第12話 ニセカレ

 職場の後輩姫野から彼氏偽装して欲しいと懇願されてしまった俺。


 美玖との関係が良好だったのなら、姫野の提案は絶対に受けていない。だがもう俺と美玖の彼氏彼女という関係が元に戻ることはないだろう。


 偽彼になってほしいと提案してきた姫野だったが、俺が返事するのに一呼吸置いてしまったためか、肩をがっくり落としてせつなげな表情を見せた。


「せんぱい、いやですよね……わたしの仮にでも彼氏になるなんて」

「いや大丈夫だ。本当につき合うっていうなら別だけどな」


 美玖が浮気していたとしても、やっぱり俺は一線を越えないようにしないといけない。姫野にはそこだけは理解してもらいたかった。


 もうね、俺が声優事務所の社長なら姫野みたいにかわいすぎる子が契約に来たら、いち推しどころか、まん推しのアイドル声優として過労死するまで売り込みすると思う。


「ありがとうございます、せんぱいとおつき合いできるなんて、夢のようです。もちろん……必ず現実にするんですけどね……」


 もちろんのあと、ぼそぼそとつぶやいており良く聞き取れない。


 もしかして姫野は俺と美玖がうまくいってないことを気づかって、若くてかわいい彼女と仮につき合うとか言ってくれてるんだろうか?


 だったら、なんて優しい子なんだろうか……。


「ありがとう……ありがとう、姫野。ううっ、俺みたいに冴えない男を気づかってくれて。俺、姫野がいやな男のところに嫁がないでいいよう彼氏役を精いっぱい頑張るから」


「こちららこそです! せんぱいは冴えない人なんかじゃないですよ。いつも輝いていて、わたしの推しキャラなんです。わたしが困っていたらすぐに助けてくれるし、くじけそうなときは励ましてくれるし、契約取ってこれたら頭なでてくれます。もう最高なんです!」


「ははっ、姫野はホントお世辞がうまいなぁ! まあ10分の1くらいに受け取っておくよ」


 そうなんだよ、俺は美玖を蓮に簡単に寝取られてしまうような男なんだから。俺が心のなかで自嘲ぎみに笑っていると、姫野は俺を励まそうと必死になっていた。


「昨日だって高いところにあるファイルが取れなくて、ぴょんぴょんしてたのを見つけてくれて、すぐ取ってくれたじゃないですか。わたし、もうせんぱいにきゅんきゅんしちゃってます」


 俺、姫野にお誉めに預かって、挙動不審ぎみにきょんきょんしちゃってる……。


 戸惑いを見せる俺に姫野は、本気なのか、からかうつもりなのかわからないが、俺の手を包み込むように握り言ってきた。


「じゃあ、せんぱい。いまからお父さんとお母さんにバレないようにホンモノの恋人に見えるよう演技の練習をしましょう」

「姫野!? 演技って……」

「みのりって呼んでくれなきゃ、いやです……」


 名前呼びするくらいなら、まったく問題ないよな。ちょっと馴れ馴れしい感じがするが、仕方ない。


 しかし俺の危惧をよそに姫野は休日にソファーでいちゃつくカップルのように身を寄せてくる。姫野に申し訳なくて、たじろいだ俺はソファーの肘掛けまで後ずさりするが姫野が俺を逃がさない。


 姫野の愛らしいボディから伝わる体温と鼓動。それに鼻孔をくすぐるシャンプーのいい香り……本当に姫野が俺の彼女なら、しっかりと抱きしめたくなる。


 結局姫野は俺の胸元に身を寄せて、上目づかいでこれは浮気ではないと謎理論をぶちあげた。


「大丈夫ですよ、劇や映像作品で役者同士がラブシーンを演じても浮気とは言われないですよね? それとお~んなじなんです」


 んんん?


 姫野は声優を目指しているから、役者の卵ではあるが、俺は素人なんだけど。


 俺が姫野の謎理論を検証している間にも、彼女は目を閉じ、ゆっくりと俺に誰からも愛されそうなかわいい顔をもう気づいた頃にはお互いの鼻先がふれ合うまで近づけてしまっていた。


 あれ? さっきノックされたような……って、あーっ!!!


「みのりお嬢さ……失礼しましたぁ!」


 部屋のドアが開いたかと思ったら一瞬メイドさんと目が合ったが、メイドさんはなにごともなかったかのようにサッとドアを閉めていた。


 えっと、いまの絶対に勘違いされたよね?


