第3話 チャラい後輩

 髪を真っ金々に染めホストがリーマンやってるんじゃないか、と思えるようなチャラい俺の後輩の蓮。


 吊り目に割と目鼻立ちがよくそこそこのイケメンではあると思うが、お調子者で俺が蓮の尻ぬぐいをしたのは一度や二度じゃない。


「課長ぉ、姫野ちゃ~ん、おっはよう!」


 蓮が課長と姫野に声をかけたのだが……。


「そうだ、部長に報告する資料を作らねば……」

「しまった、委託先に連絡するの忘れてました!」


 課長は自分の席に戻り、姫野は机に向かって始業前にもかかわらず受話器を手に取る。


「二人とも冷たいっすよね~! 先輩もそう思いません?」

「そうか?」

「はは! 先輩は鈍感っすからね」


 そこまで鈍感ではないと思うのだが……。蓮に反論したところで、うるさいだけなので俺は口をつぐんだ。



 しばらくすると次々と課内の社員が出勤してきて、席に座っていき始業の合図とともに朝礼が始まった。


「今月は一人につき3人の契約を取るぞ!」

「「「「「オーーーーッ!!!」」」」」


 課長から今月の目標が示され、俺たちは腕を高々とあげた。課長は必要なことだけ告げると早々と朝礼を切り上げる。


 二人は俺に普通に接してくれるんだが、課長は仕方ないにしても、姫野に関しても蓮には塩対応に映るらしい。だが蓮は俺の顔を見て、にたりと笑っていた。


「あ~あ、課長もオレのことないがしろにしてもいいんすかねぇ? 営業トップはオレなのに」


「そりゃ蓮が女子社員にセクハラしまくってるから、警戒されてるんだろうが」

「そりゃ違いますって。オレに触って欲しいって子もいっぱいいるんすよ」


 スゴい自信だが、実際そういう女の子もいることはオレは知ってる。たまたま給湯室に行ったら、蓮と人事の女子社員が濃厚なキスしてた場面に遭遇したこともあったしな。


「おまえがスゴいのはわかったが、ヤバい営業はやってないよな?」


 枕営業というか、寂しい団地妻相手のママ活営業とかしてたら、マジでヤバい。


 俺の心配をよそに蓮はドヤ顔で成果を誇ったかと思うと鼻でせせら笑う。


「やだなぁ、先輩ひがみっすか? 男の嫉妬しっとはマジダサいっすよ。まあなんならオレが先輩に営業っつうもんをレクチャーしてやっても構いませんけど」


 こんなことを言うと恩着せがましいと蓮から思われてしまいそうで本人には言わないが、俺が蓮に一から仕事を教えて、普通に飛び込み営業してれば達成できるようなノルマもこなせなかった蓮に上客を紹介したのは俺なんだけどな……。


「俺がノルマ達成できないときは頼むかもな」

「なんすか、その上から目線。お願いします、蓮さま! じゃあねえの?」

「おまえ……」


 蓮は俺を見下すような目で見てきて、俺は後輩の生意気な態度に思わずイラついて、蓮の前に一歩踏み出し胸ぐらを掴みそうになるが、美玖のことが思い浮かんでこらえる。


「ははっ、冗談すよ。先輩はそういうとこ、すぐにムキになるから、面白いっすよね~」


 俺の肩をばんばんと叩いて、けたけたと腹を抱えて笑い出した蓮。俺の表情に怒気を帯び、蓮に迫ったことで蓮は態度を180度変えていた。


 冗談だと?


