サヨナラ、平凡。

 始業式。

 春休みが終わり、新学年の始まり。新たなクラスメイトとの親睦を深めようと積極的に話しかけるもの。去年からの繋がりでグループで固まっているもの。それぞれだが楽しそうではある。

 とか言う俺、嘉良一色からひいろは新学期早々机に突っ伏していた。別に友達がいないわけではない。無駄に交友関係を広げる必要はない。深く狭くでいいと思っているだけだ。


「お前、2年になっても相変わらずだな。そんなんじゃ彼女できねぇぞ。」


「余計なお世話だよ。俺は別に彼女欲しいなんて思ってねぇって。」


「彼女いらないって言ってるやつの大体は強がりだと思ってるけど。」


「気のせいだろ。」


 いつの間にか俺の前に立っていたこいつ、河島敦人かわしまあつと去年からの付き合いで俺の唯一の友達。俺と違って人当たりが良い。友達も多い、彼女もいる。俺とは真逆の存在。リア充だ。


「友達のいない一色にわざわざかまってあげてるんだから、感謝しろよ。」


「別に俺はかまってくれなんて言ったことないと思うけど。」


「まぁまぁそういうなよ。」


「なんで俺のとこ来るんだよ。お前別に友達少ないわけでもないだろ。」


「なんでだろうな。何となく?」


「なんだよそれ。」


 とか言う雑談をしているとガラガラと建付けの悪い教室の前のドアが開き、両手に大量の配布物を持った担任が入ってきた。


「配布物大量だから、全員座れ。」


 担任がそういうと、クラス全体がぞろぞろと動き出し、それぞれの席へと動いていった。先ほどまで満たされていた教室中の活気が一瞬にして消えていった。

 全員が座るのを確認した担任はプリントを配布し始めた。タラタラと説明をしているがさほど聞く必要のないことなので大半の生徒が聞く耳を持っていない。あるものは突っ伏し、あるものは前後左右の友達...クラスメイトと小声で会話を弾ませていた。


 そこから一日は早かった。と言っても半日しかないのだが。教師の半分説教のような長話と軽い自己紹介を終えて下校の時間になった。そしたらいつも通りだ淳人が歩いて来て話しかけてくる。


「おい、帰るだろ?」


「そりゃ用事もないしな。」


すると俺のカバンを持ってそのまま教室のドアまで歩いていった。


『君は、ヒーローになれる、かな?』


突然だった。すごく小さなまるで耳元で囁かれたようなそんな声だった。声の主を探そうとしたが淳人が声をかけてきたので無視して帰ることにした。言ってる内容意味わかんなかったし。


ヒーロー...ヒーローになれるとはなんだったんだろうか。特撮の撮影にお呼ばれでもするのだろうか?いやそれは絶対にないあそこに出てくる俳優といえばみんな揃いも揃って顔がいい。対する俺はといえばお世辞にも顔がいいとはいえない。(いや悪くはないとも思うけど)つまりあれはただの幻聴だったということだろう。うん。そうしよう。


「おい!おい!一色!!おぉぉぉぉぉぉぉい!!!!!!!」


「なんだようるさいな。」


「お前が全然反応しないからだよ。せっかく俺ができる男のさしすせそを伝授してやってたのに全無視なんだからよ。」


「ちょっとした悩み事だよ。あと俺は別にモテたいわけじゃないって言ってんだろ。」


「そうか。でなんなんだ悩み事って。この河島淳人様が直々に聞いてやろう。そして悩める汝に救いの手を!」



「いや、ただの勘違いってことに気がついたから大丈夫だ気にすんな。」


「そうか...じゃあ俺あっちだから。またな!」


そういって淳人と別れ、家にむかって帰るのであった。ちゃんちゃん。


「何話終わらせようとしてんの」


まただ。さっきと同じ声が聞こえてきた。最近幻聴が激しいな。疲れてるのか。まぁ確かに新年度は生活も変わりやすいし体調壊すっていうからな。うんうん。今日は家に帰ってゆっくり寝よう。


「何?また無視すんの?」


・・・明らかに話しかけてきてることを悟り、恐る恐る後ろを振り返った。そこにいたのはクラスメイトの...えっと


「緋色さんだよね?」


「・・・比呂だよ?比呂未空。去年も同じクラスだったんだけど...」


まさかこんなところでクラスに興味がないことへの支障が出るとは。いやでも緋色も比呂も似てるし、60点ぐらいはくれてもいいだろ。ごめんね!!


「えぇっと。でその、何か用?」


「さっきも言ったけどもう一回言うね。」


すごく嫌な予感がした。俺の今までの何事もない。ただ流れに身を任せ、厄介ごとからも全て逃げてきた俺の今までの人生が、俺の平凡が、そしてこれからの設計図が全て崩れ去るようなそんな...


「私とヒーローになる気はない?」


サヨナラ、平凡。


こんにちは、非凡

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつか、君のヒーローに。 桜 桜餅 @sakurasakuramoti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