第5話 決意

 俺の彼女だった美玖はもういない。


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RTube健全化委員会カクヨムによる【R15】フィルターメディア良化法稼働執行中。


規制解除及び【R18】シーンの閲覧にはプレミアム会員への加入図書隊へ入隊が必要です。

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 シーツをめくるとマットレスには染みたあとが残っている。シーツはもちろん新品へと取り替えられており、それで俺の目をあざむいていたんだろう。



 清楚だった美玖は真っ黒に成り果てた。



 悲しみよりも怒りが先立ち、不思議と涙が出てこない。このまま動画っていう動かぬ証拠を突きつけて、美玖と別れるのは簡単だ。


 だが50万回というバズった再生回数を眺めながら、姫野の話を思い出す。


【でもいちゃいちゃするだけで、3億円ももうかるならわたしやってもいいかも……】


 ははははっ!


 そうだ、そうなんだよ。俺を裏切ったら二人を生配信で晒してやればいいんだ。それが俺の復讐にもなり、一生働いても得られないような金を手にすることができる!


 愛は金で買えないなんて綺麗事を言う奴がいるが、もう10年ちかく愛し合っていたはずなのに簡単に裏切られるんなら、もうどうでもいい。


 ずっと流れっぱなしで放置されていた画面はR-18じゃない動画を映していた。



 ――――にゃ~ん。



 ネコがただ毛糸玉とじゃれるだけの動画がだったが軽く10万回も再生されている。


 これだ、これなんだよ。


 美玖と蓮はつがいで、ただの俺のペットなんだ。


 俺はあいつらの交尾を映しているだけに過ぎない。イヤなら俺の部屋でセックスをしなけりゃいいんだ。


 RTubeは1PVあたり、だいたい0.1円になる。50万回で5万円、それに加えてスパチャで3~5割の手数料を引かれるとしても、2万円は固い。



 ――――生配信1回で7万円そこそこか。



 ゴミ箱に入ったジュエリーケースを引き上げる。


 さっそく美玖へ贈るつもりだったエンゲージリングがウェブの買取査定でいくらくらいになるのか調べ始めていた。



 朝、目を覚ます。


 俺は動画がバズったことで救われたと言えた。美玖が蓮に寝取られていたことに心を病んで、練炭か、硫化水素でも用意していたかもしれない。


 美玖がお泊まりから家に帰ってきて俺が死んでいたら、どう思うか?


 “死んでくれてありがとう“と思うかもな。


 だがそうはいくか! 復讐と金儲けという目標を与えてくれたのだから。


 おまえらは今日から俺の財布だ!


 3億なんてケチなことは言わない。おまえの交尾を配信して10億儲けてやる。


 これは俺を裏切った慰謝料なんだ!!!


 美玖……おまえにリベンジポルノというわけでもないが、一生消えないデジタルタトゥーを刻み込んでやるからな!



――――職場。


「うぃーっす、先輩!」

「おう、蓮か」


 出勤すると蓮がにやにやしながら、俺にあいさつしてきた。なるほど、俺から美玖を寝取ったことで余裕の笑みを浮かべていたのかと納得する。


 どす黒い泥のような恨みとも怒りとも判別のつかない感情がこみ上げてくるが、デスクの下で爪が手のひらに強く食い込むほど拳を握って顔はあたかも平静を装おうとしていた。


「女遊びもほどほどにしろよ」

「くっくっくっ、先輩あざーすっ!」


 蓮は俺をあざ笑うように目を細めているが、俺の助言を真に受けたわけではないだろう。蓮のことだ、せいぜい俺が鈍感で美玖を簡単に寝取れたことに感謝してるように受け取った。


 その余裕の笑みもいつまで続くんだろうな?


