第55.5話 この世界では人が亡くなるとどうなるのか

 はじめに

 55話系の終わりです。

 結局うまく纏められませんでした。

 -------------------------------

 

 夜になり家に帰ると、テッサさんが夕食の準備中。

 イリスも手伝っているようで、彼女が料理を出来るとは思わなかったので少し驚いている。


 カレー露店の方はテッサさんのメイド仲間が応援に来ているので十五時以降の夕方の部は他のメイドさんが露店を運営中、テッサさんとイリスは家に帰って来るので、今日は俺とサクラが夕方の部をお手伝いして集金業務とかをやっている感じ。


「お帰りなさいませ、シオン様、サクラ様」

「ただいま」

「もうすぐ飯じゃ!少し待つのじゃ!」

「私も手伝うよ!」


 食事の準備は女性達にお願いして、リビングにある机の上を食事用に掃除しておく。


 今日は匂いからしてスパゲッティーとスープの組み合わせかな?


 スパゲッティーはこの世界にもある料理なので、日本から持ち込んだトマト缶ベースのソースで味付けしたスパゲッティーが食卓に並ぶのだと思う。


 厨房の方からとても良い匂いが流れてくると、空腹がその匂いに反応し音をならしていた。


「シオンよ待たせたな」


 大皿に乗った超大盛りのミートボールスパゲッティ。

 イリスはテーブルの上にガチャンと大胆に大皿を置くと、サクラがとりわけ用の小皿とフォークを用意。

 俺も厨房に行きスープ鍋とスープカップを取ってくる。


 今日メニューは野菜コンソメスープとトマトベースのミートボールスパゲッティ。

 この世界にもある標準的なメニューだが、こっちの世界では収穫出来る時期が違うトマトなので日本から持ち込んだトマト缶を使い、この時期にトマトベースのスパゲッティーを食べるのは珍しいのだとか。


 ・・・・


 食事が始まる前にテッサさんだけが祈りを捧げている。

 前々から思っていたが、イリスは特に何もせずテッサさんが祈り終わるのを待っていて、俺たちもそれと同じ感じ。

 

 日本人は宗教に関する考え方が薄いと言われるが、そんなことを言うと熱心な人に怒られそうだけど、願いごとで神社を使い、結婚式で教会、葬式はお寺。

 ヤマノ家はお葬式以外には特にこだわりが無いので俺やサクラも宗教に関心が薄い。


 高校卒業や成人するタイミングで友人を名乗る知らない同級生から宗教勧誘の電話やメッセージが入る事があるけど、こいつらどうやって俺の電話番号を調べたんだ?とか思うほど熱心な人は居る事はいる……。


 テッサさんを見ていて、この世界にも教会が存在しているから宗教はあると思う。

 宗教関係として神や死についてちょっと聞いてみる事にしたのだ。


「テッサさんは何にお祈りしているの?」

「私は聖魔霊神様や祖先にお祈りしています」


 先祖に感謝は日本でも良く聞く、ヤマノ家もお墓参りに行く。

 初めて聞く神様の名前、聖魔霊神と呼ばれる名前が出て来た。


「ほう、シオンたちは日本人とやらだからこの世界の神については知らんのじゃな」


 イリスがテッサさんの前で堂々と日本人と発言してしまう。


「ちょ、イリスさぁ」

「なんじゃ、マズかったのか?」


 テッサさんもこの微妙なやりとりを見て、俺達がこの世界の人では無い事を気が付いていたのかイリスの言葉で「やっぱりね」と表情に表す。


「シオン様とサクラ様の事ですね、申し訳ございませんがお二人が何か隠していた事は承知しております、いつご本人からお話があるかとお待ちしていましたのでご心配なさらずにお話し下さい」


「えっそうなの?」


「さすがに頻繁にドゥームグローブに行き来をして、見た事も無い道具や品物を持ってきますし、スマホの件でもイリス様には日本語と伝えられているのも聞こえてしまったのもありましたので、普通にこの地域の方では無い事くらいはわかります」


 とっくにバレていて隠していたのは無駄な苦労だったみたい。

 この世界に無い道具を持ち込んで、特殊な文字の勉強会にスマホまで渡せば簡単に推測できるよなと。


 話はそれてしまったけど元に戻す。


「えっと、聖魔霊神ってのは神様なのか?」

「人間族などの種族や魔獣を作りこの世界の仕組みを作られたとされています」


 日本とは全く違う魔獣がアイテム化する世界を作った神様か。


「俺達が日本人って事で話を進めるけど、魔獣を殺すとアイテム化するよな?俺達の住んでいた日本は生き物を殺すと死骸が残ってアイテム化しないのだよ」


 イリスはフムフムと聞いているので食事前だが話を続ける。


「この世界では人が亡くなるとどうなるんだ?」


 ここ最近の最大のテーマだ。


「普通は教会で祈りを捧げてもらい生きた証となります」

 これに答えてくれたのはテッサさんだ。


「えっ遺体を埋葬じゃなくて、生きた証って?」

「埋葬の意味がわかりませんが、私たちは魔核を残して体は聖魔霊神様の作った天界や魔界に召されると言われています」


 召されるって?遺体は残らないって事なのか?


