第52話 低ランクポーションの使い道

 AランクポーションやSランクフルポーション、それにクジに当たったかのようにエリクサーを入手し、B~Cランク治癒や回復ポーションも大量に入手している。


 こっちの世界に来てから大怪我することは無く、時々怪我のような怪我?の時にCやBランクの治癒ポーションを使う程度。

 打撲が痛いからとか、日本でも病院にかからないような症状で使う程度だ。


 魔獣との戦闘では防御力が働いているのか大怪我はせず、ヤバイと思ってもすげー痛い程度で済んでいる。

 でも自分でDIY中に軽微な怪我をする事があるので、自分自身を傷つけるような行為には防御力が無効になる感じ。


 そんなわけでアイテムストレージが使えない頃に集めたポーションが不良在庫のように部屋の片隅に山積みされていた。

 山積みされているポーションを見ながら、リビングのTVで自然番組系YouTubeを見ているイリスに聞いてみる。


「イリスさぁ治癒ポーションって本来はどんな使い方をするんだ?」

「飲んだり、怪我をした部分に振りかけたりする事で効力を得られる物じゃの」


 部位に吹きかければその部分が優先されて治癒し、飲めば体全体に作用する。

 俺が知っているのと同じだけど、日本には無い魔法の薬なので気になっていた事を聞いてみる事にした。


「例えば怪我していない人が使うとどうなるんだ?」

「生きている者はどこかに何かしら問題を抱えている物じゃ、そんな部分の状況が改善されるかの、まぁCランクポーションでは全快しないがの」

「それでも使い続けた場合どんな変化が起こるとか知らないのか?」

「シオンよ、治癒や回復ポーションが1本いくらすると思っているのじゃ、湯水のように使える物ではないから必要以上に重ね使いするような事はめったにないのじゃ」


 菓子をツマミながらあきれ顔で返答するイリス。


 でもこの世界にも常識外れな金持ちがいる。

 健康状態が悪くなれば俺みたいな考え方をする人も絶対にいるはずである。


「じゃぁドリンク剤代わりに飲んでも問題ないな?」

「ドリンク剤とやらは知らんが、かつて王族や貴族・大金持ちが必要以上に服薬をした連中がいたのじゃが、人間族は老年になると記憶に異常が出るようになっての、治癒ポーションではその症状は改善せんのじゃ」


「記憶に異常? なんだそれ」

「言った言わない、忘れた忘れていないとかが老年になると酷くなるのじゃよ」


「ボケの事か」


「一般的な人間族の寿命は50~60年程じゃ、時々それを超える者もおるが末期になると満足に話しも出来ん、それが王族や貴族のような権力者だと問題も起きたようじゃな」


 体は元気で頭がボケている、しかも本人は自分が一番偉い権力者で都合の良い設定は覚えていて、言った事はハッキリしているが次の瞬間には忘れている。


 その時の気分で命令を出す。


 そんなのが上に立ったら最悪だろうし、悪い側近に利用されたりとかもするだろうし。


 イリスは山積みポーションを眺めながら


「まぁ飲んでも毒でも無いし、相当マズイと思うのじゃが……好き好んで飲めるような物ではないじゃろ」


 ・・・・


 アイテムストレージに入れて死蔵しても仕方ないのでストレージ内にある在庫の一部であるBCランクポーション各種二百本を、使用説明書と共に日本の実家へ送る事にした。

 両親に定期的に使ってもらって健康でいて貰うためだ。


 送った翌日、母さんからBCランクポーション類を使っても良いのかとメッセージが来たので、過剰在庫品なので好きに使ってとメッセージを返す。


 森の家の方でアイテム整理が終るとこっちの世界で使えそうな道具や食料品類をアイテムストレージに入れてフリッグの家に戻る事にした。


 ・・・・


 フリッグの家に戻るとテッサさんが庭の掃除をしながら出迎えてくれた。

「ただいまテッサ!」

「お帰りなさいサクラ様」


 ガーゴイルを倒してすぐに帰って来る予定だったが、ガーゴイルの遺跡も破壊等で予定を変えてあっちの家に滞在してしまった感じになったので、次回からテッサさんにも連絡用スマホを渡しておくことにする。


 こっちの世界でもWi-Fiが使えるのでインターネットには接続が出来る状況だし、モバイル通信は出来ないから電話としては使えないけど、無料通信アプリは制限付ながら使える。


「シオン様達が使っている、この不思議な板を私にも貸して頂けるのですか」

「妾には無いのかの?」

「イリスは魔法とかで通話できないのか?」

「妾からならメッセージを送る事が出来るがの、お主らは通話系の魔法を覚えておらんじゃろ」


 一応通信魔法みたいなのはあるみたいだが、残念ながら俺達は使えない。

 初級編魔法みたいに簡単に覚えられるのか聞いてみたけど、まずは火魔法と水魔法をきちんと使えるようにしろとイリス先生の指導が入ったから、今はスマホで代用。


「じゃぁ、今度森の家に帰った時にみんなの分を手配するから、それまで待っててくれ」

「それは楽しみじゃの」


 テッサさんとイリスをヤマノ家グループメッセージに参加させより柔軟な対応が取れるようにしたいと思う。


 ・・・・


 フリッグの家に帰って数日後の事だ。


 パソコンなどのIT機器をセットアップ中にテッサさんから声がかかった。

「シオン様、お母様からメッセージのようです」


 フリッグの家に常設してあるタブレットにメッセージが入っていた


「母さんからメッセージか、なんだろう?」


 ”あなたから貰ったポーション、こっちの世界で大人気なの、追加もらえないかな?”


