第3話 転校初日

「やぁ、おチビちゃん!今日転校してきたんだって?中々イケてるじゃねぇか!!」

転校初日。担任の先生に自分のクラスへ案内してもらい、無事自己紹介も終わり、1時間目を終え、休み時間に入っている今。ちょっと息抜きにと廊下へ出た途端…いきなり2年(だと思う)の先輩に絡まれてしまった……。

「は、はい。短咲凪沙と言います」

「凪沙か、いい名前だな!俺は2年の笹良輝一ささらきいち!困ったときは何でも聞いてこい!!できるかぎり助けてやるからな!!!」

「ありがとうございます…」

輝一先輩は、目を閉じていてもわかるドヤ顔で胸を張った。

迫力は半端ないけど…意外といい人そう?迫力は半端ないけど。

服装は乱れてる。傷も結構多くて、絆創膏や包帯をしている。なにかあったのか?

「ちょっと輝一、転校生の子驚いてるじゃない。そして声が大きい。もうちょっと静かにして」

「あ、叶愛!なんかごめんな!!」

輝一先輩は女の人の言ったことを聞いていなかったのか、振り向いて大きな声で返事をした。

同じ2年の人かな?綺麗な茶色の長い髪。身だしなみは、輝一先輩よりは整ってる。

「ごめんね驚かせちゃって。私はこいつと同じ2年の佐藤叶愛さとうかなめ。よろしくね」

「1年の短咲凪沙です。よろしくお願いします」

叶愛先輩は輝一先輩の肩を叩くと、にっこりと笑って自己紹介をした。相当強かったのか、叩いた衝撃で輝一先輩が「痛っ」と呟いた。

二人がやけに大きく感じるのは、僕が小さいからだろう。でも、それにしても大きい…身長どれぐらいなんだろう。今度聞いてみよう。

「じゃあ、僕はこれで」

「うん、またねー」

「ここには変なやつが多いからな!気をつけるんだぞ!」

「あんたが言うことじゃないでしょ」

僕は振り向いて、教室へ戻る。後ろから聞こえる二人の会話は、なんだか楽しそうだ。

一人で勝手にほっこりしながら、教室へ戻った。教室には読書をしている采和と、楽しそうに話している二人組がいる。

(本当に、あの二人仲良しだよな。僕も、あれだけ仲良くなれる人ができたらいいな)

教壇前で会話している女子二人組を見ながら、僕は席につこうとした。その時。

グラ

床になぜか落ちていた教科書に躓き、体のバランスを崩してしまった。

…なぜ教科書がここに?と考える前に、どうにかして受け身を取らないとという考えに頭がいっぱいだった。僕は何かあったとき用に、受け身の仕方を覚えている。だが、今回は体の反応が追いつかず、何もできなかった。

(やばい、転ぶ…!)

僕は転ぶと思い込み、目を瞑った。だが、体が床に倒れることはなく、途中で止まっていた。

あれ?と思い目を開けると、目の前には誰かの体があった。瞬間、背中の方で声がした。

「ふぅ、ギリギリセーフ。大丈夫だった?」

背中の方から聞こえるのは、透き通るような低い声。誰かが僕を庇って、転びそうになった僕を助けてくれたんだろう。

「うん、どうにか…ありがとう」

「そっか。よかったぁ」

ゆっくり体を起こすと、やっと相手の顔が見えた。

メガネに似合わない程しっかりした顔立ち、男子にしては少し小さめの背、きっちり引き締まった制服。同じクラスの針川リンはりかわりん君だ。

「まさか、こんなところに教科書があるなんて…僕も気をつけないと」

「誰だここに教科書置いたやつ。危ないな」

リンは少し怒ったような口調で言うと、教科書を近くにあった机に優しく置いた。怒っていても物は大切にする。そういう優しさがリンらしく、僕はまたほっこりする。

「本当にありがとう。おかげで転校初日から転ぶところだった」

「いやいや、凪沙君が無事で良かったよ」

僕はリンに感謝を何回かすると、しばらく椅子に座って雑談をした。

采和が僕と仲良くするリンを見て、リンに嫉妬しているのにも気づかずに…。

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