第54.5話 カレーを売ろう その2
後日テッサさんのカレー料理店が露店デビューするが、街ゆく人の反応は厳しい。
昼前から準備を開始し、すでにカレーの良い匂いが露店街の一角に充満しているのだが……。
「変わった匂いがするな、ローレンスタインの高い店の付近で嗅いだ事がある匂いだ」
「カリーってあれだろ? ローレンスタインの金持ち達が食べる辛いヤツだろ?」
「高級料理で辛さが癖になるとかか? でも、あのテッサさんってのは伯爵様の使用人だよな、庶民とは金銭感覚がズレていてやっぱり高いのだろうな」
「伯爵様はカリーの材料が簡単に手に入るだろうけど、俺達に食える値段じゃねぇよな」
「匂いが特殊だよな、知らねぇ匂いだから味が想像出来ないぜ、本当にうまいのか?」
カレー自体は知られている感じだがとても高い食べ物の印象が強く、冒険者の人達には全く受入れられない。
昼時になると他の店は盛況だがテッサさんの露店には人がだれも近づかない。
時々覗き込む人も居るが茶色い正体不明の変な匂いのスープやパンの薄焼き見た事も無い白い物体を見ると、こちらの話も聞かないまま手を振りながら”こんなの食えねえって”感じで出て行ってしまう。
「店を開けても全く売れないのぉ、そんなに沢山あるなら妾に食わせるのじゃ!」
腹ぺこエルフが騒ぎ出した。
「おいおい、これは売り物だぞ食っちゃ駄目だ」
「シオンよケチな事を言うな、こんなに旨い物が沢山あったら、我慢できんのじゃ!少し位食っても大して変わらんじゃろ大丈夫じゃ、もう昼じゃ! 妾に食わせるのじゃ!!!」
露店の中で騒ぎ始めるイリスを店の前を通る人達が見ている。
騒いでいるのは超美人のエルフ。
エルフだとバレないように深い帽子を被って耳を隠しているが、ローブ姿でも隠せない大きな二つの丘や長い手足体型の良さと帽子の下の美しい顔付きに、道行く男性達の目はそこに止まる。
ついに冒険者の男からカレーについて聞かれたのだ。
「姉さん、そのカレーとやら美味いのか?」
「最高にうまいのじゃ! 妾はもう十日以上食っても飽きん、やみつきじゃ!」
目の前でお預けを食らっている飢えた狼のようなイリスが熱弁し、その表情を見た冒険者は、物は試しとカレーを注文する。
「じゃぁ俺も一つ貰おうか」
「妾はこのカレーうどんを勧めるのじゃ!」
「おう! じゃぁ姉ちゃんのお勧めを貰おう」
「テッサよカレーうどん一つじゃ! ついでに妾にも食わせるのじゃ!」
イリスは自分が食いたかっただけなのかもしれないが、テッサさんはカレーうどんを冒険者とイリスに出す。
「有り難うございます! 大銅貨五枚です」
「おお? ちょっと高いな、でも食ってみるぜ!」
露店の食い物は大銅貨三枚~五枚が相場だ。
イリスはうまそうにチュルチュルっとうどんをすすり始めているが、男はその食べ方を見ている。
高いと噂されている珍しい料理、カリーの値段が銅貨五枚で食べられるならと男も納得して金を支払いイリスをまねてうどんを口に運んでいく。
フォークでカレーうどんを食べる冒険者の男から喜びの声が上がる。
「うめぇ! なんだこれ、辛いと聞いていたがそれほど辛く無いがこの食欲をそそる香りと味はなんだ! 初めて食う味なのに止まらねぇぞ!」
「そうじゃ、うまいじゃろ! これがたまらんのじゃ」
イリスも食っているが冒険者もあっと言う間に食べ終えてしまう。
「しかし銅貨五枚のワリには量が少ねぇ、カレーは高いって話だがこれじゃ気軽には食えねぇな」
「そんなときの替え玉じゃ!」
イリスはにやりと表情を変え、このカレーうどんの醍醐味は替え玉だと存在を冒険者に伝えた。
「なんだ替え玉って?」
「茹でた麺だけをこのカレースープに追加で入れてくれるのじゃ! 妾は節約してスープは飲まんのじゃ」
「おかわりとは違うんだな、危なくスープを飲んじまう所だったな、よし食い足りねぇからその替え玉をもらおうか!」
「妾も替え玉追加じゃ!」
「替え玉一つ小銅貨五枚です」
冒険者はすぐに麺をすすりこむと、結局追加で替え玉を四つ注文して満腹だ。
「大銅貨七枚(日本円で七百円位)でこれだけ満腹になるなら安いぞ!」
未知の食べ物で食べ方や注文方法がわからないのも店に人が集まらない原因だったのかもしれない。
この様子を見ていた通りの人達が次々と集まり始め、初日にして店は大盛況となる。
替え玉2個で十分だとか、スープ一杯で替え玉10個まで食えるとか、冒険者ネットワークでおいしい食べ方まで口コミで広がっていった。
カレーうどんが先にファーストフードとして受入れられた事で、ナンカレーの方も抵抗なく売れていき、ナンカレー派とカレーうどん派で派閥まで誕生する騒ぎとなった。
何日か過ぎる頃には、フリッグの街は空前のカレーブームとなる。
簡単に食べられるカレーうどん、味が濃く酒のつまみにもナンカレー。
昼はカレーうどんが売れ、夕方になると、ナンカレーが売れるようになってくる。
夕方やって来る客に対して、ナンカレーは客達が自分のお椀を持ってくると自分の椀にカレーを注いでくれるので、ナンを食べたい枚数だけ購入する。
店のお椀を持っていくとお椀の保証金が取られるシステムだからだ。
あとはそのまま近くの酒場に行き夕食と一緒に酒を飲むつまみ風の食べ方だ。
酒との相性が良く、特にエールにはとても良く合い人気の定番メニューとなった。
こんな食べ方が流行り始めると数日のうちに大行列のできる店となってしまったのだ。
「シオン様、まさかカレーがここまで売れるとは思いませんでした」
「まぁバーモンドカレーだからね。万人受けするように調整されたカレールーだから」
「そのバーモンドカレーをもっと取り寄せる事は可能でしょうか? もう在庫がつきかけております」
一杯大銅貨五枚のカレーうどん
一食大銅貨七枚のナンカレー(大きめのナンが二枚付く)
替え玉は小銅貨五枚だか、追加のナンは一枚小銅貨十枚だ。
だんだんと売れる量が増えていき、現在では一日千食分ほど作っても完売してしまう。
ピーク時間帯は俺達やイリスがヘルプで入るが、そんな人数を回せる訳がなく今はテッサさんの仲間のメイドさんが二人ほど手伝いに来てくれていて露店をやりくりするようになった。
こっちの売り上げを金貨に変えて日本で現金化されバーモンドカレー業務用となってこっちの世界にやってくる。
こんな仕組みが出来上がるが、とにかくカレールーのコストが高かった。
このままでは利益が少ないと考えたテッサさんは研究で味を良くしてカレールーの使用割合を減らす事に成功すると、ガッポリ利益が出るようになってきた。
手伝いで来ている仲間のメイドさん達の給金はマーキュリー伯爵家から出ているが、テッサさんのお手伝いとしてテッサさんからもバイト代のような給金が出るようなるとお小遣い稼ぎ目的でマーキュリー伯爵家のメイドさん達が率先してやって来るようになった。
「シオン様! カレーで一財産作れそうですよ!」
カレー露店は大成功だ!
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