第10話 特殊性癖
【麟太郎】
《ごめん》
《今日残業で》
《帰れない》
【美玖】
《ホントに?》
《ああ》
《だから》
《鍵閉めて》
《寝てて》
《うん》
《無理しないで》
俺は姫野の家へうかがう前に美玖にLINEを入れておいた。
二人へ俺からのささやかなプレゼントだ。
いまごろ美玖は俺が帰宅しないことにほくそ笑んで、ビッチのようにいやらしくアワビ汁を垂れ流しているかもしれない。これで二人は俺に気兼ねなくギシアン三昧だろう。
なら俺は俺で勝手にやらしてもらう!
姫野は俺の腕にしがみついて、ふくよかな胸を押し当てながら駅から歩いてきている。もう限界なんだよ、俺の我慢は……。
俺の知らない世界に踏み入れるのは危ない賭けだが、姫野は美玖よりも若くて、かわいくて、人懐っこい子となら大丈夫だろう。
いままでは、二人からただただ言いたい放題言われっ放しだったが、姫野の協力を得たいと思い彼女のお誘いに応じさせてもらった。
「せ~んぱい、着きましたよ」
――――ババーーーーン♪
いつも招かれて驚くのだが姫野の家はそんな
侵入者の一切を受けつけないといった感じの分厚い鉄の門に思わずビビる俺だったが、姫野が門の前に立つだけで自動的に開いてしまう。
「やっぱり姫野って超お嬢さまだよな」
「えー、そんなことありませんよ、わたしなんて大したことのない庶民です」
姫野の庶民の基準がまったく分からない。
間違いなく上級国民の住まうお屋敷の大きな門をくぐると眼前にある白亜の建物まで直線距離で100メートルくらいありそうなんだが……。
ウサギ小屋どころか
「せんぱいが家に来てくれてうれしいです」
「俺でよければ、いつでも誘ってくれ」
もう美玖に気兼ねしなくていいし、むしろ俺が自宅にいない方が儲かるのだから。
二人で広大な庭を歩いていると侵入者だと思ったのか、もの凄い勢いで黒いものたちが接近してきた。鋭い目つきに長い鼻先、ピンと立った耳。
――――バウッ、バウッ、バウッ!!!
3匹のドーベルマンがわーっと俺に飛びついて……。俺は3匹の勢いに飲まれ一気に芝生へと押し倒されてしまった。俺は手で必死にドーベルマンたちに
「やっ、やめろっ! やめろったら!」
「やめてっ! ジョン、クリス、エルメス!!!」
――――クーン、クーン、ハッハッハッハッ。
姫野が慌てたものの、3匹のドーベルマンは俺に遊んで欲しくて、やってきたらしくペロペロと愛らしく俺の手や頬を舐めて、しっぽを大雨の日のワイパー並み激しく振っていた。
「この子たちがこんなによその人を気にいるなんて、本当に珍しいです。やっぱりせんぱいはスゴいですね!」
「そうなのか? 俺は割と犬には好かれる方だが」
といっても豆柴とかチワワとか、ポメラニアンみたいな小型犬がほとんどたけど。
「この前、父の紹介でお見合いにきたさる名家の
お、恐ろしい。
うふふっと姫野は笑いながら言っていたが、目は笑っていない。よっぽど嫌な相手か、お見合いしたくなかったのかも。
俺にお腹を見せて前脚を曲げて、撫でてほしそうにする3匹のワンコはこの屋敷の敵だと見なした奴を徹底的に排除するのだろう。
まさか姫野が襲わせたとかないよな?
俺がすっかり従順になったドーベルマンたちのお腹をさすっていると、姫野は俺の袖を引っ張って訊ねてきた。
「せんぱいはわたしがお見合いしたって聞いて、悲しくないんですか?」
「あ、いや、なんで俺に?」
「もう、せんぱいはホント鈍感なんですから!」
姫野はぷく~っと頬を膨らませて、拗ねる。
お見合いのことはよく分からないが、
「姫野はそうやって拗ねてもかわいいよな」
「ほ、ほ、ほ、ホントですか!?」
両手を頬に当てて照れる姫野。どうやらそのひとことで機嫌を直してくれたらしい。
俺が後ろにドーベルマンを引き連れて歩いていると姫野はなぜか、勝手に頬を赤く染めていた。
「この子たちが認めてくれるんですから、やっぱりせんぱいはわたしと……キャッ、ちょっと妄想がすぎちゃったみたいです」
どうしたんだ、姫野は? そう思っているとようやくドーベルマンたちの手荒い歓迎を受けながらも、豪邸の玄関へとたどり着いた。
ここの玄関を見るといつも思う。
姫野の自宅はホントに日本なのか!?
