第13話 ママ(1)
何度か姫野の家に招かれているが、姫野のご両親と顔合わせは初めてだ。
いつもは姫野の部屋で幼馴染っぽい雰囲気でゲームしたり、漫画読んだり、VTuberの話を聞かせてもらったりして楽しく過ごさせてもらっている。
決して彼女や恋人みたいなつき合いではなく、ただの友人ポジションだった。
「せんぱいにこんなこと頼んでしまって、ごめんなさい」
「いやそれはいいんだが、なんで俺なんだ?」
「それはわたしがせんぱいのこと、いちばん頼りになる男性だと思ってるからです!」
俺は姫野とホテルのように赤絨毯の敷かれた廊下を歩いていて、俺たちは腕組みしながら恋人のように接している。姫野は声優を目指してるだけあって演技がホンモノに見えて仕方ない。
にこにこと、しあわせそうにする姫野はただただかわいい!
なるほど、嫌なお見合い相手とお見合いしなくていいというのは、そんなにうれしいことなんだな。それはそうだよな、好きでもない相手と結婚させられたら誰でも嫌だろう。
だが姫野はお見合い相手のことを知っているのだろうか?
気になってしまった俺は訊ねてしまっていた。
「なあ、姫野はお見合い相手のことを知っているのか?」
「はい。写真見ます?」
「ああ、頼む」
姫野はスマホをポケットから取り出して、俺に画面を見せてくれている。
うっ!?
俺は画面に映った男性の写真を見て、喉を詰まらせてしまっていた。
「か、彼……大泉孝次朗議員だよね?」
イケメンで若く祖父も父も国会議員で父は総理になったという超サラブレッド、彼自身も大臣間近といわれており女性からもモテモテ、とくに大泉構文が有名な新進気鋭のイケメン議員だ。
彼がテレビに、街頭演説に、出ようものなら若い女性から黄色い声が飛ぶのが日常茶飯事。
「それがどうかされましたか? せんぱいに比べれば、彼なんて足下にも及びませんよ。だって国会議員と言っても親の地盤を引き継いだだけですから。それに大泉構文って、笑っちゃいますよね。はっきり言ってゴミですよ」
ひえっ!?
スマホを返し、大泉議員の写真を確認すると姫野はいつも蓮を見るような蔑んだ目で見ている。
姫野の評価は手厳しい……。
蓮がゴミ袋なら、大泉議員はレジ袋といったところか。
将来、首相になってもおかしくないような国会議員、かたや平社員の俺。
「それに彼よりもわたしは断然せんぱいの方が顔も身体も心もイケメンだと思ってます!」
「はは……はは……ありがとう……」
それなのに俺の方がいいとか苦笑いするしかない。
まあ姫野くらい俺の方が格好いいと真顔でいえる本気の演技に徹しないと彼女のご両親を
なら演じてやるよ、蓮の言うところのイキリ先輩ってヤツをよぉ!
「そうだな、姫野の言う通り国会議員上等だ!」
「はい! やっぱり、せんぱいはわたしの見込んだせんぱいです」
「はは、なんだかレジ袋程度になら負ける気がしないな」
普通なら勝負にもならないような相手だが、かわいい姫野が俺に寄り添い甘えてくれることと蓮に美玖を奪われ浮気を重ねられて、振り切ってる俺に怖いものなんて、まったくなかった。
どこか異世界ファンタジーの王族の王宮か貴族の屋敷に迷いこんだような錯覚を覚えつつ、大きな両開きの扉の前にたどり着くと執事たちが開け放つ。
すると天井にはまばゆいばかりの光を放つシャンデリア、壁やテーブルと椅子はどこかロココ調を思わせる豪華な雰囲気で、ひとつひとつの調度品の値段など庶民の俺には見当もつかなかった。
大きなテーブルの向こうには姫野の父親らしき人物が座っており、立派な口ひげに中年らしい節度あるツーブロックの髪型でいかにもイケオジといった印象だった。
その隣には姫野と目元や鼻筋がよく似た美しくかわいらしい見た目の女性がいる。おそらく姫野の母親だろう。姫野の年齢からしてもアラフォーなんだろうけど、パッと見だと姫野のお姉さんぐらいに思えてならない。
俺が二人に軽く会釈すると女性は俺に会釈を返してくれたが、男性は腕を組んだまま俺をジッと品定めするかのように見ていた。
「お父さん、お母さん。彼がわたしのおつき合いしている結月せんぱいです」
「どうもはじめまして、結月麟太郎ともうします。みのりさんとは仲よくおつき合いさせてもらっています」
おつき合いって言ってもあくまで仕事上でだ。たまにお家に寄らせてもらって、二人で話したり、オタク的な遊びをしたり、ゲーム実況のための練習したりしてるくらいで友だちみたいな感覚、この程度なら男女交際とは言えないよな。
「姫野ホールディングスCEO、姫野
えっ!?
まさかとは思っていたが、姫野は誰でも知ってるような高収益で一部上場企業の子会社を抱える社長令嬢ってこと?
