Alleluia MOEluia BLuia!〜ポルティオ・パルヴィ

PAULA0125

一口目 あめだま

「雨降って地固まるって言葉あるじゃん。」

 珪藻土のマットの上で髪を拭いていると、ベッドでタバコを吹かしている兄が、ふとそう言ってきた。

「その言い回しは日本の諺だね。どの国にも似たような言葉はあるけど。」

「そそ。」

「それがどうかした? 外は雲ひとつないようだけど。」

 そう言ってベッドに手を着いて外を見上げる。メガネはかけていないが、たしかに雲ひとつない。風もなく、数日間雨が降っていないから、そろそろロスのコンクリート達が発奮しそうだ。

「へへ。」

 タオルを巻いた頭から、ピョコンと出ている2つの房を、ご機嫌に弄られる。ただの人間にはなんてことの無い角質層の塊だが、赤い血の代わりに黒いインクが流れ、人間の仕立てたスーツの下には、活版印刷で使われた沢山の紙が、人間の皮膚のように重なっている。

 その違いは、人間には分からないものの、「同類」には直ぐに分かるものだ。その意味で、彼の職種のような前髪には、それなりに神経が通っていると思って良いだろう。

「ふふ、冷静に考えると、お互い成長したよな。俺、あの時1200歳くらいだったし、お前なんて10年も存在生きてなかった。」

「そりゃから500年経ったからね。」

 シーツに埋もれていた腕を伸ばして、年の離れた弟の頭を少しだけ引き寄せると、昨日の夜一晩中降っていた、小さな赤い雨の水たまりがいくつもあった。

。」


 唇を暴くのではなく、寄せ合い微笑みを交換(かわ)すように。

 嵐のように剥ぐのではなく、しっとりとした優しい微風のように。

 激しく叩きつけるのではなく、小雨が大地を濡らすように。


 ―――神の愛が罪人にも雨を降らすように、今はお前の、キスが欲しい。

 ―――何百年と忘れていた、愛の証のキスの雨を。

 ―――何百年と溜まった膿を出し切るその時まで、自分の大地カラダは、犠牲者のナミダで濡れ続けるだろうから。


 それは、2002年のアメリカ。メディアがカトリックを裁く前日のことだった。


 

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