第20話 龍の誕生
龍王アルビオンからの依頼で大陸全土を巻き込む戦争を回避するために列強諸国を巡ることになったアマデウスたち。
セレスティナを助け、半ば隠居状態から重い腰を上げてみたが軽い気持ちで訪れたアルビオン王国で大陸を戦争から救うために働くことになるとはアマデウスも予想していなかった。だがアルビオンから前払いというかたちで大量の報酬を受け取った以上、手を抜くつもりはない。
「元々、大陸各地を旅する予定だった。あてのない旅が目的あるものに変わっただけだ」
セレスティナも頷き、賛同していることもあった。セレスティナの境遇から始まった旅だ。彼女の身に降りかかる災いを取り除くことが最優先だが、本人が納得しているのなら問題はない。
「そう言ってもらえるとありがたい。各国へのつなぎを頼んだよ。ココを通してにはなるが助力は惜しまない。何かあれば連絡をしてくれ」
アルビオンの心強い言葉に感謝する。
「あぁ、そうだ。それと、姪にもよろしく」
「姪?」
アルビオンの言う姪の存在に心当たりがなく、アマデウスは首を傾げた。
「あぁ、知らないのか。君のところにいる
メガラニカ大陸の東西の交わる場所に位置する龍王中原連盟は東西南北中央それぞれを龍王が治めており、西側を領土とするのが
アルビオンいわく、同じ龍から分化した『兄弟』にあたるため、人間の血縁関係に当てはめるとその娘は『姪』にあたるらしい。
長い年月貯め込んだ魔力を切り分けて単為生殖にて産んだ次の世代を純血種と呼ぶ。アルビオンや廣潤はコレにあたる。また他種族と交わり生まれた世代は交配種と呼ばれ、一般的に純血種よりも劣るとされているが例外も存在する。その例外は覚醒種と呼ばれる。
「そんな話初めて聞いたな」
龍は基本的に群れを作ることは少ない。上位種となればなるほどその傾向は強くなる。永遠にも等しい寿命を持つ長命種であり、繁殖の必要性が薄く、個体数が極端に少ないのも理由の1つだ。
そんな孤高の龍種にそのような関係があったとは驚きだ。仲間であっても、その全てを知り得ているわけではないと改めて感じる発見であった。
「おっと、済まない。話が逸れてしまった。それで頼みついでにもうひとつ。うちの子を君たちの旅に連れていってやってはくれないか?」
今まで沈黙を保っていたココがギョッとした表情で慌てて会話に割って入ってきた。アルビオン王国の次代の守り手にして、導き手を出会ったばかりの人間に託すなどそう簡単に許すことなどできないからだ。
「アルビオン様、いくらなんでもそんな大切なことを簡単に決められては困りますッ!」
焦って止めに入るココに対し、アルビオンは動じることなく冷静に言葉を紡いでいく。
「私が健在なのだから問題ないだろう。跡継ぎが必要になるのなんて、それこそ何千年、何万年と遙か先の話さ。それよりも憂慮すべきは今ある生命だ。列強諸国同士の戦争ともなれば、それこそ最強種同士が激しく戦うことになる。私でも無事では済まない。全ての国家が滅びることさえ考えられている。だから最悪の結末を回避するために重要な役割を担う彼らに助力を惜しんではならない。私の子ならば、弱いということはない。必ず役に立つはずだ」
ココもアルビオンの言うことは理解できる。全くもって正しいとさえ思う。
しかしだ。
アルビオン王国の貴族として、真の君主たる龍王に仕える身としてはやはり納得できない。大切な御子を危険に晒すことなどできない。
ココは懇願するようにもう一度、叫んだ。
「議会や王家との話し合いもなしに……。次世代の龍王となる御子は我が国の未来であり、希望。どうかお考え直しください!」
「聞くが、議会や王家の者たちと話し合ったとして首を縦にふると思うかい?」
「それは……」
アルビオンの問いかけに言葉を詰まらせる。議会も王家も今のココのように必死に止めようとするだろう。そして龍王の意向には逆らえず、折れることになる。そんな光景が容易に想像できる。
悩んだ末に深い溜息をつき、眉間に皺を寄せて不承不承ながらココは引き下がった。
明らかに不機嫌そうに口を噤んだココの様子にセレスティナは心配そうにしていた。
◇◇◇
主従の間で話がまとまると、アルビオンはゆっくりと目を閉じ、身体を丸めて動かなくなった。しばらく見守っていると龍王の体内から長い年月をかけて貯め込んだであろう魔力が激しく溢れてくる。溢れ出した魔力は洞窟全体を照らし、白く染めていく。視界を覆い尽くす魔力光のあまりの眩しさに3人は目を固く閉じた。
視界を奪われても感じる圧に肌がひりつく程である。アマデウスは障壁を展開してセレスティナとココを襲い来る猛烈な魔力の放流から庇った。
荒れ狂う魔力は次第に収束を始め、均衡を保ち始めた。やがて一つとなり、物質化を経て新たな姿を形作っていく。徐々に浮かび上がってくるシルエット。
やがて魔力が完全に落ち着くと共に現れたのは龍王アルビオンによく似た龍の姿だった。
出産という表現が正解かは分からないが、龍種が次代を生み出す瞬間に立ち会ったセレスティナとココはしばらく言葉を失い、立ち尽くしていた。目が慣れた頃にやっと稀有な体験をしたのだと理解が追いつき、興奮の波が押し寄せる。
アマデウスだけは冷静に周囲が静かになったのを確認して障壁を解除する。
「すごい!龍の子供が生まれるところなんて初めて見ました!」
「アルビオン様の御子がお生まれに……」
セレスティナは興奮気味に、ココは歓喜あまった様子で親であるアルビオンに頭を擦り付け、甘える生まれたばかりの龍の子供を見守っていた。
アルビオンとその子供は互いに頭と頭を合わせ、何やらやり取りをしている。龍種同士で念話による会話をしているのだろうか。新しく生まれた龍は親であるアルビオンの知識を引き継いでおり、人間を遥かに超える知性を生まれながらに備えている。
「無事誕生した我が子に名前をつけてやってくれ」
子龍との念話を終え、顔を上げたアルビオンは生まれたばかりの新たな龍王候補への名付けの権利をアマデウスたちに授けると言い出したのだ。
本来、世代交代ならば『アルビオン』の名を受け継ぐことになるが、龍王はまだ健在であり、現役なので名が必要となる。
この時、ココの興奮は最高潮に達していた。与えられた栄誉に歓喜して涙を流す。
「アルビオン様、本当によろしいのですか……?」
アルビオンが黙って頷くのを見てココはまるで天にも登る面持ちで、「素晴らしい名前をお付けします。」と、意気込んで名前を考え始めた。
自然とそれぞれが候補を出す流れとなり、アマデウスとセレスティナも子龍の名前を考え始める。
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