第18話 邂逅
「本当によかったのですか?」
「何がだ?」
「依頼の件です。受けてよかったのですか?」
「まぁ、ちょっとしたお使いみたいなものだ」
「はぁ。いくらグローバル侯爵とはいえ、越権行為なのでは?アルビオン国王の許可なくこの様な依頼……」
「仕方ないさ。本当の君主の意志なんだから。彼女が忠誠を誓っているのが誰かという話だ。それにこんな言い方をしたら彼女には悪いが報酬も受け取ってしまったしな」
「まぁ、アマデウス様がよろしいのなら私としては文句はありませんが。グローバル侯爵は美人ですし、私のような小娘が口を挟むことでもないですし」
「何を怒っている?そもそもアルビオン王国へ行ったのもお前のためだろう?」
「そうです。そうですけども!!」
「だから何でそんなにむくれている?」
「はァ〜、もう何でもないです!バカ……」
「俺がグローバル卿に劣情でも抱いて絆されたとでも思っているのか?」
「知りません!」
「俺が望んで彼女を物にすることはあっても、俺が彼女の虜になるなんてことは有り得ない。あれは自分を含めて駒として盤上遊戯を楽しむタイプだ。俺のことは強い駒くらいにしか思っていない。だから、強い駒を動かすには自分という駒を賭けるのが最善だと判断した。そんなところだ。契約でもしない限り、本当の意味で俺に従属する気なんてさらさらないだろうな。さっきも言ったように彼女が誰に、または何に忠誠を誓っているかという話だ。それは俺じゃない。あの国さ」
「そんなこと説明しなくてもわかっています!それでもお互いに駒として欲しているんですよね?報酬としてしっかりいただいちゃう気ですよね?契約しちゃう気ですよね?」
「それはまぁ、依頼を達成してからの話だ。まずは依頼に集中しろ」
「あっ、逃げましたね?逃げましたよね!?」
アマデウスとセレスティナは龍へと跨り、空の上で痴話喧嘩を繰り広げていた。
アルビオン王国でココ・グローバル侯爵との会談をした二人は、ココからある依頼を受けたのだ。
ココに世情について教わったあと二人はすぐに領主邸を後にすることなく、お茶会と称して極上の紅茶と幸せの味がするお菓子に囲まれて手入れの行き届いた美しいココ自慢の庭園で優雅な時を過ごしていた。たわいもない雑談からアマデウスの武勇伝など様々なことを話したが、会談の時とは違って終始、和やかな雰囲気であった。そんな中、始まったのが『ココのお願い 』だ。
「情報提供の見返りといってはなんですが、アマデウス様とセレスティナ様に一つ依頼をしたいのですが。勿論、報酬はお支払いします。どうか願いを聞き届けていただけないでしょうか?」
ココの真剣な眼差しにアマデウスは単なる気まぐれで持ち出した話ではないことを悟るも、同時に厄介事の匂いがすることも感じ取っていた。
「受けるかどうかは依頼の内容を聞いてからだな」
「わかりました。場所を変えましょう。お会いしていただきたい方もおります。依頼についてはその方を交えてお話し致します」
案内されてやってきた場所は書庫のようで代々グローバル家が収集してきた多種多様な書物がずらりと並んでる。
ココがその中の一冊を手に触れ、魔力を流すと仕掛けが作動する。歯車が回る音と共に書架がスライドして地下へと続く秘密の通路が開いた。
「この場所を知っているのは代々の当主とウォルターだけです。どうか内密にお願いします」
アマデウスたちが頷くとココは中へと入っていく。ふたりもそのあとに続き、進んでいくと3人に反応して内部に明かりが灯り、内部を照らしていく。魔力を用いた明かりが揺れる薄暗い隠し通路は少々埃っぽいがまったく使われていないというわけではないらしい。しばらくココの後ろを歩いていくと開けた場所にたどり着いた。そこには何処かへと続く転移陣が設置されていた。
「この先である方がお待ちです」
「転移陣ですね」
「その様だな」
グローバル家が固く守る秘密の場所に置かれた転移陣。興味深くはあるが、怪しくもある。アマデウスとセレスティナが二の足を踏んでいる間にココは転移陣の上に立ち、何処かへと消えていく。
「行くしかありませんよね」
「そうだな」
二人は覚悟を決めて転移陣に立つと、浮遊感と共に転移が始まる。セレスティナは咄嗟にアマデウスの服の裾を強く握りしめた。感覚としては一瞬のことだ。アマデウスは自分の使うくぐるタイプの転移とは違う跳ぶタイプの転移の感覚を久しぶりに味わい、なんとも言えない浮遊感に少し顔を顰めた。たどり着いた場所には転移していたココが笑顔で待っていた。
グローバル家の地下より転移してやってきた場所はなんともなんとも不思議な場所だった。周りを見回すと岩で囲まれた洞窟のはずなのだが昼間のように明るく、季節を無視して無数の花々が所狭しと咲き乱れている。何より空間を満たす魔力が異常に濃い。【聖域】と呼ばれる【ティシュトリア大森林】等と対をなす【魔境】と呼ばれる魔力濃度の特に高い領域に似ているが、魔境は総じて魔物の巣窟となっている危険地帯であり、この場所のような静寂と美しさとは無縁の場所といっていい。魔力濃度は魔境に近く、風景は聖域という凄まじく奇妙な空間だ。
「よく来たね。世界を股に掛ける大英雄にして問題児と類稀なる蒼き血の継承者」
今まで気づかなかったのが不思議な程の存在感。気品に満ちた眼差しを向ける純白に飾られた巨龍が花園の中央に優雅に寝そべっていた。
その声を聞いたココは、即座に跪く。アマデウスはその美しき白き龍から目が離せずにいた。
「ようこそ、我が住処へ。我が名はアルビオン。人がアルビオン王国と呼ぶ地を縄張りとし、守護する者さ」
尻尾を揺らして自己紹介をする龍こそ、王国の真の支配者にして、守護神として崇められる龍王アルビオン。
龍種の純血にして幻想種の頂点。選ばれし
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