましょうか」
「そうだな、それがいい」
本当に二人は全裸待機になりそうだったので、俺は慌てて非を詫びる。
「すみません、お願いですから正装のままでいてください」
俺はもう女子会からのお泊まり会に、間違って参加してしまったような気分だった。
ローディングが解けた瞬間に俺はマイクに語りかける。
「今日は特別ゲストが来てるのだ。超人気レイヤーのなつみんと、こちらも超人気、VTuber幻鏡院ミランのお二人がコラボしてくれてるのだ。二人ともどうかしてるのだ」
「ふっ、どうかしてるはないだろう。極東にて、しがないレイヤーをやってるなつみんだ。みんなよろく頼む!」
¥723
《キターーーー!!!》
¥7230
《最高ぉぉぉーー!》
¥72300
《まさかの女神降臨!!!》
課長が「なつみん命さん、ありがとう」と読み上げた途端、スパチャがうなぎ登りに跳ね上がる。
なつみんのキャラは長く美しい銀髪に目の覚めるような澄んだ碧眼の美少女で、ベレー帽をかぶり、上半身は儀礼用の軍服でばっちり決めている。
が、スカートを履き忘れたかのように黒色で三角のアンダーウェアが軍服の裾から恥ずかしそうにこんにちはしていた。
“なつみん“のキャラデザを見た課長は「私はこんなハレンチではない」とぼやいていたが、俺の目の前で紫レースのベビードールを着ているのはどうなのかと思ってしまう。
¥723000
《ナイスなつみん!!!》
¥10000
《履いてないだと?》
¥30000
《カッコかわよ!》
¥50000
《クッコロ騎士っぽいw》
【こんな凄まじい額のスパチャは初めてだ】
しゃべって手を振りながら、課長は俺たちにメモを見せる。
「キラッ、キラッ! 鏡よ、鏡、VTuberの中でいちばんかわいいのはだ~れ? そう、ミランだよっ♡」
メスガキ、わからせてやりたい感を漂わせる紫がかった髪色の王女さまキャラ、それが幻鏡院ミラン。だがちょっと痛いところも彼女の人気の一役を担っている。
¥300000
《いっちばーん!》
¥310000
《ミランいいっ!》
¥500000
《ミランは……》
《世界イチィィィィーーッ!》
姫野が登場し、名乗りをあげるだけで超高額のスパチャが飛んでいるが、姫野の解説によると、それもこれもコラボ効果とリスナー同士の競い合いらしいとのことだった。
「今日は夢のコラボライブにようこそなのだ!!」
普通ならば登録者数100万人規模のRTuber、VTuberがコラボすることなど希だ。
俺たちのライブを観るために、同接は凄まじい勢いで増えてゆき、軽く自己紹介するだけですでに500万人……。
姫野のお世話兼アシスタントのメイドさんがTwitterのトレンド1位になったことをフリップで知らせてくれていた。
そうこうしている内に蓮と美玖が動く!
大人のおもちゃ屋では、蓮と美玖は上級セックス国民感を醸し出し、バイブやピンクローターには見向きもしていなかった。
あ、いや……しっぽのついたア○ルプラグは買っていたが……。
動画を配信している都合上、よく観察しているのだが、あいつらはいったいどこへ行こうとしてるのか、さっぱりわからなくなる。
蓮が黒いエナメルのようにテカテカ光沢の紙袋から、ブツを取り出していた。
「それは真っ赤なロープが出てきたのだ!」
「「えっ!?」」
《さすが上級エロ国民!》
「エロのレベルもぶっちぎりで上級なのだ」
《まさかの緊縛プレイw》
《予想裏切らないな》
だが蓮と美玖はほぼすべてのリスナーの予想の斜め上を突っ走ってしまったのだった。
―――――――――――――――――――――――
また日本が誇るHENTAIカップル蓮と美玖。二人は、またはやらかしてくれるに違いないのだ!
蓮と美玖のざまぁをご期待の読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。
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