第2話 はじめての特許出願


「あいりす?」


 周りを見渡すが誰もいない。


『はい。アイリスです』


 声は俺の脳内に直接響いていた。

 不思議と不快感は無い。


 スマートフォンに搭載されたアシスタント機能と似たような感じだろうか。


 ただしスマホのアシスタント機能の機械的な音声とは違い、アイリスは本物の人間が話しているような自然な言葉だった。


 可愛らしい彼女の声に癒される。


『祐真様の固有スキル【特許権】の使用方法を説明希望とのことですが、お間違いないでしょうか?』


「う、うん。お願いします」


『承知致しました。ではまず【特許権】の概要について。このスキル保有者が考案した魔法の詠唱について “特許権” を設定することが可能になります。特許権が設定されたスキルは、他人が使用する際に制限がかけられます』


 魔法の詠唱に特許権?


「特許って、形があるものに適用されるんじゃ……」


 家電量販店で “特許取得済み技術を採用” って宣伝された製品を見たことがある。


『神が創り出したスキルですので、祐真様の世界で人間により定められた制度とは異なるのです。ただ、特許化の流れなどは人間の制度を模倣しています』


「なるほど。じゃあ俺が呪文を考えれば、それを俺の特許にできるんだ」


『その特許が “登録” されれば、そうなります』


 登録? なんでも特許化できるんじゃないのか。


「アイリス。例えば俺は初級の火魔法を使える。これは登録可能かな?」


『では、試しにやってみましょう。審査するための魔法詠唱をお願いします。省略はせず、全ての詠唱文を口に出してください』


「えっと……。“火の精霊よ、我が敵を焼け、火炎弾”」


 アイリスに言われたのでフル詠唱したが、この魔法は“火炎弾!”と言うだけでも発動可能な初級魔法だ。


『承りました。火炎弾の魔法詠唱を “特許出願” します。スキル【特許権】発動。“方式審査” を開始します。審査中……。正式なスキルによる特許出願であると査定されました。説明時間短縮のため、“出願公開” の実施を推奨します。承認しますか?』


「よ、よくわかんないけど、承認します!」


『承りました。出願公開を実施。スキル【特許権】保有者が出願者以外に存在しないため、“情報提供” の過程をパスします。続いて “審査請求” に移行します。出願人はこれを承認しますか?』


「承認します!!」


 なんかアイリスが早口で進めてくれてる。言葉の意味なんて全く分かってないけど、かっこいいから承認しちゃった。


『承りました。審査請求を実施。実体審査に移行します。現在、審査中……』


 よくよく考えたらヤバいな。


 これで火炎弾の特許が認められたら、俺以外の人はみんな火炎弾の使用を制限されるってことだろ? それって、めっちゃ強くね!!?


 この調子で全ての魔法を特許化しちゃえば、例えステータスが低い俺でも魔法で無双できるようになるんじゃないか!?


 女神様。俺にこの【特許権】をくれて、本当にありがとうございます!!



『審査結果が出されました』


 待ってました!

 これで火炎弾は俺だけの魔法だ!!


『審査の結果、権利化は “拒絶” されました』



「……えっ?」


 きょ、拒絶?


 それって、ダメだったってこと?


「特許にできなかったの?」


『はい。“新規性” と “進歩性” を有していないとして、特許申請が拒絶されました』


「しんきせい? しんぽせい?」


『新規性は “特許出願前に公然知られていないこと”、“特許出願前に公然実施されていないこと” を意味します』


「余計に分からなくなったんだけど」


『火炎弾の詠唱は既にこの世界で多くのヒトによって知られ、更に利用されているため特許化できないということです』


「えっ、じゃあ最初からダメって分かってたじゃん」


 俺が今いる古城に、初級魔法の詠唱が書かれた魔導書があった。魔法使い系の戦闘職になっていたクラスメイトたちとその魔導書を読み、魔法の発動を試していたので火炎弾が公然知られていることは明らかだった。


『その通りです。私はあくまで、例として火炎弾を特許審査してみせたまで。つまり、この世界で既に使われている魔法詠唱は特許権利化できません』


 マジかよ……。


 スキルで無双できるかと思ったのに、やっぱりダメなのかよ!


 この上げて落とすの止めてほしい。



「じゃあ、どうすれば詠唱を特許化できるの?」


『そのためには進歩性についても説明する必要があります。説明を聞きますか?』


「……お願いします」


 あまり期待せずに聞いておこう。


 例え使えないスキルだったとしても、俺はこの【特許権】に頼る以外の道が無いんだ。なんとか有効活用する手段を見つけてみせる。


『新規性があると認められた出願であっても、その魔法詠唱が “公然知られた詠唱の寄せ集めである場合” や、 “公然知られた詠唱の一部を改変しただけである場合” には権利が認められません』


「火炎弾に氷結弾の詠唱を混ぜたりするのもダメってことね」


『その通りです。加えて説明させていただくと、その魔法が発動できる詠唱でない場合も権利化ができなくなっています』


 えっと、まとめると……。


 誰かが知っていたらNG。

 誰かが使っていたらNG。


 既存魔法の組み合わせもNG。

 既存魔法の改変もNG。


 更に魔法が発動しないとNG。



 ──って、なんじゃそりゃ!!?



「こんなスキルで、どうやって無双すりゃいいんだよおぉぉおおおおお!!」

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