驚いて姫野の方を向くと恥ずかしそうにして
ペコリと姫野のお母さんが俺に頭を下げて、「みのりの母のゆかりです」と俺にあいさつするが、姫野のお父さんの表情は固くまったく俺に気を許すことはない。
「どういう汚い手を使ったか分からんが、みのりだけではなく、ジョン、クリス、エルメスを
「お父さん、結月せんぱいはそんな人じゃないよ」
姫野は俺を
「みのりは黙っていなさい」
「黙りません! お父さん、お母さん……わたしのお腹の中には、すでにせんぱいとの愛の結晶が宿ってるんです。もう止めたって無駄なんだから」
は? なんだって!?
「なんだと!?」
「なんですって!?」
目を見開いて驚くご両親。お父さんがバンとテーブルを叩くとテーブルのまん中の花瓶が揺れる。俺も気持ちはお二人とおんなじだった。
そこまで打ち合わせしてないって!!!
俺は隣に座る姫野の方を向くと、彼女はテーブルの下で手を合わせ、俺に口裏を合わせてほしそうにしている。
姫野のお母さんはまさかの娘のできちゃった事態に口に手を当てながら、震えた声で言っていた。
「奥手だとばかり思っていたみのりが、子作りに励んで、すでに妊娠しているだなんて……」
「あり得ない、あり得ないっ! 私の大事なみのりが妊娠させられているなんて……どうしてくれよう!」
お父さんは頭を抱えて、この世の終わりみたいに叫んでいる。
「おまえは、なんてことしてくれたんだ。うちの娘を
姫野はお父さんの性格を本当によく理解していたのか、予想が的中したことにお父さんに見えないようにガッツポーズを取ったかと思うと、俺の手を握っていた。
互いに見合って、そのときがきたと頷き立ち上がる俺たち。
「せんぱい……」
「みのり……」
人前でしかも後輩とキスするなんて、とんでもなくこっ恥ずかしい……。だけど姫野を嫌がるところへ嫁がせないという人助けだと言い聞かせて、彼女とじっと見つめ合った。
演劇とはいえ、姫野は頬を赤く染めて俺から視線を逸らすが彼女の肩に手を置き、キスをするよう促す。
そんな照れた姫野と間近で見つめ合うと姫野が俺の彼女だと勘違いを起こしそうだ。そうこう思ってる間にも彼女は目を閉じたので唇をそっと重ねて、俺たちは分かれた。
目開けるときゅっと胸元に手を置き、俺とずっとキスしていたいとでも言いたげに名残惜しそうにする姫野の表情がたまらない!
本当なら美玖と人前でキスする予定だったのが、蓮のおかげで大幅に狂ってしまった。でもこれでいいんだと思った、そのときだった。
俺たちにキスして証明してみろと煽ってきた張本人がテーブルに頭をぶつけて爆発寸前だった。
「くっ、くぅぅぅ、本当にキスしてしまう奴があるかあァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
激高してしまった姫野のお父さん。
自分で言いだしておいて、マジ理不尽だ……。
姫野のお母さんがなだめるものの、お父さんは収まる気配がなく、「不愉快だ!」と言い放ち、部屋をずかずかと退出してしまった。
しかし……。
お母さんが「どうして早く話してくれなかったの」と姫野に訊ねているときだった。バーンと大きな音を立てて扉が開いたかと思うとお父さんは猟銃を手に取り、銃口を俺に向けていた。
だが俺はそれに動じることはない。
俺は立ち上がり、お父さんの持つ猟銃をじっと見つめていた。お互いに目を見て対峙してる形になっている。
俺が動じなかった理由はなぜなら、お父さんの持つ猟銃に興味津々だったからだ。
「
「なっ!? くやしいが正解だ。キミは銃器に詳しいのかね?」
これはクイズだったのか?
姫野のお父さんは驚いた表情で猟銃を構える手を緩め、銃口を下へと向けていた。
「あ、いえ実銃というよりエアガンで遊ぶくらいなんですけどね」
俺がお父さんの問いに答えると、お父さんは眉尻を下げ、お母さんにうれしそうに話していた。
「なんと!? 聞いたか、すみれ?」
「はい、ちゃんと。それに度胸もとっても据わっていらっしゃいますわ」
うんうんとお母さんの言葉に頷くお父さん。
「ではみのりと結婚したら、婿養子に来るつもりはあるかな? 免許を取ったら、私と一緒にクレー射撃を楽しもう」
へ?
「あなた、良かったですわね。仲間ができて」
「よかったね、お父さん!」
「ああ……こんなうれしいことはない。孫の顔をもうすぐだし、新しくできた
姫野のお父さんはハンカチでうれし涙を
話がどんどん進んで俺……ニセカレどころか、姫野と結婚まっしぐらになってるんですけど。
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社長に気に入られ、美玖と別れても勝ちしかない未来w 姫野たちの支援を受けつつ、特大ざまぁをお望みの読者さまはぜひ、フォローと★のご投資をお願いいたします。
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