第21話 緊急会議

 まさか浮気調査をしていると蓮の枕営業が判明してしまうなんて思ってもみなかった。さすがにこいつをサブチャンネルに公開するわけにもいかなかったが、蓮を追いつめる恰好かっこうの材料となりうる。


 まさに星乃さまさまだ。


 姫野に動画編集の委託先を紹介してもらい、俺はまんが喫茶でソフトクリームを舐めながら、美玖と蓮のただれた逢瀬に寄せられるコメントに笑いながら、見ている。


 ただ、いちいちまんが喫茶に移動して、チェックや配信するのが面倒になってきていた。


 そういや向かいのマンションに空き部屋が出たって、お隣さんが言ってたような気がする……。


 そこから配信するのも手だな。



 なっ!?



 俺はサブチャンネルを流している間にも驚いていた。画面に釘付けになっている間にも、ぽたりぽたりと落ちる溶けたソフトクリーム……。


 う、嘘だろ。


 登録者0だったのにいつ間にか1万、2万と回ってゆき、とうとう10万人に達してしまった。



 ――――本チャンネルから来ました!


 ――――レンとミクに天誅てんちゅうを!!!


 ――――NO浮気!!!



 コメント欄は軽く1000件を越え、美玖と蓮に断罪を与えるよう多くの声が寄せられている。


 再生回数は?


 500万回だとーーーーーーーーーーーッ!?


 俺は寄せられたコメントに注目していた。


 メインチャンネルはほぼ男性のリスナー中心だったのだが、データを見る限りサブチャンネルは意外なことに女性が半数近くを占めている。


 浮気許すまじ!


 そんなコメントが多く書き込まれていたことからも、サブチャンネルに寄せられる期待が高いことが分かった。



 RTube運営からメールが来て、収益を振り込んだので確認願いますとのことで、ATMに立ち寄り、収支が記載された通帳を見て手が震えた。



摘要 お支払い金額(円)  お預かり金額(円)

―――――――――――――――――――――――

振込 キユウヨ         283,354

振込 アールチユーブ   30,578,127



 さ……3千万円だと!?


 確かに10億稼いでやるって意気込んだものの、少ない額だとすぐにだれるから、あくまで努力目標として設定したんだけど、初月からそんなに儲かるとは思っていなかった……。


 俺の手取りの100倍って、ヤバいなこれ。


 もちろん初期投資としての経費はかかった。



 カメラ等パソコン機材がざっくり100万。


 しぶみるい先生への謝礼が50万。


 星乃への謝礼が30万。


 蓮の接待費がだいたい食事やマッサージに行ったりして24万。



 計204万円ほど……差し引きすると俺の手元には2800万円ほど残ってる。美玖との結婚を考えて貯金してたのも合わせると3400万円にもなってしまった。


 しかし美玖と蓮は凄いぞ!!!


 あいつらが一晩えっちするだけで、150万ほど俺にみついでくれるんだから、笑いが止まらなくなる。



 仕事帰りに課長と姫野からサンドイッチなどをもらったため、夕飯はいらないと美玖に伝えてあったので帰宅するとすでにダイニングテーブルの上の食器などは片づけられていたが、ぽんと小脇に抱えられるくらいの段ボール箱が未開封のまま俺の席の前に置いてあった。


 テープをはがして開けると……。


 マジか!?


 眩いばかりの金属光沢!!!


 俺は金と銀の盾を同時に受けったのだ。1ヶ月の間に登録者数が10万から一気に跳ねて100万を超えて、いまもなお宇宙空間並みに膨張ぼうちょうを続けている。


 かたかたと震える手で美玖に見つからないよう、金銀の盾を箱にしまってソファーの下に隠しておいた。


 そのときだった。スマホがヴーッ、ヴーッと唸っていたので手に取るとメッセージが入っている。



【夏美】

《明朝、朝礼後に課内会議を行う》

《結月は参加してくれ》



 送り主は課長からだったのだが、彼女がここまで急に会議を催したことなんてほとんどない。会議を行うときは段取りを踏み、各所に根回しして時間を調整してやる人なのに、今回はやけに性急だ。


 なにかトラブったんだろうか?