 少なくとも蓮の目は本気だった。


「おっとすんません。俺は先輩と違ってひまじゃないんで外回り行ってきますわ~!」


 俺だって暇じゃねえよ……。


 蓮はジャケットを手にするとスーツケースを抱え、課長の席に向かって声をあげる。


「課長! 今日、直帰してもいいっすか?」

「勝手にしろ! ただし、ノルマはきっちり上げて来い」

「イエッサー!」


 課長は蓮を仏頂面で一瞥いちべつするとすぐにデスクの書類に目を移していた。そんな課長の態度を気に留めず、蓮は俺の肩を茶化したように叩いていく。


「んじゃ、先輩も美玖ちゃんのために頑張ってね~」

「蓮に言われるまでもない。俺は美玖のために働いてるようなもんだ」

「はあ、のろけ話ごっつあんで~す」


 俺に嫌みを言ったあと、バタンとドアを閉め課から出て行った蓮。俺はどうしてああなってしまったのか、とため息が漏れてしまっていた。


 蓮が営業に出ていくと姫野が邪魔者は消えたと喜々としていた。そんな彼女が人目を忍んでスマホを見せてくる。


「先輩、これ知ってます?」

「ん? なんだよ」

「送りますので音は消してくださいね」


 スマホのドロップ機能を利用して俺のスマホへ動画を送ってきた姫野。


 なっ!?


 俺たちくらいの歳の男女がベッドの上で男女の営みに勤しんでいた。音声こそミュートしているものの、セクシービデオさながらのRTube動画を見せつけてきた姫野はどっきりが成功したように口に手を当てて、くすくすと笑っている。


 いやこれ……俺が姫野や女性社員にやったらセクハラで訴えられてしまうだろ。


 最近の若い女の子は実にけしからん!


 こんな動画送られてたら、勘違いしてしまう。


 まあ姫野みたいな若くてかわいい子が俺に好意とか持ってるはずがなく、思わせぶりなことをしてきて勘違いでもしたら、“先輩、なに勘違いしてるんですかぁ? わたしがかわいいからって欲情しちゃったんですね“と軽蔑けいべつされ、そんな気まったくないと言われるに決まってるのだから。


 俺は恥ずかしくなるが、姫野は割と真面目な顔をして動画が送ってきた理由を語り始める。


「先輩、びっくりさせちゃいましたね。実はこれ、夫婦のセックスを動画配信したものなんです」

「マジかっ!?」


 理解に苦しみ、顎に手を当てながらうなってしまっていた。俺は考えこんだのち、姫野に言った。


「いやいや、それじゃ露出狂みたいなもんじゃん」

「でもいちゃいちゃするだけで、3億円ももうかるならわたしやってもいいかも……」

「3億!? ってまさか配信だけでそれだけ儲けたってのか?」


「そうらしいですよ。サラリーマンの生涯賃金越えてますよね」

「ま、まあ一人じゃなく、二人だからな……」


 それにしてもアイドル落ちのセクシー女優でも飽和ほうわ状態な今じゃ3億稼ぐのは大変だろう。ましてや素人が3億なんて夢のある話だ。


 姫野はさっきまでエロ動画にも拘らず、あっけらかんとしていたのに急に人差し指同士をすり合わせながら、もじもじとした仕草になっていた。


 なかなか言葉が紡げないみたいで、俺は言い出しにくいのかと思い、ふと姫野から視線を逸らし課の壁掛け時計に目をやると10時になろうとしている。


「あ、あの……せんぱい……も、もしも……彼女さんが浮気とかしてたら……わ、わたしといっしょにえっちなことして……」


 あっ、もうこんな時間じゃないか!


「姫野、なかなか面白い話だった。まあできればこいう話のは女子社員同士でした方がいいかもな」


 俺は椅子にかけておいたジャケットを取り、外回りに出かけていた。


「あっ、せんぱ~い……まだ話の続きが……」


 俺が会社をクビになって、借金を背負うとかにならない限り、俺と美玖のセックスしてる動画を世間に晒すなんて真似は流石にできねえよ。


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某大人向け動画配信サイトにて夫婦で3億儲けたお話は実話らしく、サトマイさんのチャンネルで紹介されてました。

後輩間男と浮気彼女の生配信動画がバズるところを見たい方はぜひフォロー、ご評価をお願いいたします。

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