第8話 裕と優樹菜

嫁子と結菜と別れてそのまま帰宅してから俺はスマホを見る。

そこにメッセージが入っていた。

結菜からのメッセージだ。

読んでみると、よーちゃん。警察に行くって、と書かれていた。


「.....ああ。そうなるか」


思いながら俺はリビングに入る。

優樹菜が家事をしていた。

それから、お帰り、と言ってくる。

複雑な顔になった。


「その。大丈夫かな」


「まあ話し合いは出来た。.....有難うな。優樹菜」


「そっか。なら良かった」


「.....思った以上には深刻だ」


「深刻?それは500万円の?」


「そうだな。それだな。.....逃げた父親が背負っていたらしいけど」


500万円って返せないよね、と悲しげな顔をする優樹菜。

タオルで手を拭きながら、だ。

俺はその姿を見ながら、そうだな、と答える。

普通は返せない。

そうなると警察が動かないと意味が無い。


「取り敢えずは相談しに行くらしい。警察に」


「.....そうだね。先ずは1歩だね」


「正直その先の事はよく分からないからな。成り行きに任せるしかない」


「そう.....だね。取り敢えずは上手くいくと良いけどね」


それから俺は鞄を下ろしてから、麦茶あるかな、と聞いてみる。

優樹菜は、うん。冷え冷え、と笑みを浮かべる。

俺はその言葉に、有難う、と言いながら麦茶を入れて飲む。

冷え冷えだな.....。


「ねえ。お兄ちゃん」


「.....何だ?」


「よりは戻すの?」


「嫁子はその気は無いらしい。だから戻す気は無いな」


そうなんだね、と言いながらまた皿を拭き始めた優樹菜。

その姿を見てから俺は、優樹菜、と言葉を発する。

優樹菜は顔を上げてから俺を見てくる。

そして、どうしたの?、と笑みを浮かべる優樹菜を真っ直ぐに見る。


「優樹菜はどうしたい?」


「.....私は何か言える立場じゃ無いと思う。全てはお兄ちゃん達が決めて」


「そうか.....」


「うん。私は所詮は妹。今の状況はよく分からないし」


俺は顎に手を添える。

それから、手伝うよ、と動く。

そして皿を拭き始めた。

優樹菜は、有難う、と言いながらニコッとする。


「.....お兄ちゃん。私は良かったって思ってる」


「何がだ?」


「嫁子さんの無実が.....一応だけど分かったから。.....復讐って言った私は最低だね」


「あの時は仕方が無かったろ。どう考えてもな」


「まあそうだけど.....でも何も分かってなくて。気持ちも知らなかったから」


「.....」


俺はその言葉に目線をずらす。

確かにそれはそうだな、と思う。

でもそれを言うなら俺もそうだな、と思う。

ゴミクズだ、と思う。


「.....優樹菜。お前だけじゃない。俺もそうだ。何も知らないままだったから」


「お兄ちゃんも仕方が無いよ。長門が裏切ったんだから」


「それは友人が裏切ったから仕方がないと?」


「そう。信じていた人に裏切られたら普通は何も考えれなくなるから」


「.....お前もそうだったな」


「そ。そしたらヒーローが救ってくれた」


ヒーロー。

確かにな、とは思う。

あの当時は体力があったよな、と思う。

実の所だが優樹菜の生活は今は安定しているが。

昔はそうでは無かった。


「.....引き篭もっていたしね」


「.....発達障害.....だもんな」


「まさかの自閉症スペクトラムなんてね.....キツいよね」


「.....」


自閉症スペクトラム。

同じ事を繰り返したり、人間関係が上手くいかなかったり、独特な面があったり。

そんな感じの発達障害。


優樹菜はそれに該当する。

幼い頃は酷かった。

今はそんな面影はあまり見られないが。

当時は言葉が出なかったりしたのだ。

懐かしい記憶だ。


それでイジメられて俺が守ったりした。

音に過敏になったりして.....大変だったけど。

あの日々は懐かしいな。


「.....私はお兄ちゃんに恩返しがしたい」


「恩返しなんて要らない。俺は俺なりの独創を走っているから」


「その日々の手助けになればね」


「.....助けるべきは嫁子だ。.....そして結菜だと思う」


そうだね、と言う優樹菜。

でもそれだけじゃないでしょ、と俺の鼻に指を突いてくる。

俺は、?、を浮かべる。

お兄ちゃん自身の体も心配して、と俺に真剣な顔をする。

そして俺の手に触れた。


「お兄ちゃんはヒーローだ。間違いなくね。.....でもその分傷が付いている。その分の片方を救わせて」


「.....俺はヒーローじゃないさ。今はな」


「そうかな。今もヒーローだと思う」


そして笑顔になる優樹菜。

俺はその様子を見ながら笑みを浮かべた。

それから皿を置く優樹菜。

そうしてから、何か食べる?何も食べてないんじゃない?、と聞いてくる。


「.....ああ。そういえば昼飯を食べてなかった。迷惑が掛かると思って」


「じゃあ私が何か作ってあげる。サンドイッチとか」


「.....そうだな。じゃあそれで頼む」


「うん。じゃあたまごサンド.....とハムサンド.....を作ろうかね」


「作ろうかねってお前は結菜か」


「結菜さんに似てる?アハハ」


それから優樹菜は、じゃあ座ってて。作業していて良いから、と柔和になる。

そしてケチャップやらマヨネーズやらを取り出す優樹菜。

俺は言葉に甘えてから勉強しようと思っていると。

スマホが鳴った。


「.....うん?結菜.....って何じゃこりゃ」


そこには嫁子と結菜。

それから唯子ちゃんが写っている。

何か作った様だ。

酢飯の様なものがある。

俺はその姿に笑みを浮かべてから、楽しんでいるか、と送る。


「しかし手巻き寿司.....か。美味いかもな」


それから俺は勉強をする為に学生鞄を取る。

そして勉強を始めた。

そういや録画しているアニメも観ないとな。

そんな事を思いながら呟く。


「.....ヒーロー.....ね」


戦隊ヒーロー.....に憧れたあの時。

そして助けたあの日。

懐かしい記憶が巡る感じだ。

思いながら教科書を開く。

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