 もしかして、蓮の枕営業が発覚したとか……。



           【麟太郎】

           《了解いたしました》

           《なにかありましたか?》


【夏美】

《ああ、大ありだ》

《だがこのことは明日じっくり話そう》


      [みのりが参加しました]


【みのり】

《なんですか?》

《課長》

《朝は忙しいんです》

勘弁かんべんしてください》


【夏美】

《姫野は呼んでない》

《私と結月だけの会議だ》


                 【麟太郎】

                 《えっ!?》


【みのり】

《えっ!?》

《課長》

《本気で》

《言ってます?》



 俺は課長の返信に戸惑うがそれは姫野も同じだったようで、二人でほぼ同時に突っ込んでしまった。



【麟太郎】【みのり】


【夏美】

《大事な会議だ! では明日》

《とにかく姫野は絶対参加しなくていいからなっ!!!》


       [夏美が退出しました]


【みのり】

《せんぱい》

《どう思います?》


               【麟太郎】

               《わからん》

               《とにかく》

               《参加してみる》


【みのり】

《あとでお話》

《聞かせてください》


               【麟太郎】

               《ああそうする》



 俺は眠っている美玖に向かって感謝の言葉を心の中で告げる。



 美玖、本当にありがとう、浮気してくれて!



 だがまだ終わらねえぞ。俺を裏切ったんだ、10億きっちり稼いだあかつきにはボロ雑巾のように捨てられることを覚悟しておいてほしい。


 俺は社畜だが、美玖、蓮……おまえたちは俺の家畜なんだよ!!!



――――翌朝。


「先輩、聞いてくれよ。オレなんか成果給ってやつ? それを含めたら今月35万も稼いでしまったぜ! だがオレはあんたに奢ったりしないからな。悔しがってくんないと、先輩のやる気スイッチが入いんねえからなっ! どうだ、気づかいのできる後輩を持って光栄だろ~?」


 朝礼が終わり、相変わらず蓮は嫌みったらしいことを言って、俺をイラつかせようとしてくるがまったく気にもならなくなっていた。


 はーっ、スゴいスゴい!


 俺は蓮の給与の100倍が通帳に入ってるがな!


 ははっ、おまえのやる気スイッチはセックスだけだろ。しかも俺に押されてるとも知らずにいるんだからな。


「そうだな、俺はスゴい後輩を持って光栄だよ」

「はあ? 強がんなって! 素直に悔しがってみたら、どうだ? ああ、そうか格の違いを知って諦めたのか。まあ、先輩にはそういう人生がお似合いだわ、はっはっはっーーっ!」


 俺は蓮の言葉に吹き出しそうになる笑いをこらえ、精いっぱいダメな先輩の演技をするのに必死だった。はっきり言って、俺が蓮の生殺与奪せいさつよだつを握っているようなものだったから。


 だが課長が蓮の枕営業の事実を知ってしまって、俺に召集をかけたのなら話は別だ。蓮にしかるべき処分を与えられるのはいいが、いま蓮に会社をクビになってもらっては計画が狂ってしまう。


 俺ははやる気持ちをなんとか抑えながら課長に指定された会議室に向かっていた。


―――――――――――――――――――――――

初めて出た収益! 10億には遠いですが、超人気レイヤーの課長と超人気VTuberの姫野が絡んできたら、どうなるでしょう? 課長と姫野の絡みと蓮と美玖の絡みが交差するとき、なにかが起こる! ご期待の読者さまはフォロー、ご評価いただけますとありがたいです。


早ければ、今週末なろうに修正前の原稿を投稿する予定です。まだ未読の方はそちらでどうぞw 限界突破についても時間の余裕ができたら、頑張ってみます!

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