「人は亡くなると少しの期間遺体となりますが、普通の人生を歩んだ方は天界へ、悪い事をした人は魔界へ行き、この世の体は消えてなくなります」


 天国と地獄みたいな考え方なのだろうけど、決定的に違うのが遺体の消滅だ。


「消えてなくなるって、魔獣とかと同じなのか?」

「魔獣と同じと言われると少し違う気もするのですが、この世界のは死を迎えると魔核を残して消えてしまうのです」


 えっと、声に出せないがイリスはミイラ化した状態だったよな。


「シオンよ、なぜ妾を見ているのじゃ」


「ただ例外がありまして、生に強く執着していたり死んでいる事に気がつかなかったり、他の特殊な事例が時々ありまして、その時は死後長期に遺体が残る事があります」


 実際は死んでしまった人の心境などわからない、生前「生き残りたい、絶対に死にたくない」とか不慮の事故で死んでしまったならありうる事なのかなと思うが、何かが原因で長期に渡り遺体が残る事があるようだ。


 さらに、この世界には死者を蘇らせるエリクサーなんて物まである。

 死んだ直後に死体が消えてしまってはエリクサーの存在意味が無い。


「教会ではそんな人達に対して、お疲れ様です来世を強く生きて下さいと言った感じに死を受入れさせる目的もあります」


「前にゴースト婆さんが出た時に”死後教会で手続きが必要”って話はその事だったのか」


「それに、あまり長く遺体を放置するとアンデッド化するしの……なぜ妾の方を見るのじゃ?」


 この家に現れたゴースト婆さんは死後教会で正式に手続きをしなかったのでゴースト化しているが、同時に地下室のイリスの魔力にも引っ張られてゴースト婆さん自身も性格がおかしくなっていた話。


 でもイリス本人はアンデッド化していない。


 あまり深く突っ込まない事にする。

 謎多き腹ぺこエルフ。



「一番気になる所だけど、盗賊を討伐するとどうなるんだ? あいつらは生きる事を放棄しているとは思えないから、討伐すると死体が残るよな」


「この世界には生前悪い事ばかりすると死んだ後に、すぐに消えてなくなってしまうと子供の頃から言い聞かされます」


「善悪値とも言うのじゃの、善の者が悪の者を倒すと、生に執着があっても死体が消えてしまうと言われているの」


 ただし、この事についてはこの世界の人でも上手に認識されていない。

 結局の所、魔獣は何故アイテム化するのか人は何故魔核だけ残して消えるのか、消えるまでの時間や条件については実際には不確定な部分が多いとされている。


 身近な所ではラスターとウインクが時々くわえてくる魔獣も生死不明だけどそのままの姿だ。

 魔獣が動かない状態で俺たちが攻撃するとアイテム化するし、俺たちと一緒に戦っているときはラスターとウインクの攻撃でもアイテム化する。


 サクラは知らないかもしれないが、ラスターとウインクは時々魔獣を食べている事もあるみたい。(ゴブリンはサクラに食うなと言われているので食っていないと思う)

 この時は得物として死んでいるのにアイテム化しない。


 街にいるときはアイテム化したバウ肉ブロックやバウ内臓セットを食べさせているが、ドゥームグローブ内で二匹が狩に出ている時は全てを把握している訳ではない。


 この話を考えると激しく混乱してしまう。


「盗賊の場合は世界から盗賊と決められた時点で討伐対象になっていますので、倒すと魔核を残して消えて無くなるのがこの世界の常識です」


 テッサさんは社会の敵と認識されている盗賊に関しては容赦なく討伐してほしいようで、凄く強めに言い切られたが「世界から決められる」って何だよ?って思う。


 俺とサクラがイマイチ話を理解できないような表情をしているとイリスがその疑問に答えてくれた。


「ステータス画面の職業欄の事じゃ、シオンとサクラは職業が勝手に設定されていないのかの?」


「そう言われれば、俺は剣士だしサクラは弓士を選択できたよな、今は一般人だけど」


「人間族なら職業欄、魔獣なら種族欄に(悪)が追加されると討伐対象になると理解しておけば良いのじゃ」


 本当にややこしい、善悪の判断って誰がやっているの? 聖魔霊神がやっているの? と思う。


 長くなったところで、イリスが話題を変える。


「さぁうまそうなスパゲッティーが冷めるのじゃ、飯じゃ飯!」

「あっイリス取り過ぎだよ!」

「イリス様、サクラ様、私が平等に取り分けますのでお待ち下さい」

「いや妾は腹が減ったのじゃ、大量に食うのじゃ!」


 こうして賑やかな夕食が始まった。


 テッサさんとイリスはこの世界の人は遺体が残らない事を簡単に話してくれたが、頭が混乱中。


 この世界の不思議な仕組みシステムをまた知ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る