第36話 ダンジョンボール

 投げられたのはダンジョンボール・レッド。


 地面に転がったオークの股間の辺りで弾けると──


「ア、アヒィィィ……!!」


 ──オークは聞いたこともないような悲鳴を上げた。見る見る間にイチモツが赤く腫れ上がる。


「小塚さん! あれはどんなアイテムなんですか!」


「ダンジョンボール・レッドは世界一辛いと言われる唐辛子の粉末が配合されたデバフアイテムです!」


「えっ! めっちゃくちゃヒリヒリしそう!!」


 打ち合わせ通りの台詞を吐く。


 オークは股間をフーフーしながら顔に怒りを浮かべた。はらわたが煮え繰り返っていることだろう。



『うっわ……痛そう……』

『オークがフーフーしてる!!』

『あんな声出すんだぁ……』

『めっちゃ怒ってる!!』

『オーク可愛いそーwww』



 肩を震わしながら立ち上がり、グミとマリナを睨み付ける。力を溜め、一気に駆け出そうと──。


「今です!」


 小塚さんの指示で俺はダンジョンボール・ブルーをオークの足元に投げる。すると……。


 ステンッ!! とオークは滑って転んだ。


「小塚さん! あれは……!?」


「ダンジョンボール・ブルーは海藻の滑り成分、フコイダンが配合されたデバフアイテムです! 摩擦係数が限りなくゼロに近くなります!」


 説明の間もオークは何回も転び、頭を地面に打ちつけている。



『あんなに転ぶ……!?』

『四つん這いで横に転んだぞ!!』

『痛そう……』

『ループ動画見てるみたいwww』

『笑い過ぎて腹いたい!!!!』



 やっとブルーの効果が切れたのか、オークが慎重に立ち上がった。散々転んだせいで、全身血まみれである。


「ブブブイィィィ……!!」


 もう怒ったぞ! と言った気がする。両手を前に突き出し、勢いよく走り出す。


「今です!」


 グミとマリナがダンジョンボール・イエローを投げつけた。オークは急に立ち止まり、自分の体を掻き始める。


「小塚さん! あれは……!?」


「ダンジョンボール・イエローは痒みを引き起こすヒスタミンが配合されたデバフアイテムです! 傷口から体内に入ると猛烈な痛痒感に襲われます!」


「小塚さん! ダンジョンボール・ブルーはまだありますか?」


「ありますけど。死ぬ死ぬマンさん、鬼畜ですね……」


 ダンジョンボール・ブルーを受け取り、再びオークの足元に投げつける。


 オークは痒みに悶えながら転び、悲鳴を上げた。



『なんだかオークが可哀想になってきた……』

『死ぬ死ぬマンを敵に回すと怖いな』

『あぁぁー! 見てるだけで痒い!!』

『ダンジョンボール……恐ろしい』

『タケシちゃん……! もうやめてあげて……!!』



「小塚さん! ダンジョンボールは素晴らしいアイテムですね! 強敵オークをあんな風にしてしまうなんて! 是非とも購入したいです!」


「小塚商会の商品は楽店市場で購入出来ます! この配信の後、一週間は二十パーセントオフで提供します! 視聴者の皆様、是非ダンジョンボールを!」


 そう締め括ったところで、俺達は転移部屋に向かって歩き始めた。小塚さんは忙しいので、いつまでもダンジョン居るわけにはいかないのだ。



『ちょっと! オーク放置するのwww』

『トドメさせよwww』

『流石にひどい!!』



 この後、新宿ダンジョン十二階のオークは人間を見つけたら逃げ出すようになったらしい。ダンジョンボールの功績である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る