スキル【特許権】で高位魔法や便利魔法を独占! ~俺の考案した魔法を使いたいなら、特許使用料をステータスポイントでお支払いください~

木塚 麻耶

第1章 異世界で始める特許登録

特許登録編

第1話 スキル【特許権】


九条くじょう 祐真ゆうまさん。貴方に与えるスキルは……。こちら、【特許権】です!」


 抽選ボックスから女神様が紙を取り出し、そこに書かれた文字を読む。


 俺に与えられるスキルは【特許権】ってやつみたいだ。


 特許ってのは聞いたことあるけど、それが実際にどんなものかはよく分からない。


「あ、あの……。特許権って、どんなスキルですか?」


「わかりません」


「えっ」


「100年周期で私の世界に現れる魔王を倒すために、貴方たち異世界人をこの世界に召喚してスキルを与え、戦ってもらっています。これまでに何百回とスキルを与えてきましたが、これは私も初めて見ました」


 神様でも効果がわかんないスキルが、なんで入ってるんですか?


 他のクラスメイトたちは【剣技(極)】とか【高速魔力回復】っていう分かりやすいスキルばかりだった。


「勇者になる貴方たちに与える固有スキルは、私よりもっと偉い大神様が作ってるんです。だから効果はなんとか自分で理解してください」


「そ、そんな……」


 せっかく異世界に召喚されたのに。


 このシチュエーションをどれだけ妄想してきたか。


 それなのに……。


 

 なんで俺の固有スキルが【特許権】なんですか!!?


 こんなので、どうやって魔王と戦えと!?


「納得できません!!」


「スキルは全員に渡し終えましたので、私はこれで失礼しまーす。無事に魔王を倒せば、元の世界に還してあげます。皆さん、頑張ってねー」


「おい! ちょっ──」


 まだ文句を言いたかったのに、俺はクラスメイトたちと共に光に包まれた。



 ──***──


 それから3日後。


「やっぱり、ユーマは連れていけない」


 クラスのリーダー的存在、東雲しののめ みなとがそう言ってきた。


「……わかった」


 しぶしぶ了承する。


 戦う力がなかったのだから、そういう判断されても仕方がない。


 俺の戦闘職が魔法使いだったのだが、魔力が他のクラスメイトたちの1割程度しかなく、弱い魔法を数発撃つだけが限界だった。


「俺たちが魔王を倒してくるのを待ってて」


「このお城なら安全だって神様も言ってた」


 みんな俺を気遣って声をかけてくれる。


 でも俺が欲しいのはそんな気休めの言葉じゃない。


「な、なぁ。本当にみんな行っちゃうの? 何人かここに残ってくれても……。外はきっと危ないよ! 魔物もいるって言うし、盗賊とか、人間が敵になるかも!!」


 女神様によって送り込まれた初期位置であるこの古城から、俺以外の全員が出ていくという。俺は彼らを必死に引き留めようとする。



「それも考えたけど……、ごめんな。正直に言って、ユーマの固有スキル以外は全て魔王討伐の旅に必要だって判断した」


「それにみんなのステータスを見ただろ?」


「女子でもお前の十倍以上の防御力がある」


「ユーマを守りながら旅する方が、お互い危険が増えるんじゃないかってみんなで話あって決めたじゃないか」


「ユーマ君も納得してくれたよね」


「食事や生活に必要なものは届ける。私たちに、まかせて」


 物静かな図書委員の唯奈さんですら俺より強くなっていた。


 というより、俺が弱すぎた。


「み、みんな……」


「ユーマはここにいてくれ。俺たちが魔王を倒すから。そしたら、一緒に元の世界にかえろーぜ!」


 優しい。

 優しすぎる。


 俺はこんなに使えないのに……。


 思わず涙が溢れ出た。

 みんなの気持ちは嬉しい。


 だけど。

 それでも俺は。


 俺が異世界で活躍したかった!


 この世界でスキルを使って無双したかった!!


 獣人とかエルフとか、可愛い女の子たちに囲まれて『やれやれ、俺がいないとやっぱりダメだな』ってセリフを言ってみたかった!!


 なのに……。

 なんでこうなるんだよ。


 あんなに妄想した異世界召喚が、こんなのってあんまりじゃないか!!


 せめて仲間に追放される展開がほしい。


 あとでスキルが覚醒してして、元仲間に『ざまぁ』する展開が欲しかった!



 こんなに良い奴らが相手じゃ、『ざまぁ』できないじゃないか!!


 


「それじゃユーマ、行ってくる」


「……うん。みんな、元気でね」


 俺は古城に展開された結界の内側で、旅立っていくクラスメイトの背中をいつまでも眺めていた。



「あのー。九条 祐真さん?」

「あっ! 女神様!!」


 背後に女神様がいた。


「どうしたんですか!? もしかして、俺にくれたスキルが間違っていたとか? それで新しいスキルをくれるために来たんですか!? それから俺のステータスがおかしいんです! みんなよりすごく低くて……。これもミスなんじゃないですか!?」


 勝手な希望を抱いて尋ねた。


 俺の勢いに女神様は少しひいているようだったが、そんなことに構っていられない。今すぐ正しいスキルとステータスを貰えれば、クラスメイトたちを追いかけることができる。


「固有スキルは一度与えると、付け替えはできません。そしてステータスも間違ってはいませんよ。【特許権】を得た異世界人は、ステータスが低く設定されるみたいなんです。私はそれを伝えに来ました」


「…………えっ」


 な、なんでそんな絶望を与えるんです?


 アレですか?


 俺を闇落ちさせようとしてます?


 もっとも、女子にワンパンで倒される俺が闇落ちしたところで意味ないですけど!



「そのスキルは流石に意味が分からないと思うので、今は使われなくなった【ガイドライン】というパッシブスキルもおまけでつけてあげようかなって」


「ガイドライン?」


「えぇ。スキルの使い方を教えてくれるスキルです。最近の異世界人は、すまほげーむとかいうのでスキルの使い方を理解している方が多く、このガイドラインが勇者のステータスに組み込まれることは無くなりました。それを今回、特別に祐真さんに追加で与えてあげましょう! はい、与えました。では、私はこれで!!」


「えっ、ちょ──」


 俺が何か言う間もなく、女神様は姿を消した。



「ガイドラインって……。どうすりゃいいんだよ」


 また分からないモノが増えた。

 状況は何も良くなっていない。


「頼むよ、スキルの使い方を教えてくれるスキルの使い方を教えてくれ」


 お願いすること。


 それがスキル発動のトリガーだったのかもしれない。



 俺の脳内に声が響いた。



『始めまして。九条 祐真様専用ガイドライン、アイリスです』


 それは可愛らしい女性の声だった。

 

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