第11話 結菜の十字架

クラスが何か騒がしい気がする。

その理由は明白だが.....まあそれでも迷惑なので先に言った。

俺はその事を鬱陶しく思いながら授業を受ける。

それから放課後を迎える。

そして嫁子と結菜に再会する。


「.....」


結菜はずっと眉を顰めて何かを考える仕草をしていた。

俺はその姿を見ながら、クラスマッチはどうなるんだろうな、と話す。

すると嫁子は、そうだね。クラスマッチは賑やかになったら良いよね、と笑顔になってから話す。

俺は、そうだな、と返事をしながら嫁子を見る。

そうしていると嫁子が結菜に聞いた。


「結菜。どうしたの?」


「.....何でもないよお」


「嘘だね。結菜がそんな感じで悩むのは物凄く難しい理由があるよね。昔から変わってないから」


「.....そっか。.....直ぐに分かっちゃうんだねぇ」


「分かるよな」


「そうだね」


そんな会話をしながら歩く。

すると立ち止まった結菜。

それから俺達を見てきながら、実はね、と語りだす。

そして先程の女子の本性を明かした。

あの女子はブルーノイズという不良グループのリーダーだったそうだ。

その子が一体何故今接触してきたかは分からないらしい。


「本名は何て言うんだ?アイツ曖昧にしたろ」


「.....あの子の名前は長野島子(ながのとうこ)だよ。私の.....親戚だね」


「.....親戚!!!!?」


「そう。親戚。私達は姉妹の様な関係だった。.....だけどそんな事も過去の話。島子が今、何をしたいのかは分からない。もしかしたら私の妨害をしたいのかもしれないけどね」


「妨害って何だ?」


「私は.....仲間が敵の不良仲間にやられてからそれで.....復讐をしに行ったんだけどその時に島子の仲間が私達の身代わりで角材で殴られてね。急性くも膜下血腫を起こしたみたいだった。.....その仲間がね。敵に囲まれていて.....必死に救ったんだけど.....その時の私の逃げない判断で病院に行くのが遅くなってしまってね」


「.....それは.....」


死んじゃったんだよねその子。

それが.....私がレッドピースを辞めるきっかけにになった1つかもしれない、と自嘲する様に石ころを蹴る。

俺はその姿を見ながら俺は眉を顰める。

嫁子もかなり複雑な顔をする。


「.....信じられない。相手の殴った人、殺人だよね」


「その犯人は捕まったけど。.....私達も.....色々と大変だった」


「.....その色々ってのは.....」


「そうだね。.....まあ例えば責められたとか。それ以外には島子と喧嘩したりとか」


「そうだったんだな」


「そうだね。結構暫く争っていたね」


それから蹴った石を拾ってから眺める結菜。

俺はその姿を見ながら、そんな過去があったんだな、と考える。

そして俺は顎に手を添える。

すると嫁子が、でも仕方が無いとは決して言えない。一人の命が失われた訳だから、と言ってくる。


「.....そうだねぇ。だからこそ1人のその命を背負って生きていかなければいけないけど。.....その中で島子は私を恨んでいるんだと思うけどねぇ」


「島子と和解は出来たのか」


「出来てないよぉ。.....和解のしようが無いから」


「それはそうだな」


「彼女が悪いのか私が悪いのか。今だに決着がついてないから。あの時、不良に囲まれて破滅寸前だったのは事実だし.....救える状況にあったっていうのにね」


「そうか.....」


うん。

だからこそ私は十字架を背負って生きていかないといけないけどねぇ、と苦笑する。

それから優しく石を戻した。

そしてまた自らを嘲る。

すると嫁子が、ねえ。結菜、と一歩を踏み出す。


「貴方のその罪は私も背負う」


「.....?.....それは.....ダメだよぉ」


「ダメじゃない。.....それは私にも出来る謝罪だと思うから」


「よーちゃんの浮気の疑いと私のこの色々な経験は大きさが違うでしょ」


「そうだけど。私は.....好きだから。結菜が」


「ぇ!?」


言葉に結菜は驚きの表情を浮かべる。

俺はその姿を見ながら嫁子を見た。

嫁子に出来る精一杯の事、か。

そう考えながら。


「なあ。結菜。俺もお前のその十字架を背負う手伝いをして良いか」


「え!?.....で、でも2人に悪いから.....私の事だしね」


「関係無いと思う。.....私達も手伝うから」


そう言いながら俺達は顔を見合わせながら結菜を見る。

という事は、だ。

今の明確な目標は優から島子に移った訳だな。

島子をどうにかしないといけない。


「.....良い幼馴染を持ったなぁ」


「結菜も大変だったな」


「そうだね.....」


「私は大変とかじゃないけどね。.....これが、当たり前、だって思っていたから」


言いながら結菜は少しだけ目を潤ませる。

それから少しの涙を拭う。

俺はその姿を見ながら結菜の頭に手を添える。

そして頭を撫でた。

そうしてからまた歩き出した俺達。


「.....」


当面の目標が定まった。

取り敢えずはどうなるか分からないが.....今の状況を打開しよう。

そんな事が頭に過ぎる。

せめて.....結菜が安心して暮らせる様に。

そう願いながら。

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