失われたナンバー28を探せ

高柳孝吉

失われたナンバー28を探せ

 テレビ番組「ウルトラQ」が第27話をもって終了した。来週からなんか始まるらしいが三郎は納得いかない。ーーおれの毎週の楽しみが終わった。


 三郎は、ウルトラQには実は続きがあるんじゃないか?幻の第28話が。という友達の話を聞いて、Key局であるTBSに電話してみる事にした。ダイヤルを回してみると、

「この電話番号は現在使われておりません。繰り返します、この電話番号は現在使われておりません。繰り返します…………」


 受話器を置く三郎の手は震えていた。ーー恐怖だとは本人がいちばん認めたくなかった。番号を確かめて、『嫌だ』心の奥底で思いながらももう一度掛けてみる。ーーいちばん聴きたくない言葉が返って来た。


 三郎はリュックを背負って出かける準備をしていた。

「何処へ?」

聞かれたお母さんに、

「円谷プロダクションへ」

小学生が精一杯カッコつけて、しかも中々決まったと思ったのを悟られないように、これまたカッコつけて後ろも振り向かずに言って家を出た。


 小学生としては大冒険だった。カッコつけて家を出たまでは良かったが、まず駅でつまずいた。どの電車に乗って何処の駅で降りたらいいのかわからなかったのだ。迷ってオドオドしていると、綺麗なOLのお姉さんが声を掛けてくれた。

「ぼく、何処に行きたいの?」

小学生の三郎にはその素晴らしいシチュエーションの価値がわからない。

「円谷プロダクションへ」

しかしまたもカッコつけて言い放つと、

「ああ、それならうちの会社の近くよ。送って行ってあげる」

そして、人生最大の失敗をそれに対する返答でおかしてしまう事になった。

「ありがとう、"おばさん“」


 しかし所詮子供の事と心を大きく持って、しかし内心ピリピリした心持ちで三郎を連れたOLは、三郎の手を引いて(手に少し力がこもっていたかも知れない)電車に乗ると、円谷プロダクションのほど近いという駅に着いた。そんなシチュエーションのふたりは、あの松本零士先生の漫画「銀河鉄道999」の鉄郎とメーテルの少しカリカチュアされた実写版に見えなくもない。


 駅を降り、

「円谷プロまで送っていく」

と言うOLの言葉を丁重に断って、

「此処からは僕一人で行けるよ。ありがとうございました」

 一期一会。ふたりはそこで別れる事になった。

「気をつけて。ーー何かあった時の為に、これ。御守り」

三郎は星のマークのあるバッジを受け取ると、しっかり胸に押し付け、

「さよなら」

と円谷プロダクションのあるという方角へ駆け出して行った。


 そこには、見たこともないような大きな建物が建っていた。そしてそこには、

〚TBS〛

と大きく記されていた。

 三郎はビルを見上げ、暫く唖然としていた。と、そこから一人の社員が出て来た。

「やっぱり来たわね、ぼく」

それはあのOLだった。

「あたしの会社、ここなの。良かったら寄って行かない?」


 三郎はOLに連れられてTBSの社内に入ると、豪華絢爛に見える眩いようなスタジオを通り過ぎてゆき、やがてあるスタジオに入った。

「ここがある新番組の撮影所。ーーあなたのような子役を待っていたの」

見ると、見慣れないような制服に身を包んだ人達か並んでいる。胸には、皆あの流星マークの御守りを着けている。

「僕、出る!」

「騙して悪かったわね。そうと決まったら、「ウルトラマン」にゲストで出てくれると決まったら、今度こそ円谷プロダクションへ連れて行ってあげる」

 

 そして途中で怪獣も宇宙人もこの話の中に登場しなかった不思議。実はこれこそがこの話、「ウルトラQ 第28話」にしてみれば一番不思議な現象だったのではないか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

失われたナンバー28を探せ 高柳孝吉 @1968125takeshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