 蓮と美玖が俺の打出の小槌となったとも知らずに。


「身体を壊さない程度に仕事を頑張れよ」

「あははは、オレは先輩みたいに頑張らなくても業務時間内で成果あげてますんで大丈夫っすよ」


 なら安心した。


 仕事で疲れて美玖とセックスできねえとか、こっちの商売上がったりだからなぁ。


 それに俺が課長から頼まれて、蓮の尻ぬぐいをしていることも知らずに笑ってしまう。


 マウントを取りたがる蓮は俺から美玖を奪い、最高の気分なんだろうな。そんなことを思いながら、デスクに座ると、


「結月、どうした? 顔色が悪いぞ」

「そうですよ、せんぱい……」


 課長と姫野が眉尻を下げて心配そうな表情で俺を気づかって声をかけてくれた。


「そんな思いつめたような顔してます?」

「ああ、つらいなら早退してもかまわん。私が穴埋めするからな。なんなら私の穴を埋め……」


 課長がなにか言いかけた途端、姫野がぐいと課長を押しのけてしまう。


「いいえ、課長にそんなことをさせるわけにはいきません。せんぱいのお仕事はわたしが引き受けます。年増の課長に成り代わり、わたしがせんぱいにご奉仕を……」


 姫野は手で頬を押さえながら顔を赤らめているが課長が姫野の肩を抱いて、邪魔だといわんばかりに姫野と身体を入れ替える。


 すると二人は額がくっつきそうなほど顔を近づけ、目からバチバチと火花が飛び散っているよう険悪な雰囲気となりつつ、争うようにして俺の仕事を引き受けてくれようとしていた。


「二人ともありがとう。でも早退するほどじゃないですから。その代わり、与えていただいた残業は止めてもかまいませんか?」

「なんだそんなことか、かまわん! むしろ結月には感謝しかないからな。ゆっくりしてくれ」


 課長はふふんと鼻で笑いながら姫野を見ると、負けじと姫野も課長の前にずいと出て、俺に言ってくれた。


「わ、わたしもせんぱいにいっぱい助けられましたから、困ったことがあればなんでも言って下さい!」


 俺は本当によい上司と後輩を持ったと思う。



 もう二人のおかげで残業する必要もなくなったので、さっと蓮の尻ぬぐいを終わらすも、すぐに家に帰る気にもなれなくて……。


【麟太郎】

《すまん》

《今日》

《飲み会で遅くなる》


             【美玖】

             《わかった》

             《あまり》

             《飲み過ぎないでね》


 ありもしない飲み会をでっちあげて、美玖にLINEしておく。復讐を誓ったものの、美玖の顔を見るのは、まだ踏ん切りがつかなかったから。


 仕事帰りに宝石貴金属の買取業者を数店舗巡り、美玖のために買ったエンゲージリングを早々に売り飛ばした。


 俺の手元に戻ってきた金は7割の35万ほど……。


 それでももっとも高額査定だった。


 こいつを元手により高性能のカメラや動画編集機材を手に入れ、再び美玖と蓮が俺に隠れて、部屋でセックスしてくれることを願うようになってしまっていた。


 封筒に入った札束を鞄にしまったあと、買取店から出ると……。


「課長!?」

「結月! 奇遇だな」


 向こうからとぼとぼ歩いてきた課長とばったり会ってしまう。課長は俺にベッドロックでもかけるかのように首に腕を回してきて言った。


「私の奢りだから飲みにちょっとつき合え」

「ではお言葉に甘えさせてもらいます」


 いつもなら断るところだが、俺は美玖が蓮と浮気していることで飲みくらいいいよな、と思ってしまっていた。


「おお、おおっ! そうかそうか飲もう飲もう!」


 いままで美玖に遠慮していたが、女友だちみたいな課長とサシ飲みとか楽しみで仕方なかった。


 職場のみんなは知らないだろう。


 俺だけが知ってる課長の秘密は、実は彼女が超人気レイヤーでチャンネル登録者数100万を達成し、金の盾を持ってることだった。


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麟太郎と夏美……ただのサシ飲みで終わるんでしょうかねw 先が楽しみという読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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