龍は千年、桜の花を待ちわびる
弥生あやね
序章
第零話 桜舞う
長い回廊を歩いていると、日差しの心地良さに青空を見上げた。
ふと、強く風が吹いた。
視界をピンク色の花びらが埋め尽くす。
「きゃっ。」
驚いて悲鳴を上げると、ケタケタと笑い声がした気がした。
--『まるで桜の精だな。』
そう言われた気がして笑いながら振り返るも、そこに彼はいなかった。
そうだった。
彼にはもう、会えないんだった。
丁度私の部屋へと続くこの回廊脇の桜の木の上が、彼の特等席だった。
「大丈夫ですか?」
「……えぇ。」
私は風で乱れた髪を手櫛で整えつつ笑みをこぼした。一緒に零れてしまいそうになる、涙を堪えて。
「さぁ、行きましょう。皇帝陛下が待っているわ。」
侍女を促し、止めていた足を動かした。
あなたが守ってくれたこの国で、幸せに生きてみせる。
もう、2度と会えない人。
私の、愛する人。
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