第53話 死なないマン
久しぶりに戻ってきた実家──ラブドリーム・ハチマンは随分と小奇麗になっていた。母親が俺の金で勝手にリフォームを行っていたようだ。恐ろしい……。
しかし、俺の部屋901号室だけは以前のままだった。PCを立ち上げ、懐かしい気分で部屋の固定カメラの電源をオンにして、その前に座る。
「あーあー。マイクテス、マイクテス。聞こえてますかー。久しぶりの配信で少々緊張しております! 死ぬ死ぬマンです!」
『えっ……』
『なんで配信してるの……?』
『幽霊……?』
PCのモニターには早速コメントが流れる。二年ぶりの配信なのにもう視聴者がいる。ありがたい限りだ。
「二年間の充電期間を経て、死ぬ死ぬマンチャンネルは帰ってまいりました!! しばらく田舎に居たので、東京の人込みが新鮮です! いやー、なんか変な感じだね!!」
「そうね。ちょっとそわそわする」
グミが流暢な日本語で返す。かつて赤く光っていた瞳は黒目になり、鋭い牙はもうない。すっかり人間である。
『グミちゃん……!? どうなってるの……!?』
『本当に人間になったの……!?』
『うおおおー!! グミちゃんグミちゃんグミちゃん!!』
『死ぬ死ぬマン、説明して!!』
『ラスボス戦で何があったの!?』
「そうですねー。新宿ダンジョンのラスボス戦のことを簡単に説明すると、視聴者の皆さんが見ていたのは幻です! カメラ越しにマルッと【幻術】に嵌められていたんですよねー。実際はサクッとドラゴンを倒してました!! いやー、久保の【幻術】すげーわ」
久保がカメラの前に顔をだし、照れくさそうに会釈をする。
『てめぇ! 久保!!』
『ふざけんなよ!!』
『嵌めやがったな!!』
『そんなこと、あり得るのか……』
『みんな生きてるってこと? マリナは!?』
視聴者に呼ばれてマリナも顔を見せる。
『みんな生きてる……!!』
『だめだ。泣いちゃう』
『よかった。本当によかった』
『涙腺崩壊だよ!!』
『タケシちゃん! なんで言ってくれなかったの!!』
『ちょっと待って。死ぬ死ぬマン、配信やめてどうやって生きてたの?』
「あっ、俺のスキルの件ですが新宿ダンジョンのクリア報酬で全て無効化してもらいました! もう視聴者がいなくなっても死にません! それに今はもう女の子にも触れますし、童貞確定じゃないです!!」
『まさか! 童貞捨てたのか!!』
『許せねぇぇ!!』
『裏切り者!!』
『グミちゃんはクリア報酬で人間化したってことかー』
『久保君はお母さん元気になったのか』
『あれ、マリナはクリア報酬でなにを?』
マリナはカメラの前で背筋を伸ばし、大きくなった胸を強調する。
『えっ!! まさか胸を……!?』
『確実に大きくなっている……』
『そんなクリア報酬の使い方あるのか……』
『おい待て! 死ぬ死ぬマン、マリナちゃんに触ってないだろうな!?』
『死ぬ死ぬマン、顔が緩んでるぞ!!』
『うおおおおおー!! 許せねぇ!! 俺が死ぬ死ぬマンを○す!!』
嘘である。マリナはクリア報酬で豊胸などしていない。単純にシリコン製のパッドをブラの中に忍ばせているだけだ。マリナがクリア報酬で願ったのは「八幡タケシがDライブのビルを破壊した事実の抹消」である。
勿論、マリナには相応の謝礼を払った。ラスボス戦までの間に配信で稼いだ金を全ぶっこみである。
マリナは「じゃあ、結婚式の資金にしますね! 派手にやりましょうね? 師匠!」と言っていた。とりあえず、まだ話は進んでいないが……。
「いや~この二年間、いい休養になりましたよ~。最初は一年で復帰しようと思ってたんですけど、ついついさぼってしまいました! アーカイブ動画の再生回数やばかったし、完全に不労所得で暮らしてました~。普通にラスボス戦を配信してたらこんな生活は出来なかったでしょうね~。我ながら天才的な閃きでした~」
罪と賠償金から逃れるための大博打だったが、結果上手くいった。大成功である。
『とんでもない悪党じゃねえか!』
『これからは配信復活するの?』
『他のダンジョンも攻略してほしい』
『スキルないならもう無茶は出来ないな』
「これからはマイペースにダンジョン配信します! といっても、ラスボス倒してかなりレベル上がったので! 割と強いです!」
四人でカメラの前に並び、ピシッと姿勢を正す。
「死ぬ死ぬマンチャンネルは本日をもって【死なないマンチャンネル】に名前を変更します! もう、死なないから、安心して見て下さいね!!」
深く礼をする。
顔を上げると、コメント欄は罵詈雑言と温かい言葉が入り混じり、物凄い勢いで流れていた。
「死なないマンチャンネル」、上々のスタートである。
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はい! 死ぬ死ぬマン、完結です。なんとか締め切り(2023/6/14)に間に合いました! これでデスゲームコンテストに応募できます!! ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!! 完全にノリと勢いだけで書いた小説でしたが、思ったより多くの方に読んで頂けて、本当に嬉しいです!! また、よろしくお願いします!!
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