 意味有り気なメッセージが届いていたのだ。


 事の始まりはシオンの父が怪我をした事から始まる。

 シオンからSランクフルポーションを受け取った母はポーションをスプレーに入れ自分の手に噴霧した事で、家事による手荒れが一掃され傷一つ無い状態に回復した事で、父親の仕事中の事故による怪我に使用。

 これが一瞬で治癒する。


 シオン母はこの時別の事に気が付いていた。

 シオン父の肌荒れが改善し、シワが減っていた事だ。


 シオンの母は健康目的とは別に美容効果もあるのではないかと考えたのだ。


 後から送られて来たポーションを手以外の場所に使用すると、白人特有の顔のシミや紫外線によるシワが一掃されてしまう。


 若返りとは違うが生活環境によるダメージの改善。


 標高の高い地域に住む人は紫外線の影響で肌に受けるダメージが多いと言われる、長距離トラックドライバーのように片側の窓側だけ太陽に当たるような職業の人も腕などが左右で荒れ方が違うとも言われている。


 シオン母は生活環境のダメージの改善により若返りをする事は無かったが同年齢の女性と比べるとかなり若く見えるようになってしまったのだ。


 彼女は40代前半であるが、ポーション利用により見方によっては20代後半~30代前半と10年才以上若く見えるようになる。


 ロシア人であるシオンの母は元々美人であったが、若返ったように変わってしまった母の事を近所の奥様方が見過ごす訳もなくその秘密について問い詰められてしまう。


 困ったシオンの母は「ロシアの美の秘薬で昔から有る物」と意味有り気な返答をすると、ロシア人は美人が多いと固定概念が離れなかった奥様方はそれを疑いも無くあっさり信じてしまい、シオンの母に「秘薬を分けて欲しい」と頼み込む。


 シオンの母もロシアの知人から個人輸入しているので安易に配れないと話すと、金を払ってでも試してみたいと強く懇願され、近所付き合いもあるのでやむを得ず小さなスプレーボトルに小分けして販売を開始した。


 儲ける気はまったく無かったが、何度もリピートされると困るのでロシアからの輸入品である事を説明し、希少性が高くすぐに蒸発してしまうと説明し少し高値を付けた。


 ロシア秘術の美容スプレーとして、それを使った奥様方から


 手荒れが消える

 白髪が黒くなりはじめた

 シワが減った


 等の確実な効果が見られ口コミでどんどん広がっていく。


 ロシアの美の秘薬は絶大な効果ありと。


 奥様ネットワークでどんどん広がり、百均のスプレーボトルが数万円で飛ぶように売れてしまう。


 中には旦那のハゲが治ったと言われる美容以外の使い方も現れる。


 この噂を聞きつけたのがシオン父のネットワークだ。

 究極の育毛剤、ヤマノ家の育毛剤として近隣住民に知れ渡る。


 ヤマノ家周辺のおじさん・おばさん達が、おじさま、おばさまに変化し一気に見た目年齢が10年以上若くなり活動的になってしまったのだった。


 ・・・・


 母さん、日本であれを配っちゃったと言うか売っちゃったのかよ……想定外だぞ。


 今回の事でちょっと不思議に思った事があった。

 Sランクフルポーションやエリクサーは使わなくても小瓶から出した瞬間にどんどん蒸発して無くなってしまっていたのに、母さんは百均ボトルに詰め替えて配っている事だ。


「イリスさぁ、日本でポーションが大人気みたいだけど」


「どうしたのじゃ?」

「いや、ポーションってアイテム化している時の小瓶から移し替えるとすぐに消えて無くなるよなって思ってさ」

「高ランクの物はそうじゃな、即効性が必要じゃからそうなるのじゃ」

「ランクの低い物と違うのか?」

「Cランクになると即効性は無いからの、フタを開けても3~5日は大丈夫じゃろ」

「そんなに3~5日ってそんなに期間的な違いがあるのか?」

「細かく言ってしまうとCランクは粗悪品もあるでの、治癒魔法士の見習いが作った物と熟練が作った物では差が出るのじゃが、ポーションと言う括りでは同列じゃからの」


 一応、開封後の使用期間については母さんに連絡しておこう。

 あっちでトラブルが出ても困るだろうし。


「ところでシオン、空き瓶は捨てておるのかの?」

「空き瓶だから、多分捨てているよ」

「あれはあれで高価な物じゃニホンではゴミかもしれんが、こっちでは新たなポーションを封入するときに使えるでの、母君には捨てぬように言っておくのじゃ」


 ポーションの瓶も特殊な物でリサイクル出来る事が判明したので、母さんに連絡しておこう。

 ただ、あまり配ったりしないでねとお願いしておく。


 今は知り合い隣近所レベルで、しかも使用期限が短いから広い範囲には出回らないだろう、でも特殊な瓶ごとネットで転売されたら大変な事になるぞ。


 こんな薬が日本で認知されたら大騒ぎだ。


 考え直して母さんには無闇に売ったり配ったりせずに本当に必要な時に使うようにとお願いした。

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