第55.02話 シオンの心配事


 先日、イリスとテッサさんに盗賊の扱いや犯罪者の事についてよく説明されたので心配事が増えた。

 テッサさんのカレー販売が上手く行き、大金を持ち歩く人や商人の馬車などは泥棒や盗賊に襲われる可能性が出てきたからだ。


 街の中はイングリッドさん達が警備しているので比較的安全だけど、それだって事件は発生している。


 店頭からの万引き、街中でのひったくり、些細な事での殴り合いの喧嘩等。

 露店を使っていた頃は他人事、頻繁に毎日来る場所でも無かったので争い事に遭遇する事も無かった訳だが、露店を出店する側になった事でそんなシーンに遭遇する事が増えた。


 日本の時だって財布から数千円を奪うだけで相手に大怪我を負わせたりするような事件が起る、こっちの世界の方が何倍も物騒で危険な事は確かなのだ。


 テッサさんの露店が人気のカレー露店になった事で、犯罪者からは目を確実に付けられていると思った方が無難だ。

 一食、大銅貨五枚の商品が大量に売れているのは、犯罪者が物陰で客の人数を数えていればすぐにわかり一日の大体の売り上げだって把握できる。


「シオン様、売上金の管理についてお願いと言うか提案があるのですが、よろしいでしょうか?」

「急にどうしたのテッサさん」

「シオン様、サクラ様、イリス様の三人はアイテムストレージストレージ持ちでございますが、できればこの事は普段伏せて頂きたいのです」

「なんで、便利に良く使うけど問題でもあるの?」

「便利な所が問題なのです、一般のアイテムストレージ持ちの人はその事をほとんど口外しないのがこの世界の常識なのですよ」

「えっ? そうだったの」


「はい、便利故にアイテムストレージの中身を狙って盗賊や犯罪者に襲われてしまう事が多いのです」


「そうだよな、手っ取り早く大量の金品を奪うならアイテムストレージを持っている人を襲って、無理矢理ストレージから放出させれば良い訳だろ?」


「いいえ、もっと恐ろしい事になるのです」

「恐ろしい事って?」


「アイテムストレージを持っている人が亡くなるとストレージ内のアイテムは放出されてしまうのです、簡単には説明すると盗賊のアジトまで誘拐して、そこで殺されてしまうという事です」


 人前でアイテムストレージを使う人は、相手が信用出来る時や、実力者として他人に認められるようなレベル・ランクの人なのだとか。


 俺は魔獣がドロップアイテム化するのと同じ現象なのかと思い、恐ろしい現実を聞いてしまうと、アイテムストレージの事は隠した方が良いと決めた。


「では、売上金管理の方法に戻らせて頂きます」

「ああ、本題がこれからだね」


「イリス様のお話では共有ストレージと言われる物があるそうなので、売上金は共有ストレージに収納して頂きたいと思います」


「でも、それでもサクラやイリスが襲われる可能性はあるよね」


「はい、そこで伯爵家の紋章付きの荷馬車に1日1回必ず露店の前で止まってもらう事にしました」


「テッサさんのメイド仲間のお手伝いさんが来る時に良く見る荷馬車だね」

「表向き上は伯爵家の使用人が売上金を管理している事にしますので、現金目的で目を付けられる事は減ると思われます」


 こんな感じで実際の売上金はアイテムストレージに格納し、表向きは伯爵家にて管理されている事にする案で決まった。


 時々護衛人も付く伯爵家の紋章付の荷馬車を襲うほど馬鹿な盗賊や泥棒は居ないと考えたい。


 伯爵家の馬車を襲えばそれなりの報復がある事位は犯罪者達でも理解は出来るだろう。


 ・・・・


 最近では露店に来てくれる気の良い冒険者とも知り合いになり、テッサさん・イリス・サクラ目当てで店にやってくる人も居て、女性達を夜は家まで送ってくれるって人も現れるが丁重にお断りしている。


 店じまいの時間になると、専属の警備護衛担当がやってくるからだ。


「今日も有り難うね、ラスター君、ウインクちゃん」

「ウォン!」まかせとけの意味


 テッサさんが声をかけると二匹は元気に挨拶。

 今日はたまたま二匹でやってきたが普段はどちらか一匹だ。

 隠蔽偽装スキルのある二匹からすれば、街の人に気づかれず家からここまで来る事は簡単。

 サクラは二匹専用に焼いたナンをご褒美おやつにして、二匹はそれを貰うとおいしそうに食べている。


 二匹を見て襲って来るバカはいないと思いたい。


 現状考えられる最強の護衛だが、二匹が必ず来られるとは限らない。

 テッサさんが一人になった時の為の護衛も考えなくてはと思ったけど。


「シオン様、私の事は心配なさらずとも大丈夫でございます」

「なんで?」

「伯爵家の関係者に手を出す馬鹿者はまず居ませんので」

「でも心配だよ」

「ご心配ありがとうございます、でも本当に大丈夫ですのでご安心下さい」


 テッサ本人が強く大丈夫だと言っている事でシオンも引き下がるしかなかったのだった。


「テッサさんは大丈夫だと言っているけど、しばらくはラスターとウインクに送り迎えを頼もうかな」


 二匹が居れば、泥棒や盗賊の心配は無さそうだと思いたい。


 ・・・・


 シオンが知らない事。

 テッサの周りには何人もの伯爵家の人間がいる事だ。

 表向きには出てこないが、街の人に変装したマーキュリー家の人間がテッサをサポートしている。

 不審者はテッサに近づく前に何かしらの方法で処分なりが行われると考えられ、心配するシオンに対しテッサはキッパリと回答し、彼女には不審者が絶対に近づけないと認識していると思われる。

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