 もう姫野の上唇が微かに触れる場面をがっつり見られてしまっていたに違いない。


「あわわわ……」


 俺がカニみたいに泡を吹きそうになっていると


「大丈夫ですよ、せ~んぱい。うちのメイドさんたちは口の固い子ばかりですから。それよりもは・や・く続きをしましょ」


 姫野は俺に覆いかぶさり、胸を指でピンポイントになでてくる。


 はんっ!


 俺は思わず、姫野の愛撫に変な声を出してしまっていた。


「せんぱいのたくましい胸……でもここは弱いんですね。わたしはせんぱいよりも、ずっと弱いと思うんです。優しくかわいがってくれませんか?」


 俺の腰の上にまたがった姫野は、頬を赤く染め蕩けた表情で俺を見下ろしてくる。



 彼女の仕草を見てるだけで、ドキがムネムネ……。



 姫野はおっぱいに手をやり、


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 すべてのボタンが外されるとピンク色のレース付きブラジャーが恥ずかしそうにブラウスの隙間から覗いている。


 俺は姫野の大胆さに息を飲んだ。


「そ、そこまでやる必要はないんじゃ……」

「だーめ。せんぱいとわたしは彼氏と彼女の役をしてるんですから、愛を確かめ合わないと……」


 姫野の演劇への情熱は冷めることなく、ブラウスの襟を掴んで袖から腕を抜き、脱ぎ始めた姫野に焦る。



 ばるるん♪



 小さな身体に大きなおっぱい……。


 俺はただ見つめるだけで姫野になされるがままだった。そんな不甲斐ない俺に不満を抱いたのか、悲しげな目で姫野が訊ねてくる。


「せんぱい……ぜんぜん触れてくれてませんけど、わたしって、そんなに魅力ないですか?」


 逆だ!


 姫野の問いに全力で左右に首を振る。


 俺の理性を試さないでほしい……魅力的すぎて姫野に軽くでも触れようものなら、俺は姫野と一線を越えてしまうだろう。


 とくに姫野の大きなたわわに触れてしまったりしたら、吸った揉んだの問題を起こすはずだ!


 問いには仕草で答えたものの、俺が手を出さないことに不満げな姫野はむうっと頬膨らますと俺の腰からお腹へおしりを移してしまう。


 こ、こすれるぅぅ……。


 姫野の柔らかい太ももの感触がヤバい。あのままゆさゆさされてたら、お漏らし確定していたが、それは免れた。


「触ってくれないせんぱいには、お仕置きのおっぱいです」

「ええっ!?」


 んぷぷぷぷぷっ!!!


 しかし安心したのも束の間、姫野は俺の顔にたわわを押しつけてしまっていた。


 なんという乳圧。


 姫野の押し当てられたおっぱいで脳がとろとろに溶かされそうだ。ブラをつけてはいるが、鼻に口に姫野の肌が直接触れて温かい。


 美玖よりも大きく母性愛につつまれ、俺はあろうことか姫野にたっぷり癒やされてしまう。


 なんだかんだと流されてしまいメイドさんが再び戻ってくるまで、いっぱいおっぱい姫野にかわいいがられてしまった俺。


 ブラを付け直し、ブラウスのボタンを留めていく姫野を見るとまるで事後のようだった。


 俺は浮気なんてしてないから!


 姫野が着直し終えた頃を見計らって、そーっと恐る恐る部屋に入ってきたメイドさんが伝えてくる。


 その隙に俺はあっちの様子が気になって、チラッとスマホに目を落とした。



 は?



 俺が驚いている間にも話を進めている姫野とメイドさん。


「みのりお嬢さま、ご当主さまがお呼びにございます」

「うん、いま行くね」

「えっ!? いま?」


 急なことに俺が戸惑っていると、姫野はいつもの笑顔を見せてくれて、俺を安心させようとしていた。姫野はティーセットを片づけているメイドさんの様子を見ながら、俺の耳元でささやく。

 

「せんぱい……手はず通りやれば、大丈夫です。お父さんもお母さんもわたしに交際相手がいないことを心配してるだけですから」

「あ、ああ……」


 そうだ、俺は姫野がずっと笑顔でいられるよういやな奴のところに嫁がせたりさせない! そう心に誓っていた。


 美玖と別れたら、俺もいい子を見つけないとな。でも俺みたいなところに来てくれる女の子はいるんだろうか?


 とりあえずチャンネル登録者数が10万人を超えていたので、しっかり婚活の軍資金を稼がないと……。


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今回は蓮と美玖が賢者タイムでごめんなさい。追い詰める準備中なのでしばしお待ちを……。

10億儲ける前から勝ちが確定したような気がしなくでもないんですが、ざまぁをきっちり見たい読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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