第2話
1週間後、朝イチで京子ちゃんと、地元の夏祭りを見に、出かけた。
祭りの屋台をめぐる彼女は一段と楽しそうだった。
着物をきてるからか、彼女が普段より、魅力的に見える。
ふとした笑顔にドキドキしてしまう。
だから、こう言った。
「京夏ちゃんの着物姿、すごく似合ってるよ」
「あはは、そうだろ? おっさんに喜んでもらいたくて、真剣に選んだんだぜ」
ほのかに顔を赤らめて、得意げに笑う彼女に、またドキドキが加速する。
気持ちを抑えきれなかった。
だから、夜になって、公園のベンチで花火を見てる時、彼女の手をそっと握った。
振り返る彼女の目を真剣に見つめた。
すると、彼女は微笑んで、僕の手を握り返した。
そして、情熱的な目で「いいよ、して?」と僕を誘った。
ごくりと唾を飲み込む。
ここは広い公園で、周りには誰にもいなかった。
僕は、何も言わず、彼女を抱き寄せた。
鼻先をこすりあわせ、彼女の唇を味わった。
すごく幸せだった。
彼女とする、初めての大事なキス。
忘れられない思い出になるだろう。
なのに、なぜか、思い出してしまった。
初恋の人とのキスを。
どうして、こんな時に、他の女のことを。
こんなの、京夏ちゃんに失礼じゃないか。
僕は初恋の人のことを、必死に頭から振り払おうとする。
目の前にいる京夏ちゃんのことだけを考える。京夏ちゃんに没頭する。
京夏ちゃんの唇をこじ開け、舌と舌を絡め合う。
彼女は少し驚いた顔をするけど、すぐに、嬉しそうにそれを迎い入れた。
ピチャピチャと、唾液が混ざり合う、水音がなる、
気づくと、僕は勃起をしていた。
彼女も気持ちよさそうに、時おり嬌声をあげていた。
そのことにすごくゾクゾクする。
もう京夏ちゃんしか、見えない。
そう思った瞬間、目に前にいる彼女と、初恋の人がダブって見えた。
ビクッと身体が震える。
最悪だ……。なんで、また。
混乱する。
京夏ちゃんとキスしてるはずなのに、初恋の人とキスしてると錯覚してしまう。
現実と幻覚の区別がつかなくなる。
京夏ちゃんと、初恋の人。どっちとキスしてるか、わからなくなる。
そこではっと気づく。
京夏ちゃんのキスの感触、時おりもれる嬌声、頬を赤らめた表情、男を求める女としての彼女はとてもよく似ていた。
僕の初恋の人に……。
背筋が凍った、
僕は慌てて、舌を引き抜いて、彼女から唇を離す。
「ど、どうした、おっさん? 」
突然の行動に、彼女は驚き、それから、しゅんと、落ち込んだ顔をする。
「私とのキス、あんまり良くなかった?」
今にも泣きそうな顔。
はっとする。
自分のしたことで彼女を傷つけてしまった。
僕はおろそろとしてしまう。
ああ、なんてことをしてしまったんだ自分は。
僕はは慌てて、手をぶんぶん振り、弁解する。
「そうじゃない、そうじゃない。逆だよ、逆。君とのキスがあまりにも良くて、どうにかなっちゃいそうだった。あのまま続けてたら、たぶん、自分を抑えきれなかった。公園で、それはまずいだろ」
初恋の人の件を抜きにしても、キスが良かったのは本当だ。
良すぎて、キスのその先までいってた可能性は充分にある。
だから、一応、嘘は言ってない。
「抑えきれないって、ああ何だ、そういう……」
納得してくれたのか、彼女はほっと胸をなでおろす。
それから、ゆっくりと笑みを作った。
「もーう、おっさんはえっちだな、頭中学生かよ?」
「ご、ごめん。えっちで……」
「いいよ、それだけ、私に魅力を感じてくれるってことだし……」
「寛容だね。僕は本当に、いい彼女を持ったな」
「あはは、大げさだなー、おっさんは」
互いの顔を見て、笑いあうと、濃厚なキスのあとで、喉が渇いたということで、飲み物を買いに、公園を出た。
そして、祭りの屋台がある場所を目指し、暗がりの一本道を歩いた。
彼女はすっかり機嫌を直したようで、嬉しそうに鼻歌を口ずさんでいる。
その様子にほっとすべき所だけど、今は他のことで頭がいっぱいだった。
彼女の前では、にこやかに笑い、平静に振る舞いながらも、内心は穏やかじゃなかった。
ごめん、京夏ちゃん、君の初めてのキスを汚して。
穴があったら、入りたい。
思いっきり反省したい所だが、今は気になることがある。
京夏ちゃんのキスの仕方。
初恋の人とやり方がまったく似ていた。
デジャブを感じた。
だから、キスしてる時、初恋の人を思い出したのだろうか?
だとしたら、似ているのはなぜ?
熟考の末、ある考えにたどりつく。
もしかして、京夏ちゃんと初恋の人は血縁関係にあるのだろうか?
同じ血を引いてる、家族だから、似ている部分があるのだろうか?
あろうるかもしれない。
そこで気づく。
そういえば今まで、京夏ちゃんの口から身内の話が出たことがないな。
意味深に感じてしまう。
僕は気になって、彼女にこう切り出した。
あくまで、さりげない口調で。
「そういえば、京夏ちゃんって兄弟いた? 君は何となく、末っ子って感じがするんだけど?」
まず、兄妹の話をとっかかりに、家族の話を詮索してみる。
「はは、何それ。あいにくと、私、兄妹はいないよ」
「うーん、違ったか」
「そういうおっさんの方はどうなんだよ? 兄妹いたの?」
「いたよ、5人兄妹だった」
「おお、それはにぎやかそうでいいじゃん。楽しそう」
「いいことばかりじゃないよ。下の弟の面倒とか、見なきゃいけなかったし、喧嘩もよくしたし」
「それでも、うらやましいな。家族との思い出があるって……」
深く感情のこもった声。
彼女は夜空を見上げると、静かに微笑みながら、つぶやいだ。
「私にはそういうのなかったから……」
「なかったって……どういう」
「私さ、家族いないんだよね」
「えっ……」
さらっと、そんなことを告げられ、耳を疑った。
家族がいない?
僕は涼しい顔をしてる京夏ちゃんをまじまじと見つめる。
すると、彼女はどこか遠い目をして、
「ちょっと自分の話していい?」
と、聞いてきた。
僕が思わず、首を縦にふると、彼女は目を細めて、語り始めた。
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