白亜の豪邸の玄関はドラマでしか見たことないような光景が広がっている。
「「「「みのりお嬢さま、お帰りなさいませ!」」」」
玄関の前にはお出迎えの執事っぽい人とメイドさんが並んで、姫野に
「みんな、今日はお客さまをお招きしたの。覚えてるよね、わたしの会社の結月せんぱい。失礼のないようにお願いするね」
「「「「かしこまりした!」」」」
俺は初めて姫野の自宅に招かれたとき、どれだけ驚いたことか。ケタ違いのお嬢さまが庶民、社畜に混ざって普通にOLやってんだから。
姫野に案内されてお屋敷と呼ぶに相応しい赤絨毯の敷かれた階段を上がり、部屋へと通された。
“一十百千満天原サロメですわ~っ!“っていうようなお嬢さまが飛び出してきそうな部屋っぽい。それが俺の姫野の部屋を見た第一印象だった。
ホテルのスィートのような広い部屋に大きな天蓋付きベッドはお姫さまを思わせる。いや姫野っていうんだけど……。
だがベッドやクローゼット周りはお嬢さまっぽいのだが、机などが置かれた区画はデスクと言った方が似合っており、そこにはイラストレーターか、レーシングシミュレーターに使うような三連モニターがドーンと鎮座していた。
さらにガラスケースには推しのフィギュアがたくさん並んでおり、壁いっぱいに置かれた本棚にはさまざまなジャンルのコミック、ラノベがぎっしりつまっている。
それだけに留まらず、SwitchにPS5などの家庭用ゲーム機も充実していた。つまり姫野はなかなかのオタクなのだ。
お嬢さまなのにフランクで、かわいいオタクとか反則だろ!
俺がそんなことを思っていると、お茶を持ってきてくれたメイドさんが姫野に耳打ちしていた。
「せ~んぱい。ごめんなさい、ちょっと席をはずさせてもらいますね」
「ああ、別にかまわないって」
「よろしければクローゼットのまん中の収納のいちばん下の棚に下着が入ってるんで、良かったら見ていてください」
ブフォッ!!!
ふふ、と上品に口元に手を当てた姫野だったが、あまりにえっちすぎる提案に俺は驚いて吹きだしてしまった。
ま、まあ過激なジョークなんだろうけど。
かわえっちすぎる姫野に当てられたわけじゃないが、通知の届いていたスマホを確認すると俺の誘いにまんまと乗った美玖と蓮は
恋は盲目とは言うが、動物以下の学習能力で笑ってしまう。
だが蓮の動きはいつもと違う。
画面に映し出される蓮はネクタイ、Yシャツ、ズボンをおもむろに脱ぎ捨てたかと思うと、俺のベッドにパンツ一丁で寝転がった。
蓮の姿勢は、さっき俺に撫でられたドーベルマンみたいに手足を曲げており、美玖に向かって口を開いた。
「ふえええーーーーん、ばぶばぶぅ。美玖おかあたん……きょう、クソ上司とイキリ先輩にいっぱいいじめられたの。おかあたんのおっぱい吸いたい……なぐちゃめて」
なっ!?
イケメンの蓮からまさか赤ちゃん言葉が飛び出すなんて……。俺はまだしも、課長をクソ上司呼ばわりするとか許せねえんだが、笑いがとにかく止まらない!
チャットも……、
《突然の赤ちゃんプレイ!》
《大草原不可避》
《wwwwwwww》
《くっそワロタ!!!》
《イケメンの性癖よ》
《おしゃぶり舐めてろw》
祭りといった具合の大賑わいで、蓮は全世界に自らの性癖を暴露してしまっていたのだ!
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壁にミミック、障子にメアリー、みんなも気をつけようね♡ 蓮の恥ずかしい性癖が面白いと思われた読者さまはフォロー、★をいただけますと次回、漏れなく美玖のあられもない姿が見れますのでよろしくお願いいたしたます。
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