第12話 洞窟発見※


 クリーンライトの魔術を覚えた日から2日が経過した。

 昨日は何体かゴブリンや角が生えた兎の魔物などを倒した程度で、住居探しは進展していない。

 ただ兎の魔物を倒すと葉に包まれた肉を少量ゲット出来たので、昨夜は久々の焼肉を味わうことが出来た。


 そして転生してから4日目の今日だが、これまでと比べて魔物と遭遇する回数が減っていることに影治は気づく。

 数も減っているし、ゴブリンとの遭遇そのものも減っている。


「川を下りながら探してるが、下流にいくほど魔物が少なくなっている感じだ」


 魔物が少ないというのは、新しい住居を定める上でも重要ポイントだ。

 島で暮らしていた時は徐々に魔物の数が増えていっていたので、早い段階で拠点を作れていなかったら大変な事になっていた。

 しかしこれ位の魔物の量なら問題はなさそうだ。


「この辺で見つかればいいんだが……」


 この森はそれなりに起伏が富んでいて、時折高低差が激しくなっている場所がある。

 中にはそれが緩やかに変化せず、崖のような落差の激しい場所もあった。

 一度そうした地形を発見すれば、後は崖沿いにしばらく洞窟探しが出来るので、まずは大雑把に移動しながらそうした地形を探すことから始めていた。


「お……、あれは良さそうな穴だ」


 実はこれまでも影治は洞穴自体は何度か発見している。

 ただ穴が小さかったり、中に蝙蝠かなんかが住み着いたらしく、地面が糞で埋まっていたりと、中々お眼鏡に叶う物件が見つからなかった。


 とりあえず今見つけた物件洞窟は入り口部がかなり広く、大人でも入れるくらいの高さがある。

 この入口の大きさだと、内部の広さも期待できそうだ。


「足元をチェックしながら進んでみよう」


 以前は迂闊に中に入り込んだ結果、足裏が糞でべっちょべちょになってしまって泣きながら川に駆け込んでいた。

 汚いという認識とべっちょりした感覚のダブルパンチが効いたらしい。

 余りに糞が地層のように積もっていたので、掃除して利用しようという発想も出なかった。


「……結構深いな? 流石に光が届かんぞ」


 外はまだ昼間なので入口付近までは光も届くのだが、この洞窟はまだ奥にまで続いている。

 影治は一旦外に出て松明でも作ろうかと思ったが、ここで一つ閃いてしまう。


「そうだ、俺には魔術があるじゃないか」


 影治が最初に選択したのは回復魔術ではあったが、先日覚えたクリーンライトは発動時に光を発する。

 もっとも効果時間が短いので照明としては微妙だが、それなら照明用の魔術を開発してしまえばいい。


「単純に光だけ出せばいいから……」


 効果自体は明かりを照らすという簡単な魔術だと思われるのだが、やはり新しい魔術を試すときはそれなりの時間を要する。

 感覚的にクリーンライトよりは簡単そうなのだが、どうもイメージ通りにやっても上手くいかない。


 一時間程そうして試行錯誤している時、ふと照明のイメージを蛍光灯や懐中電灯のようなイメージではなく、光の球体としてイメージしてみる影治。

 すると、イメージ通りの明るい光の球体が現れ周囲を照らす。


「……初歩的な魔術だとは思うんだが、やはりどうしても時間がかかるな。それで……この魔術名は『光の玉』か。どっから情報を受信してるのか分からんが、名前があるってことは直方体にイメージしても……」


 一度【光の玉】を消して、今度は直方体の光をイメージしてみる影治。

 しかし形はそこまで大きな違いはないハズなのに、今度は上手くいかない。


「やっぱこれは俺が魔術を開発したっつうより、元からある魔術を俺が発見したって感じなんだろうな」


 そうなると、新しい魔術を覚えるには自分で試行錯誤するよりは、誰かに教えてもらうなり魔術書なりを読んだほうが手早く覚えることが出来そうだ。

 自分で1から見つけようとすると、大分時間がかかってしまう。


「ま、今はとりあえずこれでいい。とりあえずこいつをライトスフィアと名付け、これで奥を探ってみよう」


 再び【光の玉】改めライトスフィアを発動させると、影治は洞窟の奥へと進む。

 中に大型の動物が潜んでいることも考慮して、ライトスフィアを数メートルほど先行させる。

 この照明の魔術は、光の球体を自分の思う通りに動かすことも可能だし、長時間光らせ続けることも可能なようだ。


「む……これは骨か」


 洞窟は10メートルほど進むと行き止まりになっていたが、最奥部分は途中の通路に比べて更に広い部屋のような空間になっていた。

 影治が警戒したような大型の動物などは結局いなかったが、この部屋の中には動物の骨らしきものが幾つか散乱している。


「それにこれは毛のようだが……熊でもいるのか? この森は」


 周辺の森は南国風の植物が混じっているせいもあってか、いまいち熊が生息しているようなイメージはない。

 どちらかというと虎とか豹とかが住んでそうなイメージの森だ。


 だが部屋に落ちていた毛は、猿や狼の毛とはまた違うような気がする。

 もっとも影治も専門家ではないので、毛を見ただけでは……ましてや異世界の動物のことなど判別しようもない。


「なんにせよ、大型の動物が巣にしていた形跡はあるんだが、ここ最近は使われていない感じだ。うむ、ここを俺の住処とするか!」


 こうして居住場所を見つけた影治は、早速住環境の整備に取り掛かる。

 差し当たっては部屋内の掃除からだ。

 といっても中のものをポイポイと捨てる訳ではない。


「何の動物のものか分からんが、この骨は使えそうだ」


 部屋の中に散らばっている骨は、恐らくこの洞窟の主が食べた後の名残だろう。

 動物のものと思われる骨が幾つも散らばっている。

 影治は既にゴブリンからのドロップで、布と糸を入手している。

 この動物の骨を加工すれば、針も作れそうだ。


「なんせ原始時代でもすでに針は作られていた位だ。精密なものは無理だろうが、そこらにあるものを使えばなんとか作れるだろう」


 使えそうな骨を一か所に纏め、毛などは外へと捨てる。

 地味に10メートルくらいある通路部分の往復が面倒だが、元々骨以外は散らかっているという程でもなかったので、それほど時間もかからず簡単な掃除は終わった。


「そんでもって、最後に部屋のあちこちにクリーンライトをかけまくる!」


 影治が使ってる魔術はいちいち呪文の詠唱など必要なく、念じたままに発動することが出来る。

 ただこのように連続して使おうとしても、どうしても間隔があいてしまう。


 ここで影治は、改めて魔術の発動時のプロセスを自分の感覚で捉えてみることにした。

 まず最初に魔術を発動させようとすると、基点となる右手部分に魔力が集まる。

 そこから発動する魔術をイメージすることで、右手に集まった魔力が変質し始める。


 変質といっても、具体的にどうなっているのかは分からない。

 ただ元の魔力とは別の何かに変わっていく感覚は理解出来る。

 そしてその魔力が変質したものが、イメージと合わさることで魔術が発動する。


「って工程だと思うんだが、魔力を変質させるのもイメージと合わせるのも時間がかかるんだよな。詠唱がいらないからといって、ズババババーッっと連続して使えるもんでもない」


 そんなことを考えながら、部屋だけでなく通路部分まで念入りにピカピカしていく影治。

 こうして影治の洞窟での暮らしが始まった。





――――――――――――

12話 洞窟入口イメージ


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