第14話 ママ(2)

 晩餐会ばんさんかいは終始なごやかに進み、俺は姫野はおろかお父さんにまで気に入られてしまったらしい。


 家族だけで話し合いが持たれ、姫野の虚偽の妊娠報告により大泉議員とのお見合いはもちろん立ち消えになっていた。


 出された食事のひとつひとつが、かつて美玖といっしょに食べにいった一人二万円のフランス料理をチープに感じてしまうくらい断然美味くて、姫野の家はケタ違いのお金持ちなんだと自覚させられる。


 毎日、豪華な料理を食べているのかと訊くと「さすがに毎日は食べてませんよ」と姫野は言っていたのだが、そう言えば以前彼女にもらったおにぎりを食べた途端、あまりの美味さにほっぺたが落ちそうになったことを思い出した。


 普段は質素でも素材自体が庶民とは根本的に違うのだと認識させられてしまう。



 晩餐会が終わると俺は姫野のお父さんに連れられ、お屋敷の地下への階段を歩いていた。地下室に着くと姫野のお父さんご自慢のコレクションが部屋いっぱいに陳列ちんれつされてある。


 ちなみにあのあとレミントンM870ショットガンをじっくり見させてもらったが、弾薬ショットシェルは入っていなかった。


「銃を突きつけられて逃げ出すような男に娘は渡せんからな、ははははっ!」


 どうやら俺を試すつもりだったらしい。


 お父さんは破顔一笑していたが、普通は逃げ出すだろ……。それくらいでないと日本を代表する持株会社のCEOはできないか。


 壁にかかったガンラックには、無可動実銃という溶接などの加工をして撃てなくしたホンモノのアサルトライフルやサブマシンガンが置いてある。日本刀にたとえれば、真剣を刃引きしたみたいなものだ。


 俺がコレクションに目を輝かせているとお父さんはうんうんと頷いて本当にうれしそうしている。


 お父さんはポケットから鍵を取り出し、頑丈なロッカーの扉を開ける。後ろからのぞくと、どうやら猟銃の保管庫だったらしい。


 レミントンM870を保管庫にしまう際にお父さんはとある銃を指差して言った。


「キミにはこれがなにか分かるかね?」

「こ、これはぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」


 俺は保管庫に立てかけられた黒一色の一丁を見て、驚いてしまう。あのアサルトライフルとほぼ同じ操作系で間違いない。


「おお、分かるのか、こいつの価値を」

「分からないわけないですよ、サイガ12ですよね。日本でホンモノを見られるなんて思ってもみませんでした」


 サイガ12ってのはソ連が開発したAKをショットガン化したようなものだ。鍵付きの保管庫に厳重にしまわれてあることからして、猟銃許可を取ったとても珍しいものなんだろう。


 お父さんとカバーとボルトなど外して簡易分解して見せてもらっていた。クレー射撃の免許を取ったら、いっしょに行こうと誘ってくれる。気分は親子でプラモ作ってるのと似てるだろう。


 お父さんは俺が銃の価値を分かっていたことで肩を叩いて、すごくよろこんでくれていたのだが急に様子がおかしくなる。


「私は悲しい……」

「どうされたんですか!?」


 彼は壁にだんと強く手をついて、うなだれてしまい表情が暗くなってしまったのだ。


「うむ……取引先でも部下にも銃器を愛する者が少なくてな。ゴルフなどに行っても、やれ危険だとか抜かして、つき合おうともしないのだ。確かに取り扱いを間違えば危険であることは間違いないが、それは何にでも言えることだよ」


「はい、姫野社長のおっしゃる通りです。やっぱり日本は銃規制されてることもあって、人気はありませんよね。俺も知人にサバゲ行ってるって言ったら、白い目で見られたこともありました」


 銃規制のおかげで安全に暮らせているのは間違いないのだが、偏見を持たれるのはちょっとツラい。


 猟銃ということで必然的に狩猟の話になったが、お父さんは猟友会にも参加されてるようで半分ボランティアに近いとのことだった。


「なんかそういうの、ノブレス・オブリージュ貴族が負う責務って感じですごくかっこいいと思います!」


「キミって奴は……キミって奴は……なんて素晴らしいんだ! そうなんだよ、世のため人のために尽くすことが分かってるとは、やはりみのりの選んだ男だ」


 俺とお父さんが熱く銃器談義に花を咲かせていると、そーっと地下室の重いドアを開けて、姫野が悲しそうな顔をしながら入ってきたと思うとお父さんの前に立ちふさがっていた。


「お父さん! せんぱいはわたしの彼氏なの……どっちゃいや……」

「い、いや、そんなつもりはないんだ。ただ結月くんが歳の離れた友人に思えてならなくてな、すまんすまん」


 まさか姫野の奴、嫉妬したとかではないよな?


 いやいや、そんなことはない。俺とお父さんが仲よくするのに仲間外れにされてしまったと思ったんだろう。



 姫野に手を引かれ、また彼女の部屋へと戻ってきたのだが、お父さんは手を伸ばして俺と別れるのを名残惜しそうにしていた。


 一難去って、ソファーに腰かける俺たち。


「せんぱい、ありがとうございました! お父さんが納得してくれるって滅多にないんですよ」

「そうなの?」

「はい!」


「それはいいんだけど、姫野……できちゃったって言われたときはマジで驚いたんだからな。ご両親とも納得してくれたから良かったものの……」

「ご、ごめんなさい……あれくらい言わないと認めてもらえないかと思って」


 姫野の表情はすっかり曇って、いつ涙という雨が降り出してきてもおかしくないくらい申し訳なさそうにしていた。


「謝らなくていいよ、怒ってはいないから」


 ちょっと馴れ馴れしいかと思いつつも、慰めるつもりで姫野の髪をなでると彼女は……。


「せんぱいのそういう優しいところ、だ~い好きっ!」

「ええっ!? ちょっ!?」


 子どもが親に甘えるように素直な気持ちを爆発させて、俺の胸に飛び込んできていた。


「せ~んぱい! お父さんとお母さんから交際の許可も下りたことですしぃ……今晩は本当に子作りしないとウソになっちゃいますよねぇ~」

「ひ、姫野!? まさか酔ってるのか?」


 姫野はお酒が入ったことで上気して、俺に迫ってくる。


「酔ってなんかいませんよぉ。いえやっぱり酔ってますね、お酒じゃなくてぇ、せんぱいに」


 冗談を言って、姫野はうふふっとひとりで笑っていた。


「わたしとぉ、えっちなことするのはいやですかぁ? わたしはぁ、せんぱいといっぱいえっちなことしたいんですよぉ~」


 姫野の冗談は止まることを知らず、酔ってるはずなのにブラウスのボタンを爆速で外して、脱いで投げ捨てる。また姫野は俺に柔肌を晒していたが、演技のときに身につけていた下着とは違っていた。


 黒いレースのクソエロいブラジャー……。


 姫野の白い肌と黒いブラはコントラストをつけて彼女の豊かなおっぱいをより強調させる。


「い、いや姫野、冗談はやめろよな、な。もう演技しなくていいんだからさ」


「だめですぅ。せんぱいはもうわたしの婚約者同然なんですから、逃がしません。それにさっきはあんなに情熱的なキスをしてくれたじゃないですかぁ? わたし……もうキュンキュンしちゃって、ダメなんですぅ」


 姫野はたわわに手をやり、危ない手つきで触れて、吐息を漏らしながら俺を見下ろす目はどんどん蕩けてゆく。


「ブラだけじゃなく、やっぱりショーツもみたいですよね?」


 はあ、はあ、と息を荒くした姫野はお嬢さまらしくないお行儀の悪さでタイトスカートをポーンと脱ぎ捨てた。


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「姫野……俺には彼女が……」


 俺は姫野のお願いに首を横に振る。


 ここで姫野とえっちしてしまったら、俺を裏切った美玖となんら変わらない。


 俺の美玖を想う言葉に嫉妬したのか、姫野は頬を膨らましてしまう。そうかと思うと、彼女は俺に身体を委ねてたわわを胸にゆさゆさと押しつけながら、耳元でささやいた。


「わたしとぉ、彼女さん……どっちがかわいいですかぁ? そんなにわたしって魅力ないんですかぁ?」

「あ、いや……それは姫野に決まってるんだけど、けじめってものが……」


 比べてはダメなんだが、美玖は姫野のように俺に甘えてくることはあまりなく、いま思えば淡泊だったのかもしれない。


 煮え切らない俺にしびれを切らしたのか、姫野はふうっとため息をついたあと、俺から離れて立ち上がってしまう。


 姫野は諦めてくれたっぽい……。


 美玖というより、不倫はダメって観点から操を立てられ良かったと思う反面、姫野とえっち出来なかったと残念がる自分がいた。


 だが姫野は諦めたわけではなかった。


 考えごとをしていた俺の身体になにかポンと落ちてくる。


「姫野っ!?」


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 姫野は俺の手をお腹へと思った導いていこうとしていた。


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お待たせしました。次回ギャグ要員の蓮と美玖の登場です。おかしいな、寝取られたはずなんだけど、ちっとも悔しくないと思われた読者さまはフォロー、ご評価いただけますと二人のギャグ度がマシマシになりますw


※サイガ12の話を書いたら、ちょうど発売日が決定